そして、一つの長い即興によるセッションから抽出しトラック化してアルバムとなったものが本作「The Love Pretender」である。 前述の通り、経験、キャリア、技術が申し分ないレベルに達している音楽家たちが可能な、まるでテレパシーのように意思疎通。念入りな準備も必要なく、自然で有機的なパフォーマンス。構造化されていない自由な繭の中で、音楽的瞬間を表現したものを我々は受け止める。
アルバムのテーマにはオプティミズムが込められており、プロセスを信頼することで次に何が起こるかわからなくてもきっとうまくいくことを信じることが表されている。知らないことに慣れることは、安心する未来が訪れることの 肝であり、このようなエネルギーは音楽家たちが集まって成し遂げることには不可欠である。未知を受け入れ、未来を予測せず、今を生きるという、ある意味ニーチェの永劫回帰にも似た自己肯定が重要な鍵であろう。他方で、タイトル「The Love Pretender」には、偽りによって成功を手に入れることができる今日の社会で起きている変化/変革を暗示している。SNSで頻繁に眼に飛び込む表層的な情報や虚偽が起こす、何がリアルか何がフェイクかの判断、それらへの疑問が起こす危機。AIからプラットフォームに溢れる偽りのペルソナまで、「The Love Pretender」は我々が生きる時代を象徴的に語っている。かつては眉をひそめるようなことが現在では多くの世界、人々が歓迎するようになったこと。これもまた人生のサイクルの一部なのかもしれない。
Digital: 01. Society’s Man featuring Sylvain Luc 02. The Soloist 03. Uptown featuring Toku 04. Paris Roulette (Long Mix) 05. Shapeshifters 06. The Drive 07. The Power Of Miracles 08. Society’s Man (No Comment Mix)
Vinyl: A1. Society’s Man featuring Sylvain Luc A2. The Soloist B1. Paris Roulette (Long Mix) C1. Shapeshifters C2. Uptown featuring Toku D1. The Drive