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ビートルズ最後の新曲「Now And Then」をプロデュースしたジャイルズ・マーティン 制作の舞台裏語る

2023/10/27 18:14掲載
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The Beatles / Now And Then [Cassette]
The Beatles / Now And Then [Cassette]
ビートルズ(The Beatles)最後の新曲「Now And Then」をポール・マッカートニー(Paul McCartney)と共にプロデュースしたジャイルズ・マーティン(Giles Martin)が米PEOPLE誌のインタビューに応じて、この最後の新曲について、制作の舞台裏や自身の考えについて語っています。

「Now And Then」は日本時間11月2日午後11時にストリーミング・サービスを通じて全世界でリリースされ、その後、7インチ&12インチのレコードと限定版カセットテープでも発売されます。詳しくはこちら

ジャイルズ・マーティンはビートルズのプロデューサー、故ジョージ・マーティンの息子です。

ピーター・ジャクソンが監督を務めたドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』では、開発されたテクノロジーを使って、モノラル・サウンドトラックをデミックスし、楽器とヴォーカル、そしてザ・ビートルズの会話の中の個々の声を分離することに成功しました。

このテクノロジーは最後の新曲「Now And Then」でも使われ、ジョンのオリジナル・ホーム・レコーディングをデミックスし、ピアノの音と、ジョンのヴォーカル・パフォーマンスを分離することに成功しました。

ポールの近年のライヴでは、ジョン・レノンとのバーチャル・デュエットが行われていますが、これもこのテクノロジーを使って実現したものでした。

ジャイルズはインタビューでこう話しています。

「この曲を完成させたのは、ほとんどのビートルズの曲がそうであるように、ポールの主導によるものだった。ポールは自分のツアーでジョンの歌を(ステージで)使いたいと思っていたので、ピーター・ジャクソンと仕事をした。その後、ピーターに“Now and Then”のテープを送り、ピーターはそれに取り組んだ。ポールもトラックを作り始めて、彼が持っているものを僕に聴かせてくれた。その後、僕たちはこれについて話し、それが僕が関わるようになったきっかけになったんだ」

リマスターやボックスセットの監修に10年以上を費やしてきたジャイルズですが、ビートルズの新曲に参加するのはまったく違うことだと認めています。

「正直に言うと、ジョンとジョージをリスペクトしなければならないから、リミックス・プロジェクトの時よりも、この曲をやる方が怖かった。彼らは今はいないけど、この曲で演奏している。僕の仕事は、この曲をできる限り良いものにする手助けをすることだった」「ストリングスを作っているとき、本当に面白かった。ポールと一緒に座って“ジョージのリズムを聴くんだ。ジョージのリズム・ギターをリスペクトしないといけない。彼は確かなものを演奏している。ストリングスはそれをしっかり拾わなければならない”と言われた。ポールは、みんなのアイデアにまとまりを持たせるのがとてもうまい。彼は“みんながここで何を言おうとしていたのか、そしてそれがすべて一緒であることを確認しよう”と進めていくのがとてもうまいんだよ」

ジャイルズにとって最大の挑戦は、30年以上にわたり、全く異なる環境で、全く異なるテクノロジーを使って録音されたテープから、一貫した録音を行うことでした。それを実現するために、彼は2006年のビートルズの“マッシュアップ”アルバム『LOVE』の制作で培った技術を駆使しました。

「ビートルズの他の曲のバッキング・ヴォーカルをいくつか加えて、一貫性を持たせ、ビートルズらしいサウンドになるようにしたんだ」

「Because」「Here, There & Everywhere」「Eleanor Rigby」のオリジナル・レコーディングのバッキング・ヴォーカルを使いましたが、当初、ポールは神経質になっていたという。

「ポールにこの話を(最初に) したとき、彼は不快感を示していた。再構成だからね。でも使命があったんだ。ジョージとジョンはここにいない。ジョージ、ポール、ジョンが一緒に歌うという第1級の3パート・ハーモニーを得ることができなかった。サウンドはある。だから、“彼らなら、きっとここでウーとかアーとか入れだろうから......同じキーのものを探して、それを使おう”となったんだ」(この曲には、さらにポールとリンゴ・スターが2022年に録音した新しいバッキング・ヴォーカルで厚みを増している)

この再利用を除けば、他のすべての音はこの曲のために特別に録音されたもので、しかも人間によって録音されたものです。ジャイルズは「Now and Then」が人工知能によって作られた合成トラックで完成したかのような初期の報道に対して反論しています。

「ここにはAIはいない。ヴォーカルの抽出はある。それ以外は完全に生演奏だ」

ジャイルズによると、「Now and Then」では、リンゴのドラミングをコンピューター化されたタイムキーパーに合わせるという、現代のスタジオの標準的な手法さえ採用していないという。

「僕たちは、彼らがプレイしていたであろうやり方を守ったんだ。ビートルズには鼓動があった。4つの心臓が異なるリズムで1つに鼓動していた。それを維持することが本当に重要なんだ。この曲には、もろさがある、それはそこにあるべきものだ。そのもろさとは人間的な部分。何もかも消し去ろうとすると、とても味気ないものになってしまう。このプロダクションで重要なのは、人間らしさを奪うようなものを加えないことだった」

ジョンが書いた「Now and Then」の歌詞には

And now and then
If we must start again
We will know for sure
That I love you

そして今も昔も
もう一度始めるなら
私たちは確かに知るだろう
愛していることを

という部分があるという。

ジャイルズはポールにこの曲の歌詞の意味を確認していないそうですが、こう話しています。

「“Now and Then”はジョンが書いたポールへのラブレターのような気がする。ポールが“ああ、間違いなくそうだ”と言うかどうかはわからない。彼はジョンのことを根拠なしに勘ぐりたくないだろうから。でも、僕にはそう感じられる。だからこそ、ポールはこの曲を完成させることに執念を燃やしたんだと思うよ」

結局、ビートルズは何を言いたかったのだろうか? ジャイルズによると、「友情」という答えがぴったりだという。

「険悪なビートルズを描こうとした『ゲット・バック』でも、彼らがお互いに抱いている愛情や、お互いを必要としていることがわかる。様々な理由から分裂は起こるべくして起こったけど、それがどれほど辛いものであったかを感じ取ることができる。どちらも、もう一人のジョン・レノンやポール・マッカートニーを探すことはなかったと思う。彼らはそんな人はいないと思っていた。だから、これはポールへのラブレターのように思えるんだ。

これがビートルズの最後の曲のような気がする。もしビートルズ全員が生きていたら、今これをやっていたんじゃないだろうか。その方がよりリアルだと思う。人々の心に響くことを願っています」