トランプ関税が音楽関連グッズ・ビジネスに与える影響について関係者が語っています。最も懸念していることのひとつは、トランプ大統領が中国製品に課している145%という巨額の追加関税。企業やアーティストは解決策を模索していますが、不確実性により、あらゆる決定が困難になっていると明かしています。米ビルボード誌の特集より。
MIDiA Researchの推定によると、音楽関連グッズ・ビジネスは全世界で134億ドル規模だという。
アイアン・メイデンやガンズ・アンド・ローゼズなどと契約しているGlobal Merchandising Servicesの会長であるバリー・ドリンクウォーターは「中国が選択肢でなくなった時点で、生産能力不足によりコストが上昇するだろう」と述べています。
30人のアーティストと契約しているAbsolute Merchのようなアーティスト関連グッズ会社は、トランプ政権による中国関税の最終的な数値を予測し、生産を別の国に移す方法を見つけようと奔走しています。Absolute Merchは、中国への発注をキャンセルし、米国内で生産を行いとも考えていますが、スタジアム級アーティストの今後のツアーに関しては納期が迫りすぎており、またAbsolute MerchのCEO兼共同創業者であるビリー・キャンドラーは「アメリカでは無理。ここでは生地をほとんど作っていないんだ」とも語っています。
アーティストやマーチャンダイズ会社は、関税による追加コストを顧客に転嫁するのでしょうか? キャンドラは、価格を上げる以外に選択肢はないだろうと述べ、貿易戦争が続けば、パーカーが150ドル(約2万1千円)、Tシャツが65ドル(約9,300円)に値上がりする可能性があると推測しています。
カリフォルニア州コスタメサで30年にわたりアーティスト向け商品の製造を手がけてきたケビン・ミーハンは「これは誰もが影響を受けるでしょう。世界で使われる装飾品の90%は中国製です。ファスナー、ボタン、スナップ、ドローコード、ハトメなど、アパレル製品に使われるあらゆるものがそうなのです」と指摘しています。
ラテン系やK-POPのスターと仕事をしているナッシュビルのベテラン音楽マーチャンダイザー、アンディ・ステンスラッドは「カスタム・アパレルに関して言えば、中国は納期と価格で他のどの国よりもはるかに優れています。私たちはあるバンドのためにカスタムメイドのホッケー・ユニフォームを作りましたが、10日で仕上げてくれました。これには誰も太刀打ちできません」と述べています。
現時点では、米中間の関税問題が変動する中、音楽関連グッズ業界の多くは冷静な対応を保っています。
2016年にロサンゼルス・アパレルを設立したアメリカン・アパレルの創業者ドブ・チャニーは以前から、高額な関税を考慮する必要のないホンジュラス、エルサルバドル、中米からTシャツなどの衣料品を調達しているという。
またチャニーによると、Tシャツは卸売価格が低く、高額な費用は輸送やデザインなど、関税による影響を受けにくい部分から生じるため、たとえ中国製品であってもTシャツが1枚あたり5ドルか10ドル以上値上がりする可能性は低いと付け加えています。
独自のマーチャンダイジング事業を展開する、ハードロックバンドのオーガスト・バーンズ・レッドのギタリストであるブレント・ランブラーは、長期的にファンを失うリスクを冒してまで「積極的に値上げ」することはないと述べています。同バンドのTシャツはバングラデシュ製で、マグカップは中国製ですが、1個あたり1.50ドルから2ドルの製造コスト増が消費者価格の上昇につながる可能性は低いと述べています。「顧客を遠ざけるようなことはしたくない」。
関税の影響は、特に、ストリーミング収入で生計を立てることができず、グッズ販売に頼らざるを得ないアーティストには深刻です。
エモバンドのペット・シンメトリーのフロントマンであるエヴァン・トーマス・ワイスは、段ボール箱にグッズをいっぱい積み込んだバンでセントルイスからカンザスシティに向かう途中、電話取材に応じました。ワイスによると、Tシャツ1枚のプリントに13ドルから15ドルを支払い、さらに輸送費やその他の経費がかかるという。それをライヴ会場では30ドルで販売して、ようやくわずかな利益を出している状況だと語っています。関税によって生産価格が20%でも上昇すれば、ファンはTシャツ1枚に40ドル(約5,700円)も払わなければならなくなるかもしれません。「そんな値段になったら、ファンが買ってくれるのかどうか分からない」とワイスは語っています。同バンドのギタリストであるエリック・チャジャは「小さなバンドにとって、本当に厳しい状況だ。いざとなったら、メンバーの誰かがスクリーンプリントのやり方を学ぶしかないだろうね」とも語っています。