ボブ・ディラン(Bob Dylan) の録音の中で現存する最古のものであると言われているのが、1961年9月6日にニューヨークのガスライト・カフェで行ったパフォーマンスを録音したライヴ音源。そのテープは後にブートレグとして出回り、オリジナルのマスター録音が現在オークションに出品されています。録音したのは、ディランの最初のマネージャーだったテリー・タール(サール)。タールは、Ultimate Classic Rockの新しいインタビューの中で、ディランに初めて会ったときの印象、ガスライト・カフェのテープについて逸話を語っています。
Q:ディランに初めて会ったときの印象を覚えていますか?
「私がボブに会ったのは、1961年に彼がニューヨークにやって来たとき。私が20歳か21歳くらいの時ね。私は彼より一歳年上だった。
ボブの第一印象? 非凡な人だと思った。彼は偉大なギタリストでもなければ、偉大なシンガーでもない。ステージでは、どこかぎこちない感じだった。しばらくして、チャーリー・チャップリンを見ていることに気づきました。彼には何か魅力的で記憶に残るものがあった。それが私の第一印象でした。私は彼を“ある種の特別な人”だと思いました。私は“天才”という言葉は使いません。なぜそう思ったのかはわかりませんが、そういう感じだったのです。
当時一緒に住んでいて、後に私の夫となり、私がマネージャーをした人はフォークシンガーだった(デイヴ・ヴァン・ロンク)。ある晩、彼が帰宅して、“今、ある若者の演奏を聴いてきたが、彼は天才だ。君も彼の演奏を聴きに行くべきだ”と言ったので、翌晩、私はカフェ・ホワットに駆けつけて その少年を見ました。私が彼を天才だと言ったかどうかはわかりません。でも、フォーク・ミュージック界の人々の反応はそんな感じでした。
当時のフォーク・ミュージック界は、お互いを支え合うような世界でした。人々はお互いに気を配り、教え合い、お互いを推薦し合い、お互いのことを自慢し合っていた。そして、ボブはフォーク・ミュージック界で、私が思い浮かぶ誰よりも多くのフォークシンガーたちから、即座に支援を受けていました。
私は彼が特別だと思っていました。独特だと思っていました。そして、私たちはすぐに友人になりました。デイヴ、ボブ、そして私は、すぐに一緒にいることが多くなりました」
Q:1961年に録音したディランのテープについてですが、そのテープを人々に聴かせた時の反応について教えてください。
「私はそのテープをレコーディング・スタジオに持ち込み、小さなカセットテープか何かを作ってもらいました。それが、いつの間にかブートレグが出回るようになった原因です。おそらく、レコーディングスタジオが誰かにそのテープのコピーや複製を作らせたのでしょう。そのテープは最終的には、ひどい音質のブートレグとして出回りました。
ほとんどの反応は“ジャック・エリオットを雇えるのに、なぜこの男を雇わなければならないのか?”というものでした。ジャック・エリオットはフォークシンガーで、同じくユダヤ人で、偶然にも名前を変えて、ウディ・ガスリーに似た声をしていました。私が、マサチューセッツ州スプリングフィールドのクラブのオーナー、ケンブリッジのクラブ47のオーナー、フィラデルフィアのクラブのオーナーから得た反応はまったく同じでした。“ジャック・エリオットを雇えるのに、なぜこの若者を雇わなければならないのか?”
(それに対して、あなたはどう答えましたか? “わからない。でも、彼は良いのよ”とでも答えましたか? )
そう、それが私の反応でした! 私の答えもそれでした。彼はウディ・ガスリーを真似ているだけのミュージシャンではありません。(ガスリーの楽曲は)彼が演奏する曲のほんの一部です。本当に他に何を言えばいいのでしょう? この若者は非常に成功する可能性があり、あなたは彼を紹介した人の一人になりたいと思うでしょう、とか」
Q:あなたは当時、彼の可能性を強く信じていました。ディランは83歳の今でもワールドツアーを行っていますが、1961年当時、そのようなことが予測できたのでしょうか? 彼が成功を収めると思っていたのでしょうか?
「そんな風には思っていませんでした。私たちが知っている人が、あそこまで有名になるとは予想できませんでした。誰も予想できませんでした。誰もです」
Q:ディランについて、人々が知らない、あるいは理解していないと思うことのうち、知っておいてほしいことは何ですか?
「彼はとても面白い人物で、非常に賢いユーモアのセンスを持っているということ...公の場で他人をけなすような発言やインタビューでの受け答えなどは、彼なりのユーモアの表現方法なのです。私が今まで会った誰よりも、ボブは並外れた記憶力を持っています。ボブは何かを耳にしたり、目にしたものを読み取ったりすると、何かを実行したりすることができますが、それは非常に珍しいことだと思います。彼はその情報や知識をすぐに自分のものにすることができます。また別の部分を取り出して、20年後に使えるように頭の奥にしまっておくこともできます。そして、そのうちのいくつかは完全に捨て去ることができます。それこそが、ディランという人物を特徴づけるものの一つなんです。彼はそれを引き出すことができる。切り離すことができる。使えるのです。それは非常に稀な才能だと思います」
Q:ディランのファンの方にも、そうでない方にも、ガースライトのテープについて知っておいてほしいことはありますか?
「このテープは、自分自身を見つけ、あるいはプロとして自分自身を考えるようになったばかりの人物による、意図的な公の声明を表しています。彼は収録曲を選び、そのセットを行うことを選びました。そして、彼がやったことのミックスは、ある意味で興味深いと思います。
それを聴くと、彼の“Song to Woody”を聴くことができます。それはボブが歩み出て行った世界です。彼は自分の理由でそこを去りましたが、私にとってはとても感動的なんです。それは彼の真実であり、当時の彼の真実だったからです。だから、それは残ったと思います。おそらくウッディの英雄崇拝としてではなく、その曲が表していたものとして。それは今でもボブの現実の一部として残っていると思います」
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