すべてのミュージシャンは歳を取りますが、ドラマーは肉体的な仕事であるがゆえに、独特の難題に直面します。英ガーディアン紙は、
ディープ・パープル(Deep Purple)の
イアン・ペイス(Ian Paice/76歳)、
ザ・ダムド(The Damned)の
ラット・スケイビーズ(ラット・スキャビーズ/Rat Scabies/69歳)、
セックス・ピストルズ(Sex Pistols)の
ポール・クック(Paul Cook/68歳)という、70歳前後になっても激しいライヴをこなすロックのドラマーたちにインタビュー。今、長時間のライヴをどう乗り切っているのかを尋ねています。
フィル・コリンズやX JAPANのYOSHIKIなどもそうですが、長年のドラム演奏の影響で痛みを抱えているドラマーは多くいます。手の関節リウマチを患っているだけでなく、脳卒中にも見舞われたアイアン・メイデンのニコ・マクブレイン(72歳)は2024年にツアーからの引退を発表しました。
ザ・ダムドのスケイビーズも病気にかかっています。
「俺はバイキング病(デュピュイトラン拘縮)という病気にかかっている。手全体が鉤爪のようになり、しこりや関節炎もある。もともと激しいドラムの打ち方をしていたので、それが病気を悪化させたのだと思う。
痛みや不快感は非常に苛立たしいものだ。やりたいことがあっても、それができなくなっていることもある。でも、ちゃんと“New Rose”を演奏できて、曲が本来あるべきサウンドを奏でられる限りはね...」
ザ・ダムドの公演は、ドラムソロを含む22曲105分。以前は鎮痛剤を2錠もらって手首の痛みを和らげていたそうですが、今はウコンオイルを使っているという。
ディープ・パープルは56年経った今でも、ライヴは2時間近くにわたり、バンドの最も激しく、最も推進力のある曲「Highway Star」で幕を開けます。
ペイスはこう話しています。
「若い頃には簡単にできていたことが、今は難しくなっている。でも、今は若い頃よりも、ずっと多くのことを知っているから、置き換えることができる。難しいことだが、置き換えばそれができる。50年前と同じことをできると思っている人は、どうかしている。僕の世代で、僕が“パワフルなドラム”と呼ぶものを演奏している人はあまりいない」
セックス・ピストルズのクックは、ピストルズのライヴがミッドテンポであることに感謝しています。
「俺らはみんなが思うほど速くはないけど、ザ・ダムドは本当に全力でやっていた。ラットには少し同情するよ」
クックはツアーに備えて有酸素運動や上腕のトレーニングを行い、栄養士とも協力することで、自分の生活を楽にしていると話しています。
「でも、俺は健康オタクじゃない。レンズ豆を食べるヒッピーにはなっていないよ」
こうした準備のおけげで、ツアーの最初の数公演では全身が痛むものの、「その後は調子が戻ってくる」のだという。 ステージを降りる時には気分が良く、「時々少し苦戦するスティーヴ(ジョーンズ)よりも調子がいいよ」とも話しています。
3人とも年を重ねることで、ドラムセットの裏で落ち着いて演奏することの利点が分かってきたという。それは必ずしも肉体的なことだけではなく、例えば、クックは「Never Mind the Bollocks」ではドラムロールをやり過ぎたと感じているという。
ペイスは「より少ないことで、より多くを創造できる」と語り、今はアンプの改良により、ドラマーは彼の世代が学んだほど激しく叩く必要がなくなったと指摘しています。
同世代で最も自由奔放なドラマーであるスケイビーズも、ほどほどの良さを学んだという。
「曲によっては、テンポを数拍遅くした方が良いものもある。昔はただがむしゃらに叩いていた。最初に曲の最後にたどり着いた人が勝者だった。でも今は、もう少し曲を正当に評価しようとしている。今では、スローな曲もかなり楽しみだよ!」