HOME > ニュース >

ビートルズの初期メンバーであるスチュアート・サトクリフの生涯を描いた映画『バック・ビート』 誕生の舞台裏を監督が語る

2024/09/03 13:12掲載
メールで知らせる   このエントリーをはてなブックマークに追加  
バックビート
バックビート
ビートルズ(The Beatles)の初期メンバーであるスチュアート・サトクリフ(Stuart Sutcliffe)の生涯を描いた映画『バック・ビート(Backbeat)』(1994年/イギリス映画)。英国でのリバイバル上映にあわせ、監督のイアン・ソフトリーが英ガーディアン紙の新しいインタビューの中で、本作の誕生の舞台裏を語っています。

「1980年代に(イギリスのテレビ局)グラナダで働いていたとき、局のビートルズ・アーカイブを調べていた際に、スチュアート・サトクリフと(スチュアートのガールフレンドだった)アストリッド・キルヒャーの写真を見つけた。 彼らは自信に満ち、興味深い表情をしていたので、もっと彼らのことを知りたいと思った。 ビートルズがハンブルクのクラブで演奏していた頃、素晴らしいライヴ・バンドになっていたことは知っていたが、グループの最初のベーシストであるスチュアートと、素晴らしいドイツ人写真家のアストリッドの背景にあるストーリーについては知らなかった。スチュアートは、ビートルズが有名になる直前に、自分の芸術を追求し、アストリッドと一緒にいるためにグループを離れ、そして亡くなった。僕は長編映画に携わりたいと強く願っていて、いくつかのアイデアを練っていたが、この物語こそ僕が伝えたいものだと決心した。

スチュアートの母親ミリーはケント州セブンオークスに住んでいた。電話帳で見つけてかけた5人目の“M・サトクリフ”だったと思う。彼女とスチュアートの姉妹ポーリーンは、スチュアートの作品をいくつか見せてくれ、ハンブルクでワインバーを経営していたアストリッドと連絡を取るのを手伝ってくれた。何年にもわたって、多くの人がビートルズのゴシップを求めて彼女を探していたと思うけど、僕は彼女に、僕が探しているのはそれではないと伝えた。

アストリッドは、僕たちのミーティングにクラウス・フォアマンを招待した。彼はアストリッドをビートルズのコンサートに連れて行った当時のボーイフレンドで、その後プラスティック・オノ・バンドに参加し、アルバム『Imagine』でベースを弾いていた。僕は彼らと10日間を過ごし、インタビューを録音した。このインタビューが、脚本の基盤となった。

(ジョン・レノン役の)イアン・ハートは早くから参加し、スチュアート役やアストリッド役の候補者の相手役としてスタジオでジョン・レノンのセリフを読んでいた。

この映画の中で、最も有名な2人の俳優を、スチュアート役やアストリッド役にキャスティングするというアイデアは気に入った。スティーヴン・ドーフとシェリル・リーは、観客が最もよく知らないキャラクターに、映画スターのような風格をもたらしてくれた。イアンはすでに『僕たちの時間』で少し年を取ったレノンを演じていたが、それは僕が求めていたキャラクターではなかった。初期の頃にジョンに会った人たちから、彼は怒りっぽく、不安定で、時に残酷だったと聞いていた。イアンに会うまで、彼がそのエネルギーを表現できるとは思わなかった。多くの人がイアンはジョン・レノンに似ていると言うが、実際はそうではない。ただ、彼はジョンを体現しているだけなのです。

サウンドトラックには、スター性のあるバンドを結成できる人が必要だった。プロデューサーのニック・パウエルは、トイレで音楽雑誌を読んでいたとき、この仕事にまさに適任と思える人物を見つけた。彼は叫びながら走り出て“ドン・ウォズを呼ばなきゃ!”と言っていた。そしてドンは、デイヴ・グロール、REMのマイク・ミルズ、サーストン・ムーア、ソウル・アサイラムのデイヴ・パーナー、ヘンリー・ロリンズ、アフガン・ウィッグスのグレッグ・ドゥリによるスーパーグループを結成した。僕はドンに言った。“彼らにビートルズ・ヴァージョンを聴かせないでくれ。ただ、彼らに曲を徹底的にぶち壊してもらえ”と。

イアン・ウィルソンは非常に経験豊富な撮影監督だった。バンドがハンブルクに到着し、レーパーバーン近くの通りを走るシーンでは、クラブのオーナーたちに1970年代と1980年代のネオンサインをすべて消して、1960年代のものを点灯しておくようにお願いした。ところが、彼らは逆のことをして、より多くのお金を要求してきた。イアンは“役者をバンに乗せて、15分で出発できるようにしておいてくれ。信じてくれ”と言った。彼はカメラアシスタントにクラブを回らせて“70年代と80年代の照明は点けたままにて、60年代の照明は消してもらえますか?”と頼んだ。またしても、彼らは頼まれたこととは反対のことをしたが、そのおかげで僕たちは必要なショットを撮ることができた。

アストリッドは脚本の中で特に気に入らない場面があると言っていた。彼女は現実世界ではありえないような行動をする登場人物がいると思っていた。僕は言った。“映画を観るまで待ってほしい。気に入ってくれるはずだから”。僕は上映会で彼女の隣に座り、少し不安だった。彼女はクレジットが最後まで表示され、スクリーンが真っ暗になるまで待ち、それから目に涙を浮かべながら僕の方を向いて抱きついてきた」