ビートルズ(The Beatles)のアルバム『Abbey Road』のレコーディングに使用されたミキシング・コンソールはアビー・ロード・スタジオでの役目を終えたあと、解体され、その一部は学校に譲渡されました。しかし、動作させることができずにゴミとして捨てられてしまいます。ゴミ箱から救出された後、時は流れてオリジナル・ミキシング・コンソールを再構築する人物が現れ、自身の財産と時間を費やしてミキシング・コンソールを完成させました。そのコンソールがオークションに出品されましたが、英国の新聞Ham & Highによると、今回は希望価格の100万ポンド(約1億9千万円)に達しなかったため、落札されませんでした。
このコンソールの名称は「EMI TG12345 Mk I」。アビーロードのレコーディング・エンジニアとEMIヘイズ工場の中央研究所によって、8トラック・レコーディング専用に作られました。1969年初頭に『Abbey Road』のセッションが始まる前の1968年夏に、当時のEMIスタジオのスタジオ2に設置されました。
「EMI TG12345 Mk I」は1968年から1971年までアビー・ロード・スタジオに常備され、ビートルズのメンバーは『Abbey Road』だけでなく、バンド解散後のいくつかのソロ・プロジェクトでも使用しました。
ジョン・レノンの「Instant Karma」はこのコンソールでレコーディングされ、ミックスされました。ジョージ・ハリスンはアルバム『All Things Must Pass』で、ポール・マッカートニーはアルバム『Paul McCartney』のいくつかのトラックで、リンゴ・スターはアルバム『Sentimental Journey』で、それぞれこのコンソールを使用しました。
スタジオでの短い生涯を終えたコンソールは、1971年に解体され、一部のパーツはノース・ロンドンの地元学校に譲渡されました。学校側はセミナーのレコーディングのために欲しがっていたのですが、残念ながら動作させることができなかったので、そのパーツをゴミとして捨ててしまいました。
幸運なことに、そのパーツは学校のテープ・マシンのメンテナンス・エンジニアによって保存されました。しかしエンジニアは、その価値に気づかず、「スイッチの見た目が気に入った」から保存したという。エンジニアはその後、そのパーツをADATレコーダーと交換して手放しています。
一方、コンソールのデスクなどのパーツはアビー・ロード・スタジオの屋根裏部屋やガレージに保管されていることをサウンド・エンジニアのマイク・ヘッジスが発見しました。
「機材が山積みになっていて、時代遅れで誰も欲しがらなかった。みんな解体されていたんだ」とヘッジスは英タイムズ紙に語っています。
その後、彼はスタジオからパーツを購入。そして、それが『Abbey Road』を録音したコンソールであることを知った彼は他のパーツを調達しようとしました。しかし、学校に寄贈された主要パーツが不足していました。主要パーツはその頃、行方不明になっていました。
そして2018年、ヘッジスはソングライターのテリー・ブリテンから連絡を受け、行方不明になっていた主要パーツを“巡り巡って”手に入れたと言われました。
ヘッジスは過去4年間を費やしてコンソールを再構築し、現在では70%ほどがオリジナルで、完全に動作する状態になっているという。
ヘッジスはタイムズ紙に「再び動くようになったのは素晴らしいことだけど、それに何年もかかり、莫大な費用もかかった」と言い、オークションについて「売却しなければ破産していた」と付け加えています。
オークションは12月14日にロンドンのボナムズで行われました。ボナムズはこう説明しています。
「現在のオーナーは、現存するオリジナルのパーツを丹念につなぎ合わせ、コンソールはかつての栄光を取り戻しています。包括的で最先端の修復プロセスを経て、コンソールは現在正常に動作しており、歴史的な『Abbey Road』のレコーディング・セッションのオリジナル・パーツの大半で構成されています。
このコンソールは、ビートルズの歴史、そして音楽史全体において非常に重要なものであり、ボナムズはこれをオークションに出品できることを光栄に思います」
■ボナムズ オークション・ページ
https://www.bonhams.com/press_release/37457/