
NHK『映像の世紀プレミアム 第7集「極限への挑戦者たち」』(c)NHK
エベレスト初登頂を目指したマロリー、世界最速のスーパーカーを開発したポルシェ、深海探査に挑んだピカール、オリンピック四冠を獲得した黒人選手オーエンス、国民的英雄となりながら悲劇の死を遂げたマラソン選手・円谷幸吉、人類初の宇宙飛行士となったガガーリンと月面に初めて降り立ったアームストロング。
人類のフロンティアを切り開いた挑戦者たちの姿を描くNHK BSプレミアム『映像の世紀プレミアム 第7集「極限への挑戦者たち」』が12月16日(土)放送。
『映像の世紀プレミアム』は、1995年度に放送された『映像の世紀』と2015年度に放送された『新・映像の世紀』を合体させ、さらにこれまでの放送にはなかった新たな映像を追加した90分の豪華版です。
●『映像の世紀プレミアム 第7集「極限への挑戦者たち」』
NHK BSプレミアム 12月16日(土)午後7時30分〜 午後9時00分
人類のフロンティアを切り開いた挑戦者たちの姿を描く。エベレスト初登頂を目指したマロリー、世界最速のスーパーカーを開発したポルシェ、深海探査に挑んだピカール、オリンピック四冠を獲得した黒人選手オーエンス、国民的英雄となりながら悲劇の死を遂げたマラソン選手・円谷幸吉、人類初の宇宙飛行士となったガガーリンと月面に初めて降り立ったアームストロング。夢を追い求め、不可能を可能に変えてきた人々の物語である。
【語り】山田孝之,山根基世
<番組スタッフから>
「星の王子様」の著者として有名なサン=テグジュペリが飛行機乗りだったことをご存知でしょうか。フランス―ベトナム間の最短時間飛行に挑戦してサハラ砂漠で遭難した事故を伝えるニュース映画が残されているのですが、この時の体験が、砂漠に不時着した飛行士が謎の王子と出会う「星の王子様」を生んだといわれています。サン=テグジュペリは作家として大成功を収めてからも、飛行気乗りとしての挑戦を生涯やめませんでした。そして、1944年に地中海に散りました。彼はこんな言葉を残しています。
「僕は挑んだ。そして負けた。しかし、忘れえぬ風の香りを味わうことができた。僕は、危険を愛しているのではない。命を愛しているんだ。」
「映像の世紀プレミアム」第7集のテーマは「極限への挑戦者たち」です。20世紀、人々は未知の世界へ挑み続けました。無謀だというそしりを受けながらも、彼らは夢をあきらめませんでした。
今回の目玉のひとつは、映画「東京オリンピック」の未公開映像です。オリンピックのクライマックスとなったマラソンで、NHKは26台のカメラによる世界初のスタートからゴールまでの完全生中継に挑みました。沿道の定点カメラに加え、先頭集団を撮り続けるために特別に開発した移動撮影車も出動させました。レースは中盤から最強と言われたアベベの独走となり、移動撮影車も延々とアベベだけを撮り続けることになります。「やはり、アベベには誰もかなわないのか」。人々が諦めかけたとき、興奮した実況音声が飛び込んできます。
「円谷、円谷、盛んな声援が飛んでおります!耳をつんざくような大声援でございます!
円谷第三位に上がりました!円谷第三位に上がりました!」
下馬評の低かった円谷幸吉が、3位に躍り出たのです。国民はテレビに釘付けになりました。しかし、一台しかない移動撮影車は先頭のアベベを追っています。円谷をとらえられるのは、沿道に置かれた定点カメラだけでした。このとき、NHKの中継班以外に、もうひとつの撮影隊がいました。それが、市川崑監督の率いる映画「東京オリンピック」のクルーです。彼らも当初はアベベを追っていたのですが、円谷急浮上の知らせを受け、コースを1キロにわたって逆行。歴史的な激走を間近で記録しました。
「円谷幸吉。昭和15年の5月13日に生まれました24歳。福島県の須賀川高校を卒業いたしまして、陸上自衛隊に入隊。現在は三等陸曹でございます。その差胸一つ、その差胸一つ、円谷の健闘、大いに沿道の観衆を沸かせております!」
熱のこもったラジオの実況音声と一緒に未公開の高画質のカラー映像を見ると、まるで1964年にタイムスリップしたかのような気持ちになります。円谷は見事に銅メダルを獲得。しかし、次のメキシコオリンピックに向けた国民のさらなる期待が、日本陸上史上最大の悲劇を生むことになります。
番組では、挑戦者たちの連鎖も描きます。「宇宙開発の父」と呼ばれるソビエトのツィオルコフスキー、日本ではあまり知られていませんが、彼がいなければ私たちはまったく別の歴史を生きていたかも知れません。ツィオルコフスキーは人工衛星や宇宙旅行の概念を提唱した最初の科学者のひとりで、彼が監修した映画「宇宙飛行」(1935年)では、34年後に実現するアポロ11号の月面着陸を見事に予言しています。
このツォルコフスキーが書いた論文を、職業訓練学校で読んで宇宙飛行士を目指した一人の若者がいました。ユーリ・ガガーリンです。番組では、ガガーリンが宇宙飛行士を目指して訓練を受ける400日間の映像が登場します。何日も密室に閉じ込められたり、延々と計算を繰り返したり、暑い部屋にこもったり、揺れる椅子に座り続けたり、専門家から疑問が出るような過酷な訓練を乗り越え、ガガーリンは人類初の宇宙飛行士となりました。ガガーリンの言葉として有名な「地球は青かった」。実はガガーリンはこんなことは言っていません。彼が宇宙から初めて地球を見た時の音声が残されています。
「窓から地球を観察している。地形の凹凸 や雪や森も見える。大地に雲がかかっている。小さい雲や、積雲や、雲の影も見える。美しい!なんて美しいんだ!」
このソビエトの快挙を、遠くワシントンの地で、苦々しい思いで見ていた男がいました。アメリカ大統領、J.F.ケネディです。ガガーリンが地球へ帰還した8日後、ケネディは副大統領に宛ててこう書きました。
「我々にソビエトを打ち負かすチャンスはあるのか? 宇宙に研究所を作るのはどうか。月に人間がロケットで行って戻ってくるのはどうか。他に我々の劇的な勝利を約束する宇宙計画があるか? 24時間働いているのか? 働いていないのなら、なぜなんだ!」
この1枚のメモによって始まったのが、人類を月へ送るアポロ計画です。しかし、ニール・アームストロングが月に立つまでには、命をかけたさらに過酷な試練が待っていました。番組では、宇宙船と管制室との緊迫した通信記録など、月面着陸の裏側を臨場感たっぷりにお伝えします。
他にも、様々な挑戦者たちを取り上げます。「そこに山があるからだ」という名言を残してエベレスト初登頂を目指した登山家、ジョージ・マロリー。人類の未知の領域だった深海に挑んだ物理学者、オーギュスト・ピカール。世界最速の車を生み出すことに生涯を捧げた自動車エンジニア、フェルディナント・ポルシェ。人種差別の壁を打ち破り黒人として初めてオリンピックで4つの金メダルを獲得した陸上選手、ジェシー・オーエンス。彼らの不屈の挑戦こそが人類の未来を切り開きました。不可能を可能に変えてきた人々の物語です。
(NHKエンタープライズ 伊川義和)
※予告映像もある番組ページ
http://www4.nhk.or.jp/P4235/