人間椅子の和嶋慎治による「選書フェア」を記念したトークイベント<自伝『屈折くん』刊行記念 人間椅子・和嶋慎治 選書フェア スペシャル・トークセッション>が5月20日(土)にジュンク堂書店 池袋本店にて行われています。レポート到着
写真左より堀田芳香さん、和嶋慎治さん、志村つくねさん
自伝「屈折くん」刊行記念 人間椅子・和嶋慎治選書フェアの特別企画として、和嶋慎治さん×志村つくねさん(文筆家)×堀田芳香さん(写真家)によるスペシャル・トークセッションが5月20日ジュンク堂書店池袋本店にて開催された。当日は志村さんの司会によりトークが進行。
志村:私、「屈折くん」では執筆協力という形でお手伝いをさせていただきました志村つくねと申します。それでは盛大な拍手でお迎えください、和嶋慎治さんです。(場内大拍手)
和嶋:「屈折くん」の著者の和嶋慎治です(笑)。本日はお集まりいただきありがとうございます。「屈折くん」にまつわる四方山話とか裏話とか楽しい話をすると思いますので宜しくお願いいたします。ではここで本日のスペシャル・ゲストをお呼びしたいと思います、写真家の堀田芳香さんです。(場内大拍手)
堀田:宜しくお願いいたします。(和嶋さんのマイクだけが有線なのに気がついて)、和嶋さんはギターだけじゃなくマイクもケーブルなんですね(笑)。
和嶋:えっ?そっちはワイヤレスなんだ。俺ね、ギターもワイヤレスは嫌いなんですよ、あ、ちゃんと考えてくれたんですね(笑)。
志村:堀田さんは和嶋さんととてもお付き合いの長いカメラマンで、ポール・マッカートニーやレディ・ガガ、AKBをはじめ国内外様々なアーティストを撮影されていらっしゃいます。近年は人間椅子のポートレートや「屈折くん」の写真も撮られているんですけど、お二人の出会いというのは?
堀田:93年に私が「Player」という音楽雑誌に入った時、和嶋さんはそこですでに連載をされていて、それを私が担当することになったんです。当時はこの「屈折くん」の表紙にあるような文字で和嶋さんからギリギリに原稿が送られてきて(笑)
和嶋:その頃はパソコンとか普及していないので原稿は手書きでした。
堀田:来ないと電話をしたり。
和嶋:毎月そういうやり取りをしてました。
堀田:その頃から面白い話ばかりだったんですよ、UFOの話とか、イタコに会ってジミヘンが降りてきた話とか。
和嶋:ギターとは全然関係ない話ばかり(笑)
堀田:エフェクターを作った話とかもありましたね、20代後半から30代の頃。
和嶋:そうそう、作り始めてた。
堀田:その後、私は「Player」を辞めて、2000年くらいからカメラマンをやり始めたんです。そのタイミングで和嶋さんとのつながりは途絶えました。
和嶋:堀田さんの後に担当者が変わったんですが、締め切りを守らないのに業を煮やしたのかまもなく連載は打ち切りになって(笑)。
堀田:その後はず??っと会ってなくて、和嶋さんも水面下な感じでしたし、私もカメラマンとして洋楽とかも撮っていたので接点が無くなってしまってました。
和嶋:堀田さんは、編集者を辞めてカメラマンになろうと思ったのはどうしてですか。
堀田:一念発起というか、カメラマンになろうと思って辞めたんですよ。そこで和嶋さんとの道も別れ別れになるんですが、その後和嶋さんが急浮上してくるようになるんです。
和嶋:その間に10年以上の月日が流れるんですけど(笑)。
堀田:和嶋さんがももいろクロ?バーZでギターを弾いた後くらいに、二人は再会を果たすんです。
和嶋:ももクロから仕事が来たり色々と仕事が来て、なんか世捨て人が山から下りて来たみたいな感じだったんですよ。それで久々に「ギター・マガジン」から取材のオファーがあって。
堀田:その頃私は「ギター・マガジン」で撮っていて、撮影をお願いしますという電話が来たときに"人間椅子の和嶋さんですけど、ご存知ですか?"って言われて、すごいびっくりしたんです。
和嶋:僕はその現場に行くまで、誰が撮るのか知らなかった。
堀田:15年ぶりくらいだったから、覚えててくれてるかなって思ってたら和嶋さんが現れて。
和嶋:着いてみると堀田さんがいたんです。撮影場所は渋谷区にある神社で、すごくいいロケーションでした。
堀田:会ったときに、和嶋さんがキラキラ輝いて見えたんですよ。私、ジャスティン・ビーバーとかのアイドルも撮ってるんですけど、和嶋さんはアイドル並にキラキラしていて。だからキラキラ輝くアイドル性ってルックスじゃないんだって思った。(場内爆笑)
志村:内面から光が出てきたわけで。
堀田:アイドル・オーラって見えない所から現れる光なんですよ。だから本当にビックリした。
和嶋:この日は久しぶりの「ギター・マガジン」の取材で、しかも僕の音源も付ける大フィーチュアで本当にうれしくて、"また世の中に出られる"って(笑)。
堀田:私も、輝いてる和嶋さんを見て、もっと写真を撮りたいって思ったんです。
ここで、当時のギター・マガジンに掲載された貴重な和嶋さんのカットがスライドで映しだされた。凛々しく日本間に座り左右に愛器を並べた写真や、坂本龍馬風の立ち姿のカットなど15年のブランクを感じさせない二人のコラボレーションに場内も注目。これ以降、堀田さんは人間椅子のポートレートを撮影するようになり、続けてそのアーティスト写真も紹介された。
和嶋:堀田さんは撮ってるときにメンバーをその気にさせるのが上手いんです。
堀田:だって、それまでの人間椅子の写真って記念写真みたいに畏まって座ってるだけだったので、ライヴから比べればもったいないって思っていて。鈴木さん(鈴木研一/ベース)も普通にしてると。
和嶋:単なる大入道みたいになっちゃうから(笑)。
堀田:私としては鈴木さんはKISSのジーン・シモンズみたいな迫力を出して欲しかったし、和嶋さんはポール・スタンレー的な王子様で、ノブくん(ナカジマノブ/ドラムス)はスパイスとして(笑)。
和嶋:(笑)、スパイスがないと料理になりませんから。
堀田:また和嶋さんの着物がいいんです。手触りから何からすごい正絹だからアーティスト写真ではしっかり見せたくて。
和嶋:そうそう、先日、これから出る雑誌に掲載される写真を堀田さんに撮ってもらったんです。俺の部屋なんですけど、それが素晴らしい部屋に写っていて、もう堀田マジックですね。で、堀田さんは仕事が早いんです、迷いがない。
堀田:ミュージシャンはモデルじゃないから、ずっとポーズをとってても絶対よくならない。だって同じことを続けるのってつまらないでしょ。
和嶋:それがまた顔に出るし。だから僕もいろいろ勉強になりました。で、そこからこの「屈折くん」を出すことになっていくわけです。
志村:昨年の秋頃から「屈折くん」の取材は始まりました。
和嶋:自分としては協力者がいないと本は作れないと思って、ライターとして志村くんに協力をお願いしたんです。志村くんはインタビューやライヴ・レポートでもすごく的確な表現をしてくれるので、是非彼にしたいと思って。で、カメラマンは堀田さんでいきたいということからスタートしました。
志村:それで実質3ヶ月ちょっとで本にするというハードなスケジュールではあったんです。そして、ちょうど「夏の魔物」というイベントの頃、9月末の頃に和嶋さんの故郷である弘前に我々3人が向かって。
和嶋:とりあえず写真を押さえようということで行きました。
この弘前取材は色々なことがあったとのことで、初日、寝落ちした和嶋さんが現地に向かう新幹線に危うく乗り損ねたり、弘前市内での撮影中にはやたら知人や親戚と出会ったり、アポなしで訪ねたライヴハウス/マグネットでは偶然店長さんがいてステージ上での撮影が可能になったりなど、様々なエピソードがスライド上映とともに紹介された。
和嶋:弘前の名所みたいな所を回ろうと、西洋の記念館みたいな所でも撮りましたね。
堀田:すごい雰囲気のあるところで、東京でこういう感じを撮ろうと思ったら許可や費用がかかるんだけど、弘前は電話したら"どうぞ?"って言っていただけて。
さらに慎治少年が6歳頃に描いた絵や、天保時代に書かれた和嶋家の由縁書の表紙、続いて東京編の写真がスライド上映された。
堀田:和嶋さんの子供の頃の写真アルバムを1枚1枚撮ったんですよ、最初は本当に可愛い、それこそほっぺにチュってしたくなるような子供だったのが、いつの間にか顔が屈折していって(笑)。(場内爆笑)
和嶋:だんだん笑顔がなくなって。
堀田:表紙に使った写真と、「屈折くん」ってタイトルがぴったりで。これは高校生のとき?
和嶋:そう、高校生のとき。この間も知人から"表紙の顔は屈折してるけど、裏側の目線のない方は全然屈折してませんね"って言われました(笑)。対比がいい感じなんだよね、自分じゃあんまりわからないんだけど。
和嶋慎治選書フェアの濃いメニューの数々
ラヴクラフト「ラヴクラフト全集1?5」
志村:では、そろそろ和嶋慎治選書フェアの話題に移りたいと思います。伝記や怪奇幻想文学書を中心に実に様々な作品を取り上げられていて、今日のイベントでいくつか紹介していただけるということで。僕もこういう機会がないと読まなかった本ばかりでした。
和嶋:「屈折くん」の売り上げが好調で重版となったんですけど、そこでジュンク堂さんの方からフェアをやりませんかという声をかけていただいて。「屈折くん」の中でも述べられている、影響を受けた本を中心に、先月から選書フェアをやらせていただいています。
志村:フェアも好評で、皆さん満遍なく手に取っていただいてるようで。
和嶋:うれしいですよ、皆に読んで欲しいと思った本だから。こういうフェアにしては素晴らしい売れ行きだそうで。(場内拍手)
志村:和嶋さんのコメントも掲載してあって興味深く拝見して、僕もこっそり何冊か買いました。
和嶋:自分としておすすめの本を挙げたんですけど、最初、ラヴクラフトの「ラヴクラフト全集1?5」とかは売れないだろうなぁって思ってました。でもやっぱり影響を受けてるし、ああいうことを音楽でやりたいと思ったから。
志村:人間椅子のモチーフになった所もありますものね。
和嶋:「ラヴクラフト全集」はもっと巻数が出てるんですけど、俺ですら6巻以降はキツいんで(笑)、それで5巻までになってるんです。
志村:ダークでキツい?
和嶋:というより読むのがしんどい。娯楽性ゼロみたいな感じで。
堀田:私も一番読み易いからって勧められて「インスマウスの影」を読んでるんですけど、読んでも読んでもなかなか話が始まらない。
和嶋:始まったかな?と思うと雰囲気だけで終わる。
堀田:そうそう、これでカタルシスが来るのかなと思うと。
和嶋:来ない。それがいいんです。しかも堀田さんは帰国子女ですので原書で読んでいて、それは相当難しいですよ。
堀田:知らない単語を調べると、全部ダークなの。こんなにネガティヴなワードがあるんだ…ってびっくりした。
和嶋:当時でさえ死語と言われた使われていない単語をラヴクラフトはガンガン使った作家だから、読みづらいと思いますよ。でもその感じがいいんだよね。自分の容貌に対するコンプレックスも相当あったみたいで。
堀田:ラヴクラフトの顔って?
和嶋:ホラー。いや、カッコいいですよ。自分が死んだらあの世でお話ししたい人って何人かいるじゃないですか、俺はラヴクラフトとはすごい話したい。
堀田:名前もすごいからね、ラヴクラフト。
和嶋:江戸川乱歩に「蟲」って小説があって、その主人公は柾木愛造って言うんですけど、愛造=ラヴクラフトなんです。
古今亭志ん生「なめくじ艦隊」
志村:本について話すことは楽しいですよね、お相手を深く知ることができるというか。
和嶋:本っていうのは読む人によって見え方が違うんですよ、その人の読解力なりで。そこがまた個性が出るし。で、「屈折くん」を書く上で参考にしたというか、こういう自伝が書ければいいなと思ったのが古今亭志ん生さんの「なめくじ艦隊」。内容としてはものすごく貧乏なことを軽快に、暗くならずに書いてあって、あっ、これだって思った。
志村:語り口は勉強になりますね。
和嶋:貧乏だとか、自分が報われないっていう話は一旦俯瞰してみると人生訓のようになるんです。
堀田:この「屈折くん」も何回も笑いながら読んだんですよ、こんな大変な状況なのに、笑いながら楽しく読めたから。
和嶋:その辺は志ん生さんの本を読んで、こういう風に書きたいっていうのもあったし、自分自身もそうだっていうのはありますよ。貧乏とか苦境っていうときでも、なんか自分では楽しんでたんですよ。
堀田:一つ上から自分を見てる視点がありますね。
和嶋:やっぱりずっとそうでしたね。だから本を書けたんだと思います。世の中にはこういう変わった生き方をする奴がいて、それでもめげずにやってるってことを知って欲しかった。人はマイナスのことを考えたら何も行動できなくなってしまう、だいたい守りに入ってしまうんです。そうすると幅の狭い人生になってしまうかもしれません、もっと面白いことがあったりするっていうことを…漠然としてますけど言いたかった。
堀田:私も和嶋さんに、"ガンになったらどうしよう、病気になったらどうしよう"って言ったら、和嶋さんに"病気になったらどうしようって思ってるから病気になるんだよ"って言われて。
和嶋:そうですよ、話は飛躍しますけど、ガンを探しに行くとガンは見つかるんです。行かなきゃ見つからない。…なんか頭のおかしいことを言ってるようですが、本当にそうだと思うんだよな。
堀田:私も絶対そうだと思って。
和嶋:気がつかなければ、多分気がついた人より長生きしますよ。どっちにしたって人間は死ぬんですから。だから自分で不安にならない方に行った方がいいし、色んなことが上手く行くと思うんですよね。そうですね、怒らない方がいいです、無理して怒らないようにするのもいいです、そのうちそれがその人のスタイルになるから。
色川武大「怪しい来客簿」
内田百閒「冥途・旅順入城式」
志村:ほかにはどんな本がお薦めでしょうか。
和嶋:あとは色川武大。この人にも僕は救われたんです。ちょっと小説を読めない時期があって、創作物が自分の苦しみにリアルに訴えてこない、向こう側にあるような気がして。で、たまたまどこかの待合室で少年マガジンの「哲也」を読んだんです。色川武大が阿佐田哲也名義で書いた「麻雀放浪記」が原作。そのピカレスク・ロマンがすごく面白くてそこからどんどん引き込まれて、俺はまだまだ文学の楽しさがわかってない!って思って、また本を読み出すようになったんです。そこから阿佐田哲也を全部読んで、色川武大を読みました。色川の方が純文学でよりヘヴィーでいいなって。だいたい昔の文豪や作家さんになると、皆さん東京帝国大学ご出身だったりするので、どうしてもインテリが鼻について馴染めないとこがあるんですけど、色川さんは敢えて落伍者の視点から書いてるんです。「屈折くん」を書いたときもシンナー中毒になった人とか色んなキャラクターが出てきて、そういう人も愛おしいとちゃんと心の底から思えたのは、自分の苦しい経験もあるし色川武大を読んだからっていうのもあります。で、色川武大と内田百閒ってちょっと似てるんだよね。自分の視点に拘るっていうことですよね。世間一般の常識じゃなく、一番信じられるのは自分の視点にしかないという所とか。特に内田百閒のエッセイとか頑固親父のつぶやきですからね。
ニーチェ「ツァラトゥストラはこう言った 上・下」
小泉八雲「小泉八雲集」
和嶋:そして、僕が悩んでいる頃はニーチェとかの思想書を読んでました。今回の選書フェアでニーチェの売れ行きがイマイチなんですよ(笑)、現代への警句に満ちてますし、今ニーチェブームも来てますから、みなさん是非読んでみてください。そして小泉八雲ですが、明治時代の外国人から見た日本が客観的に捉えられていて、これを読んで日本人特有の優しさや奥ゆかしさとか、日本はやっぱり美しい国だったんだということがわかりました。
志村:はい、なかなか楽しいお話は尽きないんですが、そろそろこのトーク・セッションも時間でして、堀田さんから何か一言いただけますか。
堀田:この間ポール・マッカートニーを撮りに行ったんですけど、74歳にもなってアイドル・オーラ全開でキラキラしてたんですよ。
和嶋:ポール・マッカートニーを2日間撮った次の日に、堀田さん僕の写真撮りましたからね。ポール、ポール、俺。ポールと同じ扱いなんですよ(笑)。その次の日に僕はポールを観に行きました。
堀田:多分和嶋さんも74になっても王子様でキラキラしていられるんだろうなぁって信じて、それを撮りたいなって思います。(場内拍手)
志村:今後の堀田さんと和嶋さんのコラボレーションから目が離せませんね。
和嶋:いやいや、もちろんそこに志村くんもいるんですよ。(場内拍手)我々が冥土にいくときまで記事を書いて。
堀田:こうして旅立って行きました、って。
和嶋:俺、多分死ぬ前に原稿チェックするから(笑)。
堀田:40年後くらいに。
和嶋:そう、そのくらいにしましょうよ、40年後くらいに(笑)。
志村:では、最後に、和嶋さん今後の活動は?
和嶋:8月9月とイベントが決まってるんですけど、それを越えて秋頃にアルバムの発売を目指しておりまして、現在そこに向けて頑張って制作しております。(場内大拍手)
志村:それでは、和嶋さん、堀田さん、本日は素敵なエピソードの数々ありがとうございました。
この後、サイン会が行われた。
尚、和嶋慎治選書フェア+パネル展はジュンク堂書店池袋本店9階壁面にて5月31日まで開催されます。