現代の音楽シーンを左右する一大潮流となったジャズの最突端で今何が起きているのかを、詳細なテキストと新しいスタンダードとなる計150枚のディスク・レビューで徹底検証した『Jazz The New Chapter 4』。4月22日にHMV & BOOKS TOKYO 5Fイベントスペースにて刊行記念トークショーが開催されています。レポートが到着
写真左より江利川侑介氏、柳樂光隆氏
『Jazz The New Chapter 4』の刊行記念トークショーが、4月22日HMV & BOOKS TOKYOにて、柳樂光隆氏(『Jazz The New Chapter』シリーズ監修者/音楽評論家)が、ゲストに江利川侑介氏(ディスクユニオン ワールド・ミュージック・バイヤー)を迎え、開催された。
柳樂:今回の『Jazz The New Chapter 4』は、ジャズ以外のジャンルも題材として扱って、その中でもブラジル音楽というのをやってみたくて特集しました。このブラジル特集は江利川さんに選盤を任せて、インタビューの質問も一緒に作ってもらったので、今日は2人で喋りたいと思います。江利川さん、今回この特集をやってみていかがですか?
江利川:普段はワールド・ミュージック・バイヤーとしてブラジル好きのお客様向けにセレクトをしているんですけど、今回は柳樂さんから、「ジャズにフォーカスして文章を書いて欲しい、ディスク・ガイドの選盤をして欲しい」というはっきりとしたリクエストがあったので、そういう視点で改めて色んなアルバムを聴いてみたり、色んなミュージシャンにメールでインタビューをしたり、僕にとっても発見だらけの企画でした。それがまた仕事の方にもフィードバックして…という所もあるので刺激的な仕事でした。
柳樂:江利川さんは基本的にはブラジル音楽とか、ラテン音楽、ワールド・ミュージックとかを好きな方に向けて音楽を紹介してると思うんですけど、これはジャズの本なので、ブラジル音楽をもっとジャズ・リスナーに聞いてもらおうということでのリクエストだったので、普段の仕事とはちょっと違いますよね。
江利川:そうですね、着目する部分とかも違いますし、ミュージシャンへのインタビューもそういう所を重点的に聞いて原稿に反映しました。
柳樂:ミュージシャンの言葉の中で印象的なことって何かありましたか?
江利川:例えばwebとかのインタビューでは出てこないミュージシャンの名前が、どんどん取材をすることで出てくるんですね。例えばカート・ローゼンウィンケルやブラッド・メルドー以降の世代のミュージシャンっていうのを皆当たり前に聞いてるんだなというのがすごく面白かった。
柳樂:じゃ、ここで、カートやブラッド・メルドーのジャズが好きなブラジルのミュージシャンの音源を聴いてみましょうか。
江利川:では先日来日してましたペドロ・マルティンスというギタリストで作曲家のアルバムから。彼はカートのCAIPIバンドでは共同プロデュースとヴォイスをメインにやってます。
『Sonhando Alto』ペドロ・マルティンス
柳樂:『Jazz The New Chapter 4』でブラジル特集をやるきっかけがペドロでした。カート・ローゼンウィンケルがペドロ・マルティンスという若手と一緒にやるという話をしてたので、音を聴いてみたらモロにカート・ローゼンウィンケルっぽくて。今までのブラジルだとトニーニョ・オルタやパット・メセニーっぽい人がいっぱいいたんだけど、カート・ローゼンウィンケルっぽい人はあまり聞いたことがなくて。でもカートもトニーニョやブラジル音楽の影響をすごく受けてるはずなので、そういう人が居てもおかしくなかったんですけどね。あんまり見かけなくて、それが突然出てきてしかも23歳。だったら他にもいるだろうというのが企画をやるひとつのきっかけではありました。
江利川:彼がこのアルバムを作ったのは18歳の頃で、曲自体は15歳くらいの頃作ったものが多かったそうです。このCDのプロデュースは、ペドロを見いだしてカートを紹介したダニエル・サンティアゴっていうギタリストです。他のメンバーも、ふだんはアミルトン・ヂ・オランダっていう人と一緒に活動している面々で、ショーロをやっていた人も多く、ブラジリアン・ジャズの伝統寄りなこともやる、今一番旬とされているブラジル音楽のサークルの中からペドロのような人が出てきたのはすごく面白いなと思うんです。
柳樂:ペドロがインタビューの中で言ってたんですけど、「一番最初の頃ジャズをいろいろ聞かせてもらった中にフュージョンがいっぱいあった」ということで、その中にアラン・ホールズワースの名前も挙がっていて。ブラジル音楽の中にもそういう西欧の音楽が別な形で入り込んでるなと思ったけど、元々ミルトン・ナシメントだってビートルズに影響を受けたりしていて、ブラジル音楽は外からの影響をたくさん受けているわけですよね。
江利川:そうですね、未だにビートルズは大きくて。ざっくり言うと、ブラジル人ってメロディアスなものが好きというところもあって、インタビューをしたらペドロとかもビートルズは大好きだって、だいたい最初に言う名前ではありますね。
柳樂:ビートルズやパット・メセニー、ビル・エヴァンス、キース・ジャレットとかいろいろいると思うけど、その次に今ようやくカート・ローゼンウィンケルとかブラッド・メルドーとかが当たり前に共有され始めた、というのは面白いですよね。
江利川:ブラジルは日本とは違って、輸入CDショップがあって誰でも音楽が簡単に聞けるという状態ではなかったと思うんですけど。インターネットの発達とApple MusicやSpotifyというのが始まって、ミュージシャン間でも情報を共有しやすくなったというのはすごく大きいと思います。
柳樂:最近僕が驚いたのはロウレンソ・ヘベッチスなんですけど、ちょっと聴いてみますか。アメリカに留学する人が増えたというのも大きく影響してると思うんです、この人バークリー音楽大でしたっけ。
江利川:ギタリストなんですけど、このアルバムではほとんどギターを弾いてなくて、作編曲に重きを置いてます。
『O CORPO DE DENTRO』ロウレンソ・ヘベッチス
江利川:結構パーカッションに耳が行く人が多いと思うんですけど、これはアフロ・ブラジル系の黒人が一番多いバイーアという州の伝統的な音楽と、ギル・エヴァンス的なオーケストレーションをミックスしているオルケストラ・フンピレーズの人に師事していたということもあって。こういうアフロ・ブラジル的な手法というのも要素としては一つあります。
柳樂:サウンド的にはロバート・グラスパーとかディアンジェロっぽいっていうか、クリス・デイブが叩いてたドラムをそのままアフロ・ブラジリアンのパーカッションに置き換えたみたいな。
江利川:そのフンピレーズも新譜を出したんですけど、やっぱりこっちの方が魅力的に聞こえてしまうというか、新しいフレッシュなものを感じたというか。パワフルだし、ホーン・アレンジも伝統的なものも感じるけど、さらに違うものが入っていて。
柳樂:さっきの曲のホーン・アレンジとかはロイ・ハーグローヴとか黒田卓也っぽいですね。でも、そんなネオソウルっぽい曲の中でもブラジルの楽器を使ってたり、リズムの中にもブラジルのリズムが微妙に入ってたり、すごく面白いですよね。
江利川:ブラジルでも評判はいいみたいで、インディー系の音楽を扱うサイトでも年間ベストとかにノミネートされてるので、多分こういう手法が一つの前例になって、また新しい音楽が生まれてくるんじゃないかなっていう期待もあります。
柳樂:ブラジルからアメリカに行って、ジャズないしその音楽に触れてきて、それを持ち帰って、アレンジしてすごく面白い形でやる人たちが出始めてる。その予感を、このアルバムは感じさせてくれて。後半のアレンジを聞いてるとマリア・シュナイダーっぽかったりして、アメリカのビッグ・バンドとかラージ・アンサンブルがやってるようなアレンジを取り入れて、アメリカ的なものとブラジル的なものがいいバランスで入っていて、すごく新しいですよね。
江利川:すごく直感的なところがあって、潜在意識の中に現代ジャズが入り込んできて自然に出てきた感じ。それはペドロとかロウレンソのインタビューを読んで感じました。ブラジルでも現代ジャズが無視できない存在になってるなっていうのは、このアルバムを聴いてて感じましたね。
柳樂:この流れで次に聴くとしたら。
江利川:ヴィトール・ゴンサルヴェスというリオのピアニストで、新譜がアメリカのサニーサイドから出てて。
柳樂:狭間美帆のアルバムとか、ベッカ・ステーヴンズのセカンドとかを出してるニューヨークの尖ったジャズのレーベル。そこからブラジル人のピアニストがリリースして、参加しているのがトッド・ニューフィールドというフリージャズ寄りなシーンのギタリストと、トーマス・モーガンっていう今一番刺激的なベーシスト、ダン・ウェイスという変拍子を決めるドラマーという今のコンテンポラリー・ジャズの尖った人たちが、どこかブラジルっぽさもある音楽をやっている。
『Vitor Gon?alves Quartet』ヴィトール・ゴンサルヴェス・カルテット
江利川:元々ヴィトールもブラジルのスタジアム級の歌手、例えばカエターノ・ヴェローゾの妹マリア・ベターニアのバックをやってたりしたんですけど、今は自分の音楽的な部分をミュージシャンとしてより発展させたいということでアメリカに行って演奏して、リオにも頻繁に帰ってきてはライヴをやってる。そういうところも一般的になってきてるのかなと。日本でも話題になってるアンドレ・メマーリとかジョアナ・ケイロスとかと同じジャズ・フェスに出たりしてたので、そういう交流も今後どんどん深まっていって、ヴィトールはそのキーマンになっていくんじゃないかなという存在ですね。
柳樂:リズムとかはブラジルっぽかったりするんだけど、フレージングとかはコンテンポラリー・ジャズっぽくて、ブラジルのメロディアスな感じじゃない。
江利川:知的なピアノを弾く独特な人で、むりやりブラジル側で言うならセザル・カマルゴ・マリアーノとかああいう人に近い面白さがあって、その両方だなと思います。このアルバムはコンテンポラリーな感じもあって、どちらからでも聴けるなっていう感じはしてます。
柳樂:ブラジルのミュージシャンがアメリカに行ってるケースって結構あって。
江利川:そうですね開演前にかかってたカートのCAIPIのメンバーもよく行って、マイク・モレーノとかと共演したりというのは前からあったみたいで。
柳樂:例えばスナーキー・パピーの周りにも南米のミュージシャンがたくさんいて、彼らが出会ったきっかけはバークリーやノース・テキサスの大学の仲間だったらしくて、音楽がリベラルになるためのプラットフォームに大学がなってる感じがしてます。そこに南米の人が上手く入り込んでる感じはありますね。
江利川:そういうミュージシャンが持ち込んだ経験や曲が、ジャズ側に吸収されていく流れはありますね。逆にジャズ側からの返答みたいなものは?
柳樂:ニューヨークではここ10年くらいブラジル音楽の影響が強くて、マリア・シュナイダーとかは「ブラジルに行って人生が変わった」ぐらいのことを言ってて、グラミー賞を獲った『Concert In The Garden』ではショーロみたいな曲を演ってます。他にもブラッド・メルドーとかアーロン・ゴールドバーグとか、あの世代のミュージシャンがトニーニョ・オルタやミルトン・ナシメントの曲をカヴァーしていて、ブラジル音楽に取り憑かれるアメリカ人のミュージシャンが増えていく流れがどんどん強くなってます。で、エグベルト・ジスモンチとかはアメリカでもすごく尊敬されていて、今後もっとジャズの中での存在感が大きくなっていきそうな気がしてます。
柳樂:次にかけたいのは狭間美帆の友だちで、クリストファー・ズアーっていうポスト・マリア・シュナイダーの作曲家で今すごく注目されています。世代的にはヒップホップやエレクトロニカを聴いて育った世代、20代なので、作曲的にはデジタルっぽく曲が急に切り変わったりとかすごく尖っていたりもするんですね。そんな彼もジスモンチが好きで大きな影響を受けていて、1曲カバーも演ってるので、それを聴いてみたいと思います。
『Musings』クリストファー・ズアー・オーケストラ
江利川:ジスモンチが大好きっていうのが伝わってくるアレンジですね。曲の良さをアレンジで加速させたような。
柳樂:多分、今、NYのミュージシャンたちがすごくジスモンチを研究してて、それも初期じゃなくて80年代以降の、クラシックっぽい感じが強くなって曲のストーリーがなめらかになった頃とかがすごく研究されていて、この流れはこれからもっと強くなるかなって思います。アメリカ人は今はジスモンチがすごいって言ってるけど、次にはジャキス・モレレンバウムに行く気がしてて。
江利川:そうですね。
柳樂:だから坂本龍一さんとか伊藤ゴローさんは先取りをしていたっていう話になるんじゃないかなって僕は思ってるんですけど。
江利川:さっきこのロウレンソ・ヘベッチスを聞いてて思ったんですけど、昔からブラジル音楽を聞いてる人って90年代後半からカエターノの『Livro』とかの感じを思い出した方は多いと思うんです。あれなんかアフロ・ブラジル・パーカッションとオーケストレーションで、それをやってたのがまさにジャキスで。
柳樂:なるほど。
江利川:また戻ってきてるというか再ブームになってる。だからジャキスやその時期のカエターノの作品ってブラジル側からも重要で、その辺は面白いですね。
柳樂:カエターノもそうですけど『Livro』が出た90年代頃のブラジル音楽はオルタナティヴ・ロック的な感じで評価されていたけど、ジャズ的な方向からブラジルをもう一度再検証してみると結構面白いかなと個人的には思っています。
柳樂:ジスモンチがらみでもう一曲かけたいのがあるんです。今度のスティングの来日公演に同行しているドミニク・ミラーっていうギタリスト、彼はスティングとかポール・サイモンのバックのギタリストっていうイメージだったんですけど、なぜか突然ECMに移籍してソロ・アルバムを出して。で、そのコンセプトの中に「今までECMで活躍していた伝説的なギタリストたちをオマージュする」というのがあって。彼はジスモンチとナナ・バスコンセロスのデュオのアルバムから影響を受けていて、そういうデュオを演奏してみたいということで、ジスモンチをオマージュした曲を聞いてみたいと思います。
『Silent Light』ドミニク・ミラー
柳樂:ちょっとロマンティックな感じですけど、ジスモンチとナナが演っていたようなことを自分なりの形でやってみたかったっていう曲です。多分ジスモンチはこれからジャズ・ミュージシャンの中でどんどん名前がでてくる気がします。あと、さっき話したスナーキー・パピーの最新作でグラミー賞を獲った『CULCHA VULCHA』ってアルバムの中に、エルメート・パスコワールをイメージして書いた曲があるんですよ。高橋健太郎さんが『Jazz The new Chapter 4』でジョアナ・ケイロスについて書いてて、その原稿の中でエルメートの音楽の現代性についても触れてましたが、今、エルメートもすごく注目されている一人ですね。これからはブラジル=ボサノヴァ/サンバじゃなくてエルメートとかジスモンチみたいな作曲家にアメリカ人がフォーカスしていくというのはあると思いますね。
江利川:その2人の名前は本当によく出てきます。アーロン・パークスとかも言ってたし。その辺は当たり前に共有されてるんだなって思いました。
柳樂:彼らが今やりたい音楽に一番はまってるのがその辺りだったり、ジスモンチだったらショーロ的なものにつながると思うんです。フレッド・ハーシュってピアニストがインタビューでショーロが好きだっていう話をしていて、彼の演奏ってモダン・ジャズ以前のジャズのピアノのスタイルからヒントを得て作ったものなんですね。例えば、フレッドはストライドピアノとかラグタイムってスタイルから影響を受けているんですね。で、ショーロは音楽としてのフォームがラグタイムに近くてそういう意味でもすごく魅力的で素敵だって話をしてました。そんな感じで今、色んな形でアメリカ人がブラジル音楽を発見してるって感じがありますね、ドミニクはイギリス人ですけど。
江利川:じゃあこれをかけますか。これは先週出たばかりのアルバムで、アナット・コーエンっていうイスラエル系の女性のクラリネット奏者の新作でショーロを演奏しています。彼女は元々ミルトンのカバーとかもやっていて。
柳樂:アナットは2007年に『Noir』ってビッグ・バンドのアルバムを出していて、そこでエルメート・パスコアールの「Bebe」のカヴァーとかをやってます。昔からずっとブラジルに傾倒しているんですよ。フレッド・ハーシュに「さすがにニューヨークで一緒にショーロをやるジャズ・ミュージシャンはそんなにいないでしょ」って聞いたら、「アナット・コーエンがいるよ」って言ってました。
江利川:このアルバムはブラジル人のトリオとやっていて、このトリオ・ブラジレイロも基本はサンパウロらしいんですけど、アメリカで活動することも多いそうです。曲もブラジルの典型的なショーロというよりは、もう少しモダンな所もあります。
『ROSA DOS VENTOS』アナット・コーエン&トリオ・ブラジレイロ
柳樂:アナット・コーエンってすごい人で、ジャズの世界で最も権威のある雑誌「ダウンビート」の批評家投票で、楽器別ランキングのクラリネット部門ではここ何年も1位独走してるはず。ジャズのフォーマットでフライング・ロータスの曲をカバーしたり、一方でミルトン・ナシメントの曲をやったり、ビッグ・バンドの大編成をアレンジしてみたり、新しいことにチャレンジしてる人なんです。だからこういう形でアナットみたいなジャズ・ミュージシャンがトラディショナルなショーロっぽいものをやるというのはすごく面白いんだけど、それって結構理解できることで、例えばボサノヴァとかだともっとジャズの影響が強くて、ジャズっぽいヴォイシングとかあるんだけど、アナットがやっているショーロみたいな音楽は別々のラインがそれぞれに走っていて、どこかで当たったところがハーモニーみたいな、バッハの対位法みたいな音楽だから。アメリカのミュージシャンも2000年以降そういう音楽にフォーカスしながら、ビバップとかとは違う自分たちの新しい音楽を作ろうとしていて、すごく成功したのがカート・ローゼンウィンケルやブラッド・メルドーなんだけど、その延長で同じような感覚でショーロをやるというのはすごく理にかなってて。
江利川:最近はそういう形でショーロ自体も注目されてるのかなと。
柳樂:フレッド・ハーシュがショーロを色々な形でやっていて、ジュリアン・ラージっていう、今アメリカで一番尖ってる、ちょっとブルーグラスとかカントリーの要素を取り入れたギタリストとのデュオ・アルバムの中でショーロをやってる。それはジスモンチにオマージュしたというオリジナル曲なんですね。そんな感じでショーロはアメリカで広まっているかも。ちなみに、フレッドがブラジル音楽にはまったきっかけは、若い頃ライヴハウスの仕事で出会ったエヂソン・マシャードという偉大なブラジリアン・ドラマーだってインタビューで言ってました。やっぱりブラジル人の本物のミュージシャンがアメリカに行くってことは本当に大きな影響があるんですね。
江利川:感覚とかノリも違うし。そういうジャズ・ミュージシャンとブラジル人との共演も増えて、そこから音楽が発展していくっていうのは楽しみなところでもありますね。
柳樂:で、ここで1曲かけたいんですけど、ブラジル人っぽくないブラジル人、フィリップ・バーデン・パウエルっていうバーデン・パウエルの息子さんのアルバム。彼が来日した時に楽屋に行ったら晩年のバーデン・パウエルみたいな佇まいの、すごく物静かなおじいちゃんみたいな30代後半の人がいて(笑)。色々話していたら、とにかくジャズが好きで、ビル・エヴァンス・ミュージック・アカデミーってフランスの学校でジャズを教えてるぐらいのジャズ・ピアニストで、iPhoneにはブラッド・メルドーやカート・ローゼンウィンケル、アーロン・ゴールドバーグ、アーロン・パークスとかが入ってて。「今すごい好きなのはジェラルド・クレイトンとロバート・グラスパーで、ロバート・グラスパーのヴォイシングは最高だよ!」ってまくしたてるんだけど、終わったら1人静かに座ってるみたいな人(笑)。彼の音楽は基本的にはブラジル音楽なんだけど、すごくアメリカ的なものが入っていて、不思議なアルバムになってます。だから現代のジャズは特別なものじゃなくて、基本的な技術とか理論が色々なところで基礎になってるんだなというのを感じたので、そのアルバムを聞いてもらおうと思います。
『Notes Over Poetry』フィリップ・バーデン・パウエル
柳樂:すみません、ちょうど時間切れになってしまいました。
江利川:実はこの『Notes Over Poetry』とか、今日かけた中で何枚か柳樂さんにライナーノーツを書いてもらったのを紹介しようと思ったんですが(笑)。『Jazz The New Chapter』のfacebookとかtwitterのアカウントで、来日情報とかブラジリアン・ジャズのオススメのもの、New Chapterの趣旨に合うものは紹介してくれてるので、それをチェックして音源を試聴してもらえればバイヤー冥利に尽きるなというところです。
柳樂:今日は一時間くらい喋りましたけど、ブラジル音楽に影響されたアメリカ人もたくさん出てきてるし、アメリカのジャズに影響されたブラジル人もこれからすごくたくさん出てくると思います。それらは今までのブラジル音楽やジャズとはちょっと形が違うものであったりするかもしれないけど、それはそれで楽しんでもらえたら嬉しいなという感じで、これから僕も紹介していけたらと思っております。で、よかったら『Jazz The New Chapter』を読んでください。というわけで、今日はありがとうございました。ディスクユニオンの江利川さんでした。
江利川:柳樂さんでした。
(場内拍手)
この後、本日かかったCDのジャケットがテーブルに並べられ紹介された