伊藤政則がBURRN!誌に連載する人気コラムを書籍化した『断言 1998〜2008』。12月11日(日)にタワーレコード渋谷店5Fイベントスペースで行われた出版記念トーク&サイン会のリポートが到着しています。
以下、シンコ-ミュージックより
伊藤政則『断言 1998〜2008』出版記念
トーク&サイン会リポート@タワーレコード渋谷店


伊藤政則氏
伊藤政則氏所有の貴重なアイテムを展示した『MASA ITO presents "究極のHR/HM メモラビリア秘宝展"』が開催されているタワーレコード渋谷店にて、伊藤政則『断言 1998-2008』の出版記念トーク&サイン会が12月11日(日)に行われた。
当日は満員の観客を前に、この「断言」の大本となったコラム「断言」のタイトルから、「断言」することが難しくなった現在の状況、その理由などが様々な体験談を元に語られた。
──「断言」というコラムのタイトルは、僕が一時期"これは絶対当たると断言しておこう"という風に、自分の中で主張として"断言"というのを定着させたというのがあったんですけど、今は正直言って、"断言"するのは難しいです、断言できない、できるとしたら今のロック・シーンがダメだって断言ですね。有望な新人が出てこれる状況や土壌がなくなった。その大きな理由は、力のあるマネージャーや、センスのあるレコード会社のA&R担当の人間がいなくなったこと、これが大きい。
この話題に関連して、スコーピオンズやボン・ジョヴィをマネージメントしたドク・マギーのエピソードが語られた。マリファナ関連で有罪判決を受けそうになった際、旧ソ連に於いて西欧側のバンドによる初のチャリティ・イベントの開催を裁判所に提示し、その実現と引き換えに自身は実刑を免れたというもの。実際そのフェスの現場で、様々なバンド間のやりとりや駆け引きをするドク・マギーを見た伊藤氏ならではのリアルなトークに場内は静まりかえった。
──今、"断言"がなかなか難しいのは昔のドク・マギーのような人がいないから。彼は今でもKISSのマネージャーとかやっていますけど、でもあの時のセンスはない。この本『断言 1998-2008』の時期は、海外のマーケットに比べて日本市場はまだBIG IN JAPANがあったから活況を呈していたんです。日本では大物として売れているアーティスト、例えばMR.BIGとかがいたし、彼らをコントロールできるA&Rのセンスもすごかった。例えば阪神・淡路大震災で被災した神戸チキンジョージのMR.BIGによる復興支援ライヴを行ったこととか。
そういった人材が減り、インターネットにより情報が溢れかえる中で、いかに新人バンドを売り出していくことができるか…、レコード会社もマネージメントもこれぞというプランを出しかねているという。
──これは奥の手だけど、その新人バンドが音楽のみならず新しいと思わせるためには、今の時代と逆に振り切る、全く対極のプロモーション戦略を立てるということも必要。例えばインターネットを全く使わない、アナログ感満載のやり方で何が出来るのかということのシミュレーションも模索する価値があるかもしれない。大物でいえば今回のボン・ジョヴィの新作はすごく斬新なプロモーション・プランが立てられています。発売前にライヴで全曲を披露する、そしてアルバムが出て一ヶ月しか経ってないのに全曲のライヴを出す。仕掛けてますよ。でもこれはアルバムを売りたいんじゃない、ボン・ジョヴィというバンドのアイデンティティをもう一度ファンと共有したということにある。僕はここが今一番凄いなと思ってます。なかなかできないことですよこれは。
ジョン・ボン・ジョヴィの言葉を借りれば「こんなに音楽シーンがズタズタになったのはアップルのせいだ」との見解もある。伊藤氏はこのトークイベントを次のように締めくくった。
──テクノロジーのせいにしても、テクノロジーは戻せない。でも音楽はテクノロジーじゃないないからね。だからすごく混沌とした中に我々が居て、混沌の中からどういう希望の芽を見いだして、みんなで楽しいねとかって言い合えるのかというのを探さなきゃいけない。けれどもそれを断言として言い切るのは非常に難しい時代になったということなんです。この『断言 1998-2008』には未だ若干の希望があったということを書いてますが、巻末の広瀬編集長との対談では、編集長に「"もうロック・シーンはダメになる"って伊藤さんの予言は始まってますよ」って言われてます(笑)。
1時間弱のトークながら濃密な内容のイベントは終了。この後サイン会が行われた。