まるで別次元からやってきたかのような見た目とサウンドを持つ、カナダのケベック出身の奇才デュオ、
アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ(Angine de Poitrine) 。2月に公開された米ラジオ局KEXPのパフォーマンス映像がYouTubeで440万回以上再生されるなど、現在、ネット上で大ブレイク中です。
デュオ名の“アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ”はフランス語で「狭心症」を意味します。
ギター/ベースのKhn de PoitrineとドラムのKlek de Poitrineの2人組で、2人は10代の頃から一緒にパフォーマンスをしてきました。2019年にアンジーヌ・ド・ポワトリーヌとして初めてパフォーマンスを行い、グループとして継続的にパフォーマンスを始めたのは2023年になってからです。
KlekがFlood Magazineに語ったところによると、2人が一緒にパフォーマンスをし始めたのは「常に、グロテスクな即興演奏で笑いを取ったり、自分たち独自の創作レパートリーを開発したりすることが目的だった」という。
アンジーヌ・ド・ポワトリーヌは、ジャズ、プログレ、マスロック、実験音楽、そして、世界各地の音楽的要素を混ぜ合わせた濃密かつ異質なサウンドを展開しており、奇妙な水玉模様の衣装と紙粘土製の頭部は、その謎めいた雰囲気をさらに際立たせています。
彼らのサウンドの中心にあるのは、Khnが使用している、ベースとマイクロトーンギターを組み合わせた特注のストラトキャスター風のダブルネック・ギターです。
マイクロトーン(微分音)とは、西洋音楽の標準である半音(12平均律)よりも狭い音程(4分音、6分音など)を指すもので、アラビア音楽やインド音楽などの伝統音楽では古くから使われています。Khnのダブルネック・ギターは、手作業でフレットが追加・加工されており、西洋の標準的な音階の音と音の“間”にある音程を引き出すことを可能にしています。
ドラマーのKlekはNoizeのインタビューでこう語っています。
「最初に使ったマイクロトーン・ギターは僕が作ったんだ。ノコギリでフレットを増やしたんだよ。弾き始めた瞬間、思わず笑ってしまった。僕はギタリストじゃないから、その楽器の可能性を十分に引き出せていなかったので、Khnのところに持っていったんだ。彼にはこう言ったよ。“これ試してみてよ、全然意味わかんないから”。それで、すぐに一緒に弾き始めた瞬間、音の摩擦や音程の近さのせいで、また笑ってしまったんだ」
その「摩擦」こそがポイントなのだという。インドや日本の音楽的伝統から着想を得て、このデュオは四分音や微小音程を単なる装飾としてではなく、曲の基盤として積極的に取り入れています。
ギタリストのKhnは、プログレッシブ・ロックからモダン・ジャズまで幅広いバックグラウンドを持っており、この楽器を単なるエキゾチックな珍品としてではなく、ハーモニーの言語を拡張する手段として捉えています。同じNoizeのインタビューでKhnは自身のスタイルについて次のように説明しています。
「僕が四分音を使うことで、通常の倍の長さで半音階的なアプローチを展開できるし、そのうえでさらに緊張感を高められるができるんだ。最終的には、僕たちが作る曲の多くは、ハーモニー的にはジョン・スコフィールドの『Uberjam』やマイルス・デイヴィスの『So What』にあるような楽曲と比較できるものなんだ」
KlekはFlood Magazineのインタビューの中で、こう続けています。
「変拍子でも、できるだけ聴きやすくなるようにはいつも心がけているよ。タイトで複雑なビートと、とても踊りやすいビートの間を行き来するのが好きなんだ。ギターと同じように、そういう緊張と解放のパターンを作り出そうとしているんだ」
「僕たちは物事を自然に進化させている。音楽の方向性に厳密なスタイルの境界線を設けていない。僕たちの音楽的嗜好はロックに深く根ざしているので、僕たちの作品には常に少しヘヴィな雰囲気があるかもしれないけど、曲を通してさまざまな影響を感じ取ることができるはずだよ」
KhnはFlood Magazineのインタビューの中で、こう続けています。
「僕のモットーは常に、新鮮な音楽のアイデアを世に送り出し、驚きの要素で脳を刺激しつつ、ある程度シンプルさを保つことなんだ。そして、Klekのモットーは、そうしたアイデアを踊れるものにすることなんだよ」
「僕たちは、どんな種類の象徴主義にも深く傾倒しているわけではない。バンド全体として、深いコンセプトや思想的なプロセスがあるわけでもない。耳にするものも目にするものも、すべて僕たちの風変わりなユーモアの産物なんだ。そしてそれこそが、僕らの共通のクリエイティブな空間が常に大切にしてきたことなんだ。音楽にノってグルーヴすること、笑うこと、奇妙で不条理だったり驚きを伴う美的な表現――それが視覚的であれ音楽的であれ――を通して、喜びの状態に到達しようとしているんだよ」
KEXPでのパフォーマンスがバイラルとなると、ギターに関する豊富な知識で知られるリック・ベアトの元には、アンジーヌ・ド・ポワトリーヌに関する問い合わせが殺到したという。ベアトはこう投稿しています。
「彼らについて1日に25通メールが来ているよ。コメントも何千件とね。それ(KEXPのパフォーマンス映像)を見ていると“どうやってこれを演奏してるんだ?”って思うはずだろう。これこそ、私が想像する音楽の未来のサウンドだよ」
アンジーヌ・ド・ポワトリーヌは4月2日に2ndアルバム『Vol. II』をリリースします。
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