マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)のライヴ活動再開を支えるサウンドエンジニアのマーク・キャロランが英MusicRadarの取材に応じて、およそ10年ぶりのツアー実現に向けた挑戦と興奮を語っています。
30年近いキャリアを持つライヴ音響エンジニア兼ミキシングの専門家であるマークは、英バンドの
ミューズ(Muse)のライヴを25年以上にわたって支えていることでも知られています。
マークはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの昔からのファンだという。
「僕はちょうど、『Loveless』が出た頃にMBVのファンになった世代なんだ。面白いことに、以前インディペンデント・レーベルで仕事をしたとき、新進バンドとレコーディング・セッションをよくやっていたんだけど、そのうちの一組が最近、僕が(MBV)のEP『Glider』のTシャツを着ている写真を送ってきたんだよ。彼らから“こんなTシャツを着ていた人が、今ではそのバンドのミックスを担当するまでになったんだね”って言われたよ」
マークがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインと仕事をする機会を得たのは、アイルランドのインディペンデント系プロモーター、ポール・ティモニーとのつながりがきっかけだったという。彼は、アリーナ会場で最新のPAテクノロジーをどのように活用するかについて意見を共有するため、
ケヴィン・シールズ(Kevin Shields)との電話ミーティングに参加するよう依頼されました。
「どんなアプローチを勧めるか聞かれたんだ。ケヴィンは、大量のディレイが必要なのかとか、いろいろな種類の機材を揃えるべきなのかを考えていてね。僕は、そういう会場での経験を持つ独立した立場からアドバイスをしたんだよ。それが彼らに気に入ってもらえたみたいで、その後まもなくこの仕事をオファーされたんだ」
マークがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのライヴを生で観たのは1990年代初頭だったため、頼れるのは記憶だけでした。そこで彼はまず過去作を改めて聴き直し、細部まで徹底的に掘り下げることから始めたという。
「ひとつ印象的だったのは、ヴォーカルが埋もれているという誤解があることなんだ。実際にはそうじゃない。ヴォーカルは曲のメロディ構造にとって完全に不可欠な要素なんだ。前面に出てはいないけれど、メロディ的には音楽の核心を担っている。だから僕のアプローチの一つは、音楽性やメロディをもう少し前面に出すことだった。実はバンド自身も、しばらく前からそういう方向で考えていたんだよ。
僕は、ミックスを担当することが決まると、そのアーティストを、まったく違う頭に切り替えて聴き直している。曲を再検証して、ライヴの場でその曲が何を必要としているのかを見極めなきゃならない。これはすべてのアーティストに対して僕がやっている方法だよ。まず音楽ありきで、そのあとでテクノロジーを音楽に適用する。逆じゃないんだ」
ツアー準備の一環として、マークはケヴィン・シールズのスタジオを訪れ、バンドの楽曲を一緒に検証する時間も持つことができたという。
「彼とは本当にクールな午後を過ごしたよ。彼は言うまでもなく驚くべき知識と耳を持っている。彼は僕を座らせて『Loveless』を細かく分解して説明してくれた。それが本当に興味深くて、僕がやろうとしていることを理解するうえで大きな助けになったんだ。
それに、彼のアナログへのこだわりを理解する過程で、さまざまな種類のコンプレッサーや、好みのEQについても話した。それによって、どんな機材を使い、どう使うのかという全体像を自分の中で組み立てることができたよ」
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの音楽を語るとき、世界中のファンやジャーナリスト、音楽好きの間で、しばしば熱く議論されるテーマが「音量」です。どれほどの大音量になるのかを巡ってファンが延々と議論しているスレッドは多数存在しますが、しかしマークは、そうした議論はバンドが本当に目指していることの本質を外していると感じているそうです。
「数値や音量そのものに執着する人もいるけど、僕が探していたのは感覚なんだ。FOH(客席側)では、あえてSPL(音圧レベル)の表示をスクリーンに出さないようにした。柵越しにそれをじっと見ている人がいたからね。ああいうものから自分たちを解放してしまうほうが、ずっと自由に感じられたんだよ」
マークはまた、ダイナミクスを意識したミックスを好み、ライヴの中で、轟音のパートと、より繊細で静かなパートを行き来させるようにしています。そうすることで、観客の耳は単に大音量で叩きつけられ続けるのではなく、驚きや高揚を感じることができるのだという。
「これはキャリアの中で磨いてきたアプローチなんだ。確かに、ライヴ中はものすごく大きな音になる部分もあるけれど、ライヴ全体がずっとそういうわけじゃない。最初からずっと超大音量で行くと、脳はすぐに慣れてしまって、3曲もすれば強烈さが感じられなくなる。だからこそ、曲の持つダイナミクスを使って、押したり引いたりできるポイントを見つけ、観客に対して仕掛けているんだよ。しかも、それが安っぽく感じることもなく、わざとらしくもない形でね。
(アリーナ会場について)彼らがこうした会場にふさわしいのは明らかだよ。音楽のスケール感が、こういうサイズの会場にぴったりなんだ。観客の反応を見ても、皆がそう感じていたと思う。
(マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの仕事は)自分の持っているあらゆるスキルを総動員しなければならなかった。本当に極限の挑戦なんだよ。大音量のギター・セットアップに、静かなヴォーカル、大きな期待、観客の熱狂。ライヴで“Soon”があんなに凄い曲だとは気づいていなかった。あれはいつもライヴの中で大きな瞬間になった。“Only Shallow”や“Cigarette in Your Bed”も予想外の怪物みたいな曲で、最後のワンツーの畳みかけは圧巻だったよ。
(ライヴ音響エンジニアへのアドバイスとして)当たり前のことに聞こえるかもしれないけど、“聴くこと”が本当に重要なんだ。曲そのものが何を伝えているのか、アーティストが何を伝えようとしているのかに耳を傾けること。そして、“アーティストはこう言おうとしているに違いない”と決めつけてしまう先入観が、自分の役割の妨げにならないようにすること。テクノロジーの面にばかり集中しすぎて、そこに没頭しすぎてしまう人もいる。でも実際のところ、大事なのは音楽にとって正しいことをすることなんだよ」