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エイドリアン・ブリュー、キング・クリムゾン「Thela Hun Ginjeet」やナイン・インチ・ネイルズ『The Downward Spiral』の制作舞台裏を語る

2026/03/06 16:55掲載(Last Update:2026/03/06 16:59)
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Adrian Belew
Adrian Belew
エイドリアン・ブリュー(Adrian Belew)は自身が参加した、キング・クリムゾン(King Crimson)「Thela Hun Ginjeet」(『Discipline 』収録)、トム・トム・クラブ(Tom Tom Club)「Genius of Love」、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)『The Downward Spiral』の制作の舞台裏をVultureの新しいインタビューの中で振り返っています

■King Crimson, Discipline (1981)

「これは、いわば僕にとってのキング・クリムゾンのハネムーン・レコードなんだ。バンドが集まって、全員が完全にハッピーな状態にある時期ってあるだろう? あの時はまさにそれで、喜びしかなかった。正直、自分たちが何をしているのかすらよく分かっていなかった。ただやっていただけ。まさか自分たちが、後に『Remain in Light』や『Graceland』みたいに“金字塔”と呼ばれるような作品を作っているなんて、誰も気づいていなかった。

そのアルバム制作中に、とんでもない出来事が僕に起きた。前年にジョン・レノンが殺害されて、そのあとに僕は“Heat in the Jungle”という曲を書き始めていた。都会というジャングルで、銃によって誰かが襲われる――そんなイメージの曲で、“銃の熱”みたいなニュアンスを込めていた。でもロバート・フリップはそのタイトルがまったく気に入らなかった。それで、録音を続けるためにヨーロッパに戻る飛行機の中で、僕はその言葉をスクラブルのタイルにして何度も並べ替えていた。この曲にはアフリカ的なリズムの感覚があると感じていたから、いっそ意味のない言葉を作ったら面白いんじゃないかと思ってね。そうしてできたのが“Thela Hun Ginjeet”という言葉なんだ。

レコーディングしているとき、僕はロバートにこう言った。“テープレコーダーに向かって、自分の体験を語っている男がいる、そんなイメージなんだ。殺されかけた、とかそういう話をしている感じで”。するとロバートは“いいね。じゃあウォークマンを持って外を歩き回ってみたら? 背景に犬の鳴き声とか入るかもしれないし”と言った。

ところが、僕が録りたいと思っていた出来事が、本当に僕自身の身に起きてしまったんだ。かなり荒れた地域を歩いていた。誰も教えてくれなかったんだけど、前年にそこで人種暴動があって、すごく危険な場所だったんだ。脇道を歩いていたら、いかにも荒っぽい感じのジャマイカ人の男たちのグループに囲まれて、“お前、何してるんだ?”って言われたんだよ。あとで分かったんだけど、彼らは違法な賭博を仕切っていて、僕の短い髪とちょっと小ぎれいな服装を見て、警察関係者だと思ったらしい。

男はテープレコーダーを奪い、再生して“銃を持っている”と言った。それは僕が録りたかったセリフの一つだった。つまり、その場で本当に襲われかけたんだ。どうやって切り抜けたのか覚えてないし、曲での僕の声を聞けばわかるだろうけど、ひどく動揺していて、完全にパニック状態で、言っていることもめちゃくちゃなんだ。

そのあとスタジオに戻って事情を説明し始めたら、ロバートが“ちょっと待って。スタジオの全員を集めよう”と言った。そしてエンジニアに、僕に気づかれないように録音させていたんだ。僕がその出来事を全部話しているのをね。その録音が、そのまま曲の中に使われている。じつにロバートらしい、見事な手腕だよ。最初に完成した曲を聴いたときは、信じられなかった。本当に鳥肌が立った。ものすごく生々しい切迫感が宿っているんだよ」



■Tom Tom Club, “Genius of Love” (1981)

「クリスとティナは、バハマにある自分たちのスタジオのすぐ裏のアパート群に住んでいて、僕はよく遊びに行っていた。一緒にのんびり過ごしたり、ビーチに行ったりしてね。時々、彼らがアイデアについて話しているのを聞いたり、デモを流したりするのを耳にしたりもした。スタジオにもリラックスした状態で行って、1回に1~2トラックずつ録音していた。どれもその時点では“完成”という感じではなかったんだ。

僕がそこを離れる頃、ティナは姉妹たちを呼んで、ある曲にコーラスを入れさせた。それが後に“Genius of Love”になった。曲作りを始めた時、“このリフでちょっと遊んでみよう”と言ったんだよ。ほとんどワンコードみたいな曲なんだけどね。気がついたら、みんなが“これは夏の大ヒットになるぞ”と言い出して、実際その夏に大ヒットした。時にはそんなに簡単に生まれるものなんだよ。気づけばこの曲は世界でいちばんサンプリングされる曲のひとつになっていた。特にヒップホップでね。

あるときキング・クリムゾンのコンサートで、あるカップルがマライア・キャリーのレコードを持って近づいてきて、“サインしてもらえますか?”って言われたんだ。僕は“どうして? 僕はマライア・キャリーを知らないよ”と言うと彼らは“だってあなた、この曲に関わっていて、今この国で1位の曲なんですよ”と言うんだよ。僕はチャートを全然チェックしないから、まったく知らなかった。それは本当に大きな出来事だった。2年前にも、同じようなことがまた起きた。“Big Energy”でね。友人から電話がかかってきて、“また1位だぞ”と言うんだ。彼がその曲の歌詞のスクリーンショットを送ってきたんだけど、読んでみたら、とんでもなく下品な内容だったよ。

これまでに“Genius of Love”をサンプリングした曲は、200曲近くある。もちろんロイヤリティは入ってくるけど、曲全体の取り分というわけではない。法律上の前例があって、もし誰かが僕のトラックを使った場合、そのトラックには全体のロイヤリティの32%が割り当てられる。作曲者が4人いたから、僕らはそれぞれ8%ずつ受け取ることになる。まあ、おかげで僕は十分に快適な生活を送れているよ」

■Nine Inch Nails, The Downward Spiral (1994)

「ナイン・インチ・ネイルズがどんなバンドか、まったく知らなかった。正直に言うと、マネージャーに説得されてこの仕事を引き受けたんだ。彼は“彼らは本当にすごいんだよ。大成功していて、ファンも多い。会ってみて、トレント・レズナーってやつと話してみたらいい”と言った。

そのとき僕はロサンゼルスにいて、機材も持っていたから、断る理由も特になかった。車でその家まで行ったんだけど、見た目がすごく奇妙だった。周囲には巨大な電気フェンスが張り巡らされ、窓は全部真っ黒に塞がれている。でも建物自体は農家みたいな感じなんだ。中に入ると、すぐに作業が始まった。どれくらいそこにいたのかも覚えていない。食べ物は運ばれてきて、外には一歩も出ず、ただひたすら音楽を作り続けた。トレントは自分の曲を全部聴かせてくれて、“この中で何かやってみたいことはある? インスピレーションを感じるところは?”と尋ねてきた。

彼はかなり寡黙だったけど、静かな情熱を持っているタイプだった。彼の周りには数人の仲間たちがいて、いわば彼のクルーみたいな感じで、それぞれ違う役割を担っていた。それが後にアルバム『The Downward Spiral』になった。あとになって知ったんだけど、僕たちが録音していたその場所は、シャロン・テート殺害事件のあった家だったんだ。彼らと一緒にツアーに出る予定だったんだけど、トレントが考えを変えてしまって、それは実現しなかった。結果的には、それで良かったと思う。でも今でも彼のことは大好きだよ」