モッシュピットやサークルピットの裏にある「物理学」とは? 数理モデルで人間の行動パターンを解析する研究を行う、英国の数学者ハンナ・フライはポッドキャスト『The Rest Is Science』の中で、モッシュピットやサークルピットの裏にある物理学について解説しています。
フライは、読者から寄せられた「モッシュピットと流体力学について少し話してもらえますか?」という質問に対して答えています。
質問に答える前に、フライは、2013年にコーネル大学が発表した論文「Collective Motion of Humans in Mosh and Circle Pits at Heavy Metal Concerts(ヘヴィメタル・コンサートにおけるモッシュピットおよびサークルピットでの人間の集団運動」を参照しました。この論文はモッシャー(モッシュをしている人)と粒子の挙動を比較しています。
「彼らは、複数のヘヴィメタルのコンサートに実際に足を運び、さらにインターネット上の映像も視聴したうえで、きちんとした学術論文として書き上げました。論文にはこうあります。
“ここでは、ヘヴィメタル・コンサートに典型的に見られる極限状態下における大規模群衆(102~105人)を分析する。負傷を伴うことも多い集団心理は、大音量(130デシベル)、高速(毎分300ビートを超えるブラストビート)の音楽、点滅する明るい照明、頻繁な酩酊状態の複合的要因によって形成される”
要するに、こういう話なの。人を人として見るのをやめて、粒子として考え始めると、実はモッシュピットで見られる行動は、本質的に流体システム全体に共通する現象だとわかるのよ。
一人ひとりが実質的に粒子みたいなものだと考えると、彼らは前進し、絶えず衝突していて、自分の周りで起きている局所的なことに反応しているだけで、システム全体には反応していない。みんなが一連のルールに従っているわけじゃなくて、ただ周りで起きていることに反応しているだけなのよ。
そこで物理学者たちは、数理モデル、コンピュータシミュレーションを作った。ここには愛らしいユーモアが込められていて、彼らはこれを『Mobile Active Simulated Humanoids model(移動型能動的擬人化モデル)』、略して『Mashers(マッシャーズ)』って名づけたのよ。
こういう群衆の状況にいるとき、人には2つの異なる傾向がある。
ひとつは、周りの人がしていることを模倣する群集行動。これは、鳥の大きな群れで起きていることと同じで、あれは隣の鳥の平均速度や方向をまねているのよ。人間も同じで、群衆が特定の方向へ動いている場合、私たちも自分のすぐ周りで起きていることをまねる傾向がある。
しかし一方で、個体として行動する際には、もっとランダムで予測不能な動きをする。たとえば(群衆が特定の方向へ動いている場合でも)誰かが友だちを見つけた場合とかに、そういうことが起きたりする。
で、研究者たちが見つけたのは、モッシュピットが実際に流体のような状態を持っているということ。本質的には、原子が入った箱を観察した時に見られるのと同じパターンを形成しているのよ。
いわゆる無秩序な流体で、マクスウェル=ボルツマン分布として知られているものだけど、人々はこうした無秩序な方法で互いに衝突し合いながら動き回っている。でも、より多くの人が入ってくると、人々は渦のような状態、つまり流体で見られるのと同じ円運動のような動きに組織化されていく。観客たちが一緒に回転していくのよ。どこからともなく現れるサークルピットは創発的なもので、誰かが“さあ、この方向に回り始めろ!”なんて指示するわけじゃないのに起こる。
(もう1人のホストが“彼らはそれぞれ自分の意志を持った人間で、こうしたパターンをあらかじめ組織しているわけじゃない”と言うと)
そう。だから、人としての行動をやめて、粒子として行動し始めたときに起きる現象なんです」
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