パティ・スミス(Patti Smith)は新しい回顧録『Bread of Angels』の中で、自身の家族の秘密を初めて明かしています。父親だと思っていた男性が実の父親ではないと10年以上前に分かったこと、実の父親が誰なのか最近分かったこと、そして実の父親を捜すのを助けたのがスミスが20歳の時に養子に出した彼女の娘だったこと。米Peopleで抜粋が公開されています。
2002年の初秋、スミスは母親と電話で、自身の声が低くなってきていて、いくつかの曲はキーを変えなければならない、という話をしたという。すると母親は「そのうち私みたいな声になるわね」と冗談を言い、そして次に会えたときに「遺伝について話したいことがある」と明かしました。
しかし次に彼女が母親に会ったのは病院でした。母親は転倒して頭を打ち、血栓の手術を受けていました。スミスによると、母親は以前とは同じではなくなり、遺伝の話を尋ねようとしても、母親は「私をぼんやりと見つめるだけ」だったという。
スミスは、母方の曾祖母が長年、自身の父親について疑問を抱いていたと明かしました。曾祖母は、実はスミスの父は自分の息子(スミスの大叔父)なのではないかと疑っていましたが、しかしその考えは、両親によって「一蹴された」という。
2012年、スミスと彼女の姉妹であるリンダはDNA検査を受け、自分たちが異母姉妹であることを知りました。スミスは回想録にこう書いています。
「私たちは泣きました。検査結果は私の思考プロセスに大きな負担をかけ、しばらくの間、私は書くことができませんでした。毎朝欠かさず、ノートとコーヒーを持って地元のカフェに座っていたのに、私は自分が書いたことの正当性を疑わざるを得なくなったのです。
私は母方の叔父であるジョーが私の父親だとほぼ間違いないだろうと思い、検査結果がそれを裏づけるものだと完全に思っていました」
スミスとリンダはさらに、遺伝的な起源をよりたどるため、常染色体DNA検査を受けることにしました。
検査結果はスミスの70歳の誕生日(2016年)に届けられ、父方が「100%アシュケナージ(※かつてドイツ語圏や東欧地域に定住したユダヤ人の血統)」であることが判明しました。母方の先祖はロシアの出身で、その後ウクライナへ逃れ、フィラデルフィアに定住しました。
では、スミスの父親は誰だったのか。スミスが最終的に真実を知ったきっかけは、20歳のときに養子に出した娘のおかげでした。スミスは1967年、20歳の時に第一子となる娘を出産し、養子に出しました。
スミスは、長女と数年前に再会し「私たちの家族に迎え入れられた」という。長女は、自身がスミスのもとにやってきた技術を駆使して、スミスの実父の身元を突き止めました。長女は名前を手に入れ、それを手掛かりにインターネットで徹底的に調べた末に、スミスは父親シドニーの写真を見つけました。
スミスは従兄弟を見つけ出し、生物学的なルーツに関する情報を共有してもらいました。その従兄弟によると、シドニーは若くして亡くなり、シドニーの妻は90代まで生きたものの、スミスがそれを知るには遅すぎて、会うことはかなわなかったという。
スミスはPEOPLEに対し、この事実を受け止めるため『Bread of Angels』の執筆を2年間中断したと語っています。
「この情報をどう扱えばいいのかわからなかった。執筆中の本は真実を貫くべきだと思っていたのに、突然並行する真実が現れたから。そして、もしそれについて書かなければ、真実が損なわれるような気がしたんです」
彼女はまた、自分に命を与えてくれた男性にも敬意を表しいとも思っていました。
「ほかの誰かに感謝を伝えるのと同じように、彼にもきちんと感謝を伝えたかった。彼もまた、ほとんど誰の記憶にも残っていない人でした。彼には、他に子どもはおらず、周りの家族も少なくて、誰からもほとんど記憶されることのない人物でした。だから私はそれを正したかったのです」
彼女は、母親のビバリーと、育ての父グラントのことを愛情深く語っています。実のところ、実の父シドニーをたたえることは、二人も望んでいたことだと彼女は考えています。
「私はとてもオープンで人間味あふれる環境で育ったので、母も父もそれを喜んでくれると思います」
だからといって、感情的な負担を現実的に認識していないわけではないとも話しています。
「グラントの実の娘ではないことが悲しかった。リンダが異母姉妹だったことも悲しかった。でも結局のところ、それは問題ではない。私たちがお互いを思う愛情、私が父を思う愛情は血の絆を超え、姉妹への愛も血の絆を超えています」
長女のおかげで実の父親の真実にたどり着くことができたことも振り返っています。
「人生における対称性は、恐ろしいものにも、まるで運命が全てを予め設計したかのようにも映ることがある。でも別の見方をすれば、とても美しくも見える。娘はとてもとてもプライベートな人なので、本の中でも彼女のプライバシーを尊重しましたが、それでも彼女が家族の一員で愛されていること、そして本当に助けてくれたのは彼女だったということは伝えたかった。多くの調査、探偵のような作業、さまざまな血筋をたどる作業がたくさんありました。でも最終的に、まさにその人物を見つけ出しました。本当に奇跡のようなものです。
この全てを理解し、どう語ればいちばんよく伝わるのかを考えるのに時間がかかりました。同じ経験をした多くの人と会いましたが、彼らは深い怒りと苦しみを感じていました。嘘をつかれたと感じ、母親に怒りを向けることもあります。だから、もし別の見方を示せば、助けになるかもしれないと思ったのです」