かつて
ザ・キンクス(The Kinks)の
レイ・デイヴィス(Ray Davies)と話す時、決して言ってはいけない人物の名前がありました。ギタリストのスティーヴ・ボルトンは、それを口にしてしまった時のエピソードを米Guitar Playerのインタビューの中で振り返っています。
レイは2006年のソロ・アルバム『Other People's Lives』でスティーヴにギター演奏を依頼しました。スティーヴは、友人たちからレイは気難しく「彼は本当に変わった人で、愚か者には容赦しないから気をつけろ」と警告されていたという。
しかし、レイはスティーヴも同じベジタリアンだと分かると、スタジオでビスケットを持って出迎えてくれるなど、2人は意気投合して、一気に打ち解けました。
「とはいえ、レイ・デイヴィスについては絶対に口にしないことがいくつかある。そのひとつが、
プリテンダーズ(The Pretenders)の
クリッシー・ハインド(Chrissie Hynde)だ」
レイとクリッシーは1980年から1984年にかけて関係を持ち、娘がひとり生まれました。その後、2人は別れましたが、スティーヴがレイと仕事をしていた頃には、破局から20年以上経っていましたが、2人の確執は続いていました。
「だから、彼女の名前を口にしないことは暗黙の掟だったんだ」
しかし…
「ある日、スタジオのコントロールルームで、エレキギターをアンプに繋ぎ、ある曲のオーバーダビングをしていた。すごくクールなギターパートができて、コード進行に合わせて何テイクか試してみたんだよ。ひとつは、比較的普通の流れるようなアルペジオ風で、もうひとつはもっと攻めた感じで、もっと自由にやってみたんだ。
後で、両方のオーバーダブを聴き返していたら、プロデューサーのローリー・レイサムが僕に“スティーヴ、最初のやつのほうが好きだ。より正統派のアプローチの方がいいと思うよ”と言った。
するとレイが僕を見て“そうだな、スティーヴ。俺も、より正統派のアプローチの方が好きだ。ローリーに同意だよ”と言った。
でも僕は“いや、実は、僕はもっと自由奔放なヴァージョンの方が好きなんだ。だって正統派のアプローチだと、ちょっと…”と言いかけた瞬間、頭の中で声がしたんだ。“言っちゃえ、言っちゃえ!”って。
僕は“ちょっとプリテンダーズっぽくなっちゃうから!”と言った。
そしたら部屋全体が不気味なほど静かになってさ。レイを見て、“悪気はないんだ”って言ったら、レイが“気にしてないよ。言いたいことはよくわかる”って言ってくれた。ふぅ、今回はなんとか切り抜けたよ!」
ちなみに、レイとクリッシーはその後わだかまりを解いて、2009年にデュエットを録音しています。