
Wings: The Story of a Band on the Run
ポール・マッカートニー(Paul McCartney)は、
ウイングス(Wings)の結成から解散までの軌跡を綴った新しい回顧録『Wings: The Story of a Band on the Run』の中で、1980年1月に予定されていたウイングスの日本公演のために訪日した際、ポールが成田空港の税関で大麻取締法違反で逮捕された時のことを改めて振り返っています。The Sunday Timesにて抜粋が公開されています。
「ニューヨークにいたとき、本当に質のいい大麻をたくさん手に入れた。日本へ行く直前だった。向こうでは吸えないのはわかっていたけど、トイレに流すには惜しすぎるほど良質なものだったんだ」
当時アメリカ滞在中で、カーター大統領が大麻の非犯罪化を検討していたこともあり、ポールは大麻を「大したことじゃない」と考えていたという。それだけに、成田空港の税関の反応は大きなカルチャーショックでした。
「大麻所持で7年の重労働刑が科される日本に、あんなに気楽に構えてやってくるなんて、人生で最も狂った行為だった。あのクソでかい袋をスーツケースの一番上に置いたんだ。なんでセーターの中にでも隠さなかったんだ?」
その日、ポールは大麻取締法違反で逮捕されました。
「日本の法律を破ったことを謝罪した。ひと月で使い切れないほど持っていたのがおそらく悪かった…。通ってきた学校、父の名前、住所、収入まで、人生のことを一通り全部話さなきゃならなかった。女王から授かったMBE勲章のことも話さねばならなかった」
逮捕を受け、一夜にして、ウイングスのツアーポスターは一枚残らず撤去されたと、ウイングスのドラマー、スティーヴ・ホリーはこう語っています。
「100フィート(約30メートル)ごとに『ウイングス――世界最高のロックバンドが1980年に日本を訪れる』というポスターが貼ってあった。そこら中にあったし、どれだけあったのか見当もつかない。ところが朝になったら、それらは全部なくなっていた。ラジオ局も沈黙した。何も流さなくなったんだ」
事態の深刻さから、ポールは家族が日本に住まなければ、面会すら叶わないとさえ考えたという。ポールはこう書いています。
「最初の3日間は眠れなかった……。殺人で収監された男と風呂を共にしなきゃならなかった。レイプされるかもしれないと思って、スーツを脱ぐのが怖かった。でも、戦争捕虜の映画をたくさん見てきたから、士気を保たなきゃいけないってことは分かっていた」
「士気を保つ」ために、ポールがしたのは…
「ほかの被疑者と一緒に歌ったりしていた。隣の部屋にも何人かいて、コミュニケーションを取ろうと試みた。日本語を少し覚えようとして、みんなが“こんにちは”と言っているのが聞こえた。それで“コニーチュア”って言ったんだ。まるで女子高生の名前みたいに、コニー・チュアってね。“ありがとう”くらいは言えたけれど、それ以上はほとんど話せなかったよ。
(9日後に)出られて嬉しかったけれど、中で何人か友達ができたから、別れは少し寂しかった。自由の身になって歩き出すとき、独房の鉄格子越しに、彼らと握手したんだ」