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ネーナ 「ロックバルーンは99」について語る 誕生の逸話/英語版は「全く共感できなかった」/冷戦時と現在とでは歌う感覚はどう違う?

2025/10/22 14:55掲載
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NENA | 99 Luftballons(99 Red Balloons)
NENA | 99 Luftballons(99 Red Balloons)
「ロックバルーンは99(原題:99 Luftballons/99 Red Balloons)」のヒットでも知られるドイツのシンガー/女優ネーナ(Nena)。MusicRadarの新しいインタビューの中で「ロックバルーンは99」について語る。誕生の逸話、英語版は今も昔も「全く共感できない」、冷戦真っ只中に歌った当時と、分断された現在の世界で歌う感覚はどう違うのか?など語っています。

「歌詞が最初でした。私たちのギタリスト、カルロ・カーゲスが1982年にベルリンでローリング・ストーンズのコンサートを観ていた時に生まれました。公演の最後に、ストーンズが風船を空に放つと、風に乗って風船は壁の方へ、東ドイツの方へと向かっていったのです。

その強烈な光景を目にして、カルロは“もし誰かがそれを誤解したらどうなるだろう”と考えました。その夜のうちに彼は歌詞を書き上げ、翌日のリハーサルで、その紙を私に渡してニヤリと笑いながら“これを読んで”と言いました。。

私は声に出して読みました。“君に少し時間があるなら、君のために歌うよ──地平線へ向かう99個の風船の歌を”。一瞬で心を打たれました。そして同時に、これはきっと大きなことになると、となぜか確信しました。私たち二人ともそう感じていました」

「あの曲は書かれる運命だった! ああいうのは計画してできるものじゃない。深く心を揺さぶる体験をすることで生まれた。まるで啓示か内なる呼び声のように。腰を下ろすと、言葉が自然に流れてきて、数分のうちに完成した歌詞が紙に現れる。毎日起きることじゃない。本当に特別な瞬間。カルロはそのインスピレーションに完全に身を委ねて、この素晴らしい曲のメッセージにぴったりの言葉を生み出してくれた。ありがとう、カルロ!」

カルロの歌詞は、彼の中で際限なくエスカレートしていくビジョンを描いていました。

放たれた風船(ミック・ジャガーによって打ち上げられたものから、曲の歌手と聴き手が共に放つ設定に変更)がレーダーに探知される。やがて(特定されない)軍用機によって迎撃される。ジェット機が重火器で風船を攻撃すると、その結果生じた眩い爆発が街路にパニックを引き起こす。近隣諸国はこの奇妙な敵対行為に気づく。それは、好戦的な軍事指導者たちにとって膠着状態の緊張を破る口実となり、やがて戦争が勃発し、冷戦期の核恐怖が頂点に達した時代設定ゆえ、完全な壊滅をもたらす。

この楽曲は、戦争の陳腐さを強調し、そして世界の安全を、それぞれが自分たちの物語の主人公であると考えている非合理的な軍事指導者たちに委ねたことによって、壊滅的で長く尾を引く結果を描いています。

この曲のオリジナルのドイツ語版は、国際的な大ヒットとなりました。ドイツ語の曲としては異例のアメリカやオーストラリアでも成功を収めました。

「ニューヨークから電話がかかってきた時、レコード会社から興奮した声で“99 Luftballonsがアメリカのラジオでヘビーローテーションされて、チャートの順位が上げている”と告げられました。想像もしなかった素晴らしいことが次々に起こっていて、頭が追いつかないほどでした。私たちはただその瞬間を全力で生き、あらゆる瞬間を心から楽しんでいました」

より慎重な姿勢の強い英国市場向けに、この曲の英語ヴァージョンをシングルとしてリリースしてほしいという要望が出たとき、バンド側は懐疑的でした。しかし最終的に要望に同意し、作詞家のケヴィン・マカレアが起用され、楽曲のリードヴォーカルを英語で再解釈した歌詞を執筆することになりました。

オリジナルのドイツ語版の歌詞の多くは直訳すると英語では意味を成しにくかったため、ケヴィンは同じ物語を、やや異なる形で再構成し、ネーナがそれを再録音しました。

このとき「Luftballon」(直訳すると「空気の入った風船」)は「赤い風船」へと姿を変えました。オリジナル版では色は特定されていません。

ネーナとバンドはこの歌詞の改変を好まなかったと言われています。英語版も大成功を収め、バンドは英国チャートで驚異的な1位を獲得しました。

ネーナは現在、このヴァージョンについてどう感じているのか? こう話しています。

「英語の歌詞も悪くないと思う。でも、心から生まれたものではなかった。私たちの物語をまったく違う形で伝えている。あのヴァージョンには全く共感できなかった。ロドニー・ビンゲンハイマー(KROQ-FM)のおかげで、ドイツ語版がアメリカのラジオでしょっちゅう流されていて、一気に人気が爆発した。それでもレコード会社は英語版を求めた。完全にお金目当ての判断だったと思う。おそらく彼らは、ドイツ語の曲は国際的に長期的な成功は望めないと考えていたのでしょう。英語版のほうがより多くの人に届くと期待していたと思うけど、でも、世界中どこでも、リスナーが聴きたがったのはいつも私たちのオリジナルのドイツ語版だった。日本でもね」

冷戦真っ只中に歌った当時と、今歌う感覚はどう違うのでしょうか? いまの分断された世界で、この曲は新たな響きを持つのでしょうか?

「今も当時と同じ喜びで歌っている。そうでなければ、今頃は別のことをしていたでしょう。確かに、私たちは今も分断された世界に生きています。でも、私たち皆が経験しているこの強烈なプロセスは、私たちを、人々のあいだに平和とつながりがある新しい世界へ導いてくれると信じています。誰もがそれに貢献できます。私の音楽と観客との繋がりを通じて、私は自分の役割を果たそうとしています。

音楽は架け橋となる。人々が一緒に歌うと、心のエネルギーがあらゆる方向へと流れていきます。心のエネルギーは愛です。そして私たちが愛を選ぶとき、人類は再びひとつになり、新しいあり方を創造することができます。『Wir gehoren zusammen』(私たちは一緒)が私の〈現在の〉ツアーのタイトルで、とてもシンプルなメッセージです。私たちは皆、より大きな全体の一部であることに気づき、その全体を自分たちの手で形作る責任を負わねばならないと気づくことなのです」

ドイツ語版「99 Luftballons」


英語版「99 Red Balloons」