HOME > ニュース >

トム・ウェイツとの仕事はどのようなものなのか? マーク・リボー語る

2025/05/28 19:48掲載
メールで知らせる   このエントリーをはてなブックマークに追加  
Marc Ribot
Marc Ribot
トム・ウェイツ(Tom Waits)との共演でも知られるギタリストのマーク・リボー(マーク・リーボウ/Marc Ribot)。ウェイツとは『Rain Dogs』をはじめとなるアルバム制作やツアーを行っていますが、ウェイツとの仕事はどのようなものなのでしょうか? 英ガーディアン紙の新しいインタビューの中で語っています。

アルバム制作について、ウェイツは、自身が割り当てたパートを単に演奏するミュージシャンには興味がなかったという。

「僕たちは皆、創作プロセスに参加していた。楽譜やオーケストレーションはなく、トムがギターやピアノ、コンガでリズムと雰囲気を作り、それに合わせて僕たちは各パートを考えた。彼は曲を劇的に考え、聴き手に問いかけた。歌っているのはどんな人物か? どんなバーで歌っているのか? そいつは不快な息をしているのか? ギタリストとして常に選択を迫られる。大きく弾くか静かに弾くか、シンプルなハーモニーか不協和音のクラスターか。山の上から信徒たちに命令を叫ぶ神なのか?それとも誰かの耳元で囁く存在なのか? 僕たちは常に、曲が語る物語を支える演奏を心がけた」

リボーはウェイツのライヴ・バンドにも参加しました。

「60~70曲もリハーサルしたよ。トムは(予定していた曲を突然)キャンセルしたり、あるいはリハーサルしていない曲を突然演奏したりするから、それに即座に対応しなきゃならなかった。トムは要求の厳しいバンドリーダーだった。グルーヴが必要で、バンドが煮え切らない演奏をすると、彼は肉体的にも精神的にも傷ついてしまう。コンサートの映像で、彼がマイクスタンドをステージに叩きつけるのを見たことあるだろう? あれは仕掛けでもパフォーマンスでもない、“しっかりやれ”って僕たちに伝えてるんだ。でも彼は常に敬意を払っていた。トムはミュージシャンと召使いの違いを理解していたよ」

リボーはその後もウェイツと仕事を続けていますが、ウェイツは2011年を最後にアルバムを出していません。

「トムの創作プロセスは誰にとっても、おそらく本人ですら理解できない深い謎だ。でも、もしジャムりたいなら、僕はここにいることを彼は知っている」

『Rain Dogs』以降、リボーのセッション・ワークは多岐にわたり、エルヴィス・コステロ、マデリン・ペルー、フォータスなどと共演しました。

「僕を万能プレイヤーとして雇おうとしたり、トムのアルバムみたいな演奏を求めたりする人は、すぐにその考えを改めることになる。僕が心がけているのは、自分が聴いているものを理解すること。トムの曲で僕がやった演奏は“良いギター”だと思ってやったわけじゃない。あの曲にはあの演奏が合っていたからなんだ」

彼は、どんな一流のミュージャンと共演しても、自分の能力を発揮できる、実力のあるセッション・ミュージシャンですが、憧れのロバート・プラント(Robert Plant)と共演した時は「完全に怖気づいた」と笑いながら語っています。Tボーン・バーネットから、ロバート・プラントとアリソン・クラウスの2007年アルバム『Raising Sand』への参加を依頼されたときを振り返っています。

「中学時代のロックバンドはLove Gunという名前だったし、世界中の他のギタリストたちと同じように、僕もいつも“Whole Lotta Love”を演奏することを夢見ていたんだよ! ついにメタルを弾ける!と20種類のファズボックスを持っていったんだ」

残念ながら『Raising Sand』はアメリカーナ風の作品でしたが、それでもリボーの興奮は収まりませんでした。

「それでも、ヘッドフォンからプラントの声が聞こえるたびに、僕は映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』の主人公のように、(心の中で)ナチス式敬礼を止められなくなっていて、僕の足はファズボックスに向かって小刻みに動いていた。アリソンはとても素晴らしいシンガーでストーリーテラーだ。彼女の声と彼女が歌っていた物語に完全に引き込まれて、演奏することを完全に忘れてしまった。そんなことは初めてだったよ」