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トランプ米大統領の関税が楽器メーカーに「壊滅的」打撃を与える可能性について全米楽器商協会の社長語る

2025/03/06 16:31掲載
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Guitars auctioned from the estate of Walter Becker by Julien's Auctions on Oct. 18 and 19, 2019 - Photo by Pamela Chelin
Guitars auctioned from the estate of Walter Becker by Julien's Auctions on Oct. 18 and 19, 2019 - Photo by Pamela Chelin
トランプ米大統領の関税が楽器メーカーに「壊滅的」打撃を与える可能性について、全米楽器商協会(NAMM)の社長兼CEOを務めるジョン・ムリンザックが米ビルボード誌のインタビューの中で語っています。

トランプ米大統領は、カナダとメキシコからアメリカに輸入される製品に対して25%の関税を課すと発表し、また中国からの輸入品に新たに10%の追加関税を課し上乗せする関税をあわせて20%とする大統領令に署名しました。これに対して、カナダ、メキシコ、中国は対抗措置として報復関税を行っています。

米国の多くのミュージシャンは、知ってか知らずか、メキシコ、カナダ、中国で製造された楽器を演奏しています。

米国国際貿易委員会のデータによると、2024年には中国から989,621本のアコースティックギターが輸入され、メキシコからは187,722本のギターが輸入されました。フェンダー、マーティン、テイラーなどのトップギターブランドは、手頃な価格帯の製品の多くをメキシコで製造しています。

ムリンザックはこう話しています。

「グローバルなサプライチェーンのおかげで、私たちは高品質で手頃な価格の製品を作ることが可能になりました。それを実現するまでに数十年を費やしました。輸入品のコストがいたるところで上昇し始めると、それは困難を伴うものであり、業界としてこれまで学んできたことすべてを本当に脅かすことになります。

中国は世界最大の楽器製造拠点です。それに次いで、メキシコ、米国、カナダ、インドネシアでも多くの楽器が製造されています。ヨーロッパでも多くの製造が行われています。

米国には数多くの楽器メーカーがあります。米国製の高品質な楽器がかなりの数存在していることを誇らしく思います。他の業界と比較しても、これは非常に多い数です。しかし、その仕組みはこうです。最高級のカスタム製品は米国で製造され、中級およびエントリーレベルの製品はメキシコや中国などのパートナーによって製造されます。

理解していただきたいのは、最高級製品を米国で製造する余裕のある企業があるのは、海外からの中級およびエントリーレベルの製品からの収益があるからだということです。私たちのサプライチェーンは深く相互に結びついています。楽器が中国やメキシコだけで製造されているわけではありません。中国で非常によく作られた特定の部品が最終組み立てのために輸入されています。あるいは、メキシコに特定の部品の製造に特化した工場があり、そこから輸入している場合もあります。そして、米国で組み立てているのです。これは、この作業が高度に専門化されているためです。

“製造拠点を他の場所に移せばいい”という考えの何が本当に破壊的なのかというと、実際にはそれほど簡単ではないということです。私たちが製造しているのは、ラインから流れてくる一般的な製品ではありません。世界中のこれらの労働者は、音楽製品のテスト方法、金管楽器のベルを完璧に磨く方法、バイオリンの弦の調弦方法を理解するように訓練されています。これらの楽器には手作業で製造される部品があり、それらを適切に製造するには、場合によっては数十年を要します。これらの工場には、何世代にもわたって働く労働者も珍しくありません。このような技術は一朝一夕で習得できるものではないのです。

問題なのは、これらの関税が意図的に懲罰的であり、意図的に適用除外のないように設定されていることです。米国には非常に優れた製造業が数多く存在しているため、報復関税は実際により深刻な影響をもたらします。輸入関税だけでなく、輸出関税も問題なのです。米国製の楽器は世界中のミュージシャンに本当に人気があります。ダブルパンチです。本当に厳しい状況です。

(関税が課されると、製品の価格が上昇することが多いですが、中古楽器市場の急騰につながると思いますか?)

可能性はあります。実際、新型コロナウイルスの影響で、現在、中古品が急増しています。パンデミックによるロックダウンで、楽器の販売は本当に大きなブームとなりました。そして、私たちの業界は今、そのブームの終盤に差し掛かっています。多くの楽器が中古市場で再販売されています。ですから、今後どれほど急増するのかはわかりませんが、それは十分にあり得る話です。

(米国の家庭が、子供たちが楽器演奏に興味を持つきっかけとなるような、手頃な価格で高品質な選択肢が少なくなると、長期的に市場にどのような波及効果があるでしょうか?)

どの企業も、ユーザーが最初に楽器を手頃な価格で購入する際に、それが高品質な楽器でなかったり、ユーザーが悪い経験をしたりすれば、その顧客を永遠に失うことになることを認識しています

これらの海外サプライヤーから提供される楽器は、本当に高品質であることを忘れてはなりません。楽器市場では、あらゆるレベルで選択肢が必要です。お客様の購入傾向はピラミッド型です。最高級のカスタムメイドモデルの市場は非常に小さいですが、底辺は非常に広いです。底辺のエントリーレベルの幅広いサポートがなければ、カスタムショップの最高級モデルは存在し得ません。

“アメリカ第一主義”の理由については理解できますが、私たちはアメリカ国内だけで、アメリカ人のためだけに製造している業界ではありませんし、どの音楽ブランドもアメリカ国内での販売を望んでいます。私たちはグローバルで相互に繋がっています。それをを崩すのは非常に難しいことです。私たちの企業は、どんな変化でも実行に移すには3年から5年はかかると言っています。何年もかけて計画を練っているのです。今、最大の課題は、この政権が予測不可能だということです。

覚えておかなければならないのは、署名された大統領令により、4月までにすべての国を対象に関税を調査することが各部門に義務付けられたことです。そのため、今後ますます多くの措置が取られることになるでしょう。ガイダンスでは、中国、メキシコ、カナダでの製造を停止することになっていますが、次にどこに関税が課されるかわからないため、私たちの企業はどこに移動すればいいのかわからないのです」