グルーヴを極めた
プリンス(Prince)のことですから、驚異的な体内時計を持っていたとしても、さほど驚くことではないでしょう。最近公開された映像では、受賞歴のあるエンジニア、デヴィッド・レナードが、>プリンスの正確なリズムキープ能力が実際どれほど卓越したものだったかを明らかにしています。
『Purple Rain』や『Around The World In A Day』に参加したレナードはInside Blackbird誌のインタビューの中で、プリンスのドラム・レコーディングのプロセスについて話し始めます。
「彼はやって来て“ドラムを録音しよう”と言うと、ただ“ブーン 、ブーン、チー”とやりはじめる。それが彼にとってサウンドチェックだった。2つのキック、スネア、ハットを叩くだけ。
そしてテープを回すと、彼は(メトロノームやリズム・マシンなどで出す、テンポのガイドとなる音)クリックなしでドラムを叩き始め、頭の中で曲を歌いながら演奏していたんだけど、それを途中でやめた。何の曲だったかは忘れたけど、彼はやめたんだ」
録音を中断する合図がなかったため、レナードは少し混乱していたようです。
「僕は“これは使えないな”と思いながら、テープに無音を録音しつづけていたら、彼は演奏を再開させたんだ。8小節の無音の後に、彼はギターを手に取り完璧に弾きこなしたんだけど、どうやったらそんなことができるの? クリックなしで、彼はそれを弾きこなしたんだ」
つまり、プリンスはドラムを演奏中(演奏していないときも)、頭の中で拍子を刻むことができただけでなく、ギターパートをオーバーダビングするときにも完璧にタイミングを合わせており、8小節のブレイクの後に拍子が戻ってきた正確なタイミングを捉えていたのです。しかも、メトロノームの助けを借りずに。
レナードはさらに、プリンスのタイミングに対する細部へのこだわりは、編集プロセスにおいても明らかであったと語っています。それはオリジナルの録音を短くするためにカットする必要があったときのことでした。
「どの曲も12分以上あった。つまりテープ1本分すべて。それらはフル・ヴァージョンで、アルバムに収録するものはすべてカットしていた。
彼は“ここからサビまでカットして、このサビを入れて”と指示する。僕はテープに印を付けて、サビと(サビに入るまでの導入部分である)ヴァースの部分を取り出し、別のサビを入れると、彼はそれを聴いて“もう少し遅く、もう少し後ろから入れて”と指示する。それで、僕はまた戻って、ちょっとだけサビの終わりの方を取り、それを1/2インチのテープを入れて彼に聴かせると“ダメだ、やり過ぎだ、半分にしてくれ”と言っていた」
プリンスはレナードはさらに数回の微調整を依頼し、そのたびに聴き返しますが、いずれも満足できず、これ以上、物理的にカットできない状態にまでなったという。そこでレナードは、プリンスをだまして編集したように思わせようと考えました。
「彼は“もう少しだ、もう一度カットして”と言うけれど、16分の1インチをカットすると、テープがぐちゃぐちゃになるから物理的に無理だったので、それをしようとは思わなかった。僕はただ(何もカットせずに)元に戻して(彼に聴かせたら)、彼は“それは同じだ”と言われた。彼は聴き取ることができていたんだよ」