脳卒中によって失語症(言語の理解や表現に障害が生じ、言葉をうまく話したり、意味を理解することが困難になるになる状態)になった患者に「歌う」歌唱療法が役立つ可能性があるという。ヘルシンキ大学の研究者らによる新しい研究によると、歌うことが脳の言語ネットワークを再構築し、コミュニケーション能力を向上させる有望な代替手段となる可能性があるという。
eNeuro誌に掲載されたこの研究は、慢性期失語症(脳卒中後少なくとも6ヶ月間、言語障害が続いている)の28人を対象に行われました。
ランダムに割り当てられた参加者の半数のグループは4ヵ月間の歌唱療法を受け、残りの半数のグループは標準治療を受けました。歌唱療法では、週1回のグループでの歌唱セッションと、特別にデザインされたタブレット・アプリを使った自宅での練習が行われました。
歌唱療法を受ける前後に、参加者全員がMRIによる脳スキャンと言語評価を受けました。その結果は驚くべきものでした。標準治療を受けた対照群と比較して、歌唱療法を受けた参加者は、失語症で障害されることが多い呼称能力(物の名前を言う)に著しい改善を示しました。さらに、脳スキャンによって、これらの行動の改善は、脳の言語ネットワークの構造における測定可能な変化を伴っていることが明らかになっています。
論文著者であるヘルシンキ大学の研究者Aleksi Sihvonenは「私たちの研究結果は、歌による失語症患者のリハビリテーションが、神経可塑性の変化、つまり脳の可塑性に基づいていることを初めて実証したものです」と語っています。
歌を歌うと、脳の言語領域だけでなく、メロディー、リズム、感情、運動制御に関わる領域も活性化されます。研究者たちは、歌うことが複数の神経ネットワークを同時に活性化させる強力な言語療法になると考えています。
歌うことはまた、脳卒中患者にとって重要な心理的・社会的利益をもたらす可能性があります。失語症は深く孤立した状態であるため、他人とつながることが難しく、フラストレーション、不安、抑うつといった感情につながります。グループで歌うことは、参加者が共通の課題で絆を深め、一緒に音楽を作る喜びを経験できるような、支援的で刺激的な環境を提供します。このような共同体感覚や達成感は、ひいては治療への意欲や関与を高める可能性があります。
「患者は家族と一緒に歌うこともできますし、歌うことは、グループベースで費用対効果の高いリハビリテーションとして、医療病棟で組織化することもできます」とSihvonenは述べています。