ベーシストの
タル・ウィルケンフェルド(Tal Wilkenfeld) は、
プリンス(Prince) とのレコーディングを振り返っています。スタジオでミスをしてもプリンスは「何が起ころうと起こったことは起こったんだ」として、録音し直すことを望まなかったという。タルは「もう誰もあんなレコーディングはしない。みんな、編集して編集して録り直したがる」と、そのようなアプローチは今日の音楽業界ではほとんど見られないと話しています。
タルとプリンスのコラボレーションは、最終的にプリンスが亡くなった後の2021年にリリースされたアルバム『Welcome 2 America』で日の目を見ることになりましたが、その始まりは2008年まで遡ることができます。その頃、タルはジェフ・ベックとの伝説的なコラボレーションを通じて、音楽界にその名が知られるようになっていました。
ネットで見つけたタルのライヴ映像に感銘を受けたプリンスは、彼女にトリオを組まないかと持ちかけます。タルはレックス・フリードマンのポッドキャストでこう話しています。
「彼は私に電話をかけてきた。“君とバンドを作りたい。ジェフ・ベックと一緒にやっていることにすごくインスパイアされているんだ。ジャック・デジョネットのドラムは好きかい?”というのが彼の最初の質問だった。私は“ええ、みんなそうでしょ”と言いました。ドラムの音について話をしていたら、彼は“君はドラマーにこだわりがあるみたいだから、ドラマーを見つけてよ? そうすれば僕は君を信用する”と言っていました」
タルによると、プリンスはすべてのパートの計画を立ててレコーディングに入ったという。プリンスは彼女に、ミスした部分だけ演奏して部分的に差し替える録音方法(パンチイン)をさせたくなかったようです。
「彼は、私がパンチインすることを望まなかった。“Same Page, Different Book”という曲がある。彼は私にそれを説明してくれて、各フレーズの間に(私の)ソロを入れてくれていた。そんなのがあるとは知らなかった。彼はそういうが大好きで、私をハラハラさせるのが大好きだった。崖っぷちに立たされたような瞬間は、それが初めてだった。今は、自分ひとりでやっている。それがとても楽しいし、音楽にとって一番いいことだから」
プリンスの再レコーディング禁止のポリシーについて、タルはこう語っています。
「彼はそれを望まなかった。“僕の好きなレコーディングは、何が起ころうと、起こったことは起こったんだ、というもの。それは一瞬の出来事なんだ。新しい瞬間を作ろう”と言っていた。素晴らしい。もう誰もあんなレコーディングはしない。みんな、編集して編集して録り直したがる。そして残念なことに、多くの音楽でね--すべての音楽とは言わない。素晴らしい音楽がたくさん出てきているから--でも、どんな小さな不完全さもデジタルで取り除かれるので、平坦な仕上がりになってしまう危険性がある」
■「Same Page, Different Book」
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■インタビュー
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