伝説的なセッション・ミュージシャンのひとり、ベーシストの
リーランド・スカラー(Leland Sklar)は、リック・ベアトが行った最近のインタビューの中で、自身の経験からセッション・ミュージシャンの現実を語っています。
スカラーは、セッション・ミュージシャンやあらゆるプロ・ミュージシャンに関する最大の誤解のひとつは、「playing(演奏する、遊ぶ)」という言葉そのものにあると主張しています。
「音楽をやる上で悲しいのは、それを“playing”と呼んでいること。人々は“ただ楽しんでいるだけ”という風に理解してしまう。人々は、それを簡単で楽しいものに見せるために、どれだけの歴史があったかを理解していないんだ。
それは今このビジネスでも難しい部分でもある。セッションをすれば、仕事を終えることができるが、1時間で終わらせられたのは、それまで努力してきたからだ。3時間分のセッション料金を請求すると、彼らは“たった1時間しかかかってないじゃないか”と言う。1時間で終わらせるのに、僕は50年かかったんだよ」
「何年か前に、ある人のためにプロジェクトをやった。彼は“予算は限られているけど9曲ある、楽譜はない、4時間しかないけど、やってくれるか?”と言っていて、本当に考えさせられた。僕は楽譜を書いて、9曲すべてを完成させたら、彼は感激していた。
3曲残っていて、それはイギリスで完成した。その3曲にはピノ(パラディーノ)が参加していた。彼は世界で最も好きなベーシストの一人だけど、彼は楽譜を読めない。だから3日間かかった。それで彼は3日分の給料をもらい、僕は4時間分の給料をもらったんだ(笑)。
“これは本当に考え直さなければならない”と思ったよ。というのも、僕はよほど複雑なものでない限り、1テイク目か2テイク目派なんだ。最初の1テイクか2テイクで、その曲のゾーンに完全に入る。考え直さなけばならないとは思うんだけど、そうなってしまうんだ」
リック・ベアトは、セッション・ミュージシャンはただやってきて仕事をこなし、あまり華やかさもなく去っていく人たちだと思われているのだろうか、という意味で「セッション・ミュージシャンは配管工のようなものですか?」と尋ねました。スカラーはこう答えています。
「スタジオ・プレイヤーとしては......まず第一に、90%の場合、自分が何を求められているのかわからない。スタジオに入ったら、レゲエかもしれないし、ポルカかもしれないし、速弾きメタルかもしれない。日本のアニメのようなものもやったことがあるけど、信じられないほど強烈だった。とにかく、わからないんだ。
どれが一番ということはないかもしれない。でも、そのトリックの袋を引っ張り出して、それらしく見せることはできる。
“レゲエをやろう”と言われても、レゲエのことは十分知っているし、レゲエのパートをでたらめにやることもできる。曲はそこで完成されるわけじゃないから、どうせでたらめだよ(笑)。そういうこともある......それがこの仕事で一番好きなことなんだ。僕にとっては、仕事が入るたびに、毎回、何か新しい挑戦に直面することなんだよ」
セッション・ワークはバンド活動とはまったく異なるもので、その主な違いをいくつか挙げています。
「バンドをやっていて、スタジオに入ってうまくいかなかったら“ピザを食べに行こう、映画を見に行こう、明日また来よう”となる。
僕らが(セッション・ミュージシャンとして)スタジオに入ると、そういう選択肢はない。費用がかかるからね。そのアーティストにとって唯一のチャンスかもしれない。その日に結果を出さなければならない。そのストレスの大きさは、人にはわからないものだ。でも、そのために呼ばれる人たちはみんな、本当に最高の仕事をしているんだよ」