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「カセットテープが栄え、そして今なお続いている理由」 英ガーディアン紙が特集

2023/11/16 10:56掲載(Last Update:2023/11/16 10:57)
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Cassette Tapes
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英国の新聞ガーディアンは「カセットテープが栄え、そして今なお続いている理由」を特集。「音楽体験を共有する手段だった」。

カセットテープは手軽に録音ができて、好きな曲を詰め込んだ自分だけのオリジナル・カセットを作ることができるのが魅力です。海外では「ミックステープ」「コンピレーション・テープ」とも呼ばれています。

英ガーディアン紙はカセットテープについて、まずこう書いています。

「カセットテープは音楽を世界中に広めるという点では、それ以前のどの発明よりも大きな役割を果たした。

大手レコード会社がほぼ独占状態にあった発展途上国では、カセットは大手企業にとって商業的な利益をもたらさない音楽を流通させる手段であり、その過程でジャンルの認知に拍車をかけた。例えば、シリアの歌手オマール・スレイマンは、欧米のテープ・コレクターに聴かれ、国際的なリスナーを獲得する前に、屋台でカセットテープを売っていたウェディング・シンガーのひとりとしてスタートしていた。カセットは、ヒップホップやスラッシュメタルの普及に拍車をかけ、ワシントンDCでゴーゴーのマイクロエコノミーを生み出し、ローファイで実験的な音楽に好まれるメディアとなった(そして多くの場合、今も)」

カセットテープの歴史と、ヒップホップ、スラッシュ・メタル、実験音楽がオリジナル・カセットで世界中に広まった経緯を探る新刊『High Bias』の著者マーク・マスターズは、同紙の取材にこう述べています。

「カセットテープには様々な役割がある。最も重要なのは、カセットテープがリスナーにもアーティストにも、自分自身の音楽体験を創り出し、その体験を共有し、伝え合う自由を与えたことだ。それは、指示されるのではなく、リスナーがコントロールできる音楽の聴き方だった。しかし、おそらくそれ以上に重要なのは、ミュージシャンがレーベルに認められたり、高額なスタジオ代を支払わなくても、自分たちの音楽を広めるために利用できたという事実だ」

またカセットテープは、単に音楽を聴くための手段としてだけでなく、抑圧と闘うための道具として見ることもできたという。同じくカセットテープの歴史を探る新刊『Unspooled』を出版した著者ロブ・ドリューは、こう言っています。

「1970年代から1980年代にかけて、いくつかの国でカセットが普及したことには政治的な影響があった。特にソ連やポーランドのような権威主義的な政権がそうだった。突然、音楽だけでなく、プロパガンダがカセットによって広められたんだ」

ここ数年、カセットテープの復活が叫ばれています。その主張は誇張されすぎている点もありますが、英国では過去10年間、販売本数が増加し続けており、2022年の総販売本数は19万5000本。米国では28%増の44万本でした。

その大半はメジャーレーベルからのリリースですが、これにマスターズは少々苛立っているという。

「今、録音済みカセットテープを出す最大のポイントは、それが安いということだけど、メジャー・レーベルは必要以上に高く売っている」

しかしその一方で、メジャーが関心を持ち続けることはカセットの生産を維持するのに役立っており、それはカセットが今も彼らの生命線であるアンダーグラウンドのレーベルやアーティストを助けることになっているともマスターズは指摘しています。

カリフォルニアのポップパンク・カセット・レーベルStay Toughの共同設立者であるフェルナンド・アギラーは、こう話しています。

「ハードコア・シーンでは、音楽は当然ローファイだ。だから、カセットにダビングするのも、CDやレコードにするのも違いはない。でも、エモやポップ・パンクの場合は、どちらかというとノスタルジアの要素が強い。俺はスクリーモ系のバンドと仕事をすることが多いんだけど、彼らがやりたいのはカセットだけなんだ。温かみがローファイな面を引き立てているんだと思う」

Stay Toughのようなレーベルにとって、カセットテープでの制作は経済的な問題でもあります。カセットテープでは通常50本程度で、収支は「パンク・ゴールド」だという。

レコードをプレスするよりも、ブランクテープに主な経費をかける方がずっと安いという。アギラーによると、現在のところ、ブランクテープ1本につき約1.16ドル(約175円)、ケースに50セント(約75円)を支払っているという。対照的に、レコードは最低100枚からで、値段はもっと高くなります。例えば、オハイオ州コロンバスにあるMusicol Recording Studioでは、真っ白な紙スリーブに入った12インチのレコード100枚が1,345ドル(約20万円)。

またカセットテープの場合、レコードプレス工場のプレス待ちの長い行列に加わる必要がない(現在Musicolでは6ヶ月)ため、バンドからレコーディングを受け取ってから、2週間でカセットテープを販売する準備ができ、1本4ドル(約600円)から8ドル(約1200円)で販売することができます。

Stay Toughのアギラーは、自分のレーベルが出したカセットテープを聴く人がいるとは正直思っていないという。

彼は笑いながら「ほとんど、それはない。ミュージシャンをサポートするためと、アルバムのジャケットのために買っている。あと、見た目がかっこいいから。若い子たちが実際にカセットを聴くかどうかは議論の余地がある。個人的にはそうは思わない」と話しています。