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ニルヴァーナ最後のミュージックビデオ「Heart-Shaped Box」 監督したアントン・コービンが制作の逸話を語る

2023/10/10 15:55掲載
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Nirvana - Heart-Shaped Box (Director's Cut)
Nirvana - Heart-Shaped Box (Director's Cut)
カート・コバーン(Anton Corbijn)生前に制作された、最後のニルヴァーナ(Nirvana)のミュージックビデオ「Heart-Shaped Box」。監督したアントン・コービン(Anton Corbijn)が制作の逸話を英ラジオ局Radio Xで語っています。

当初、「Heart-Shaped Box」のビデオは、「In Bloom」と「Come As You Are」のビデオを担当したケヴィン・カースレイクが撮影する予定でしたが、コバーンの妻コートニー・ラヴが別の提案をしました。

「ニルヴァーナと出会ったのは1993年の夏で、彼らに写真撮影を依頼された時だった。

コートニーは一時期リヴァプールに住んでいたことがあって、ジュリアン・コープとかエコー&ザ・バニーメンとか、あのシーン全体に友人がいた。僕はバニーメンのビデオを撮ったことがあったんだけど、彼女から話を聞いたカートがそのビデオを見て、“Heart-Shaped Box”のビデオを撮ってくれないかって頼んできたんだ」

了承すると、コービンはすぐにコバーンからメモや絵を受け取りました。

「カートは本当にすごい頭脳の持ち主だった。曲を書くだけでなく、ビジュアル、それも非常に詳細なビジュアルを考え出していた。アイデアという点では、僕が最も関与していないビデオだった」

「Heart-Shaped Box」のストーリーボードでは、ニルヴァーナのメンバー3人が病院のベッドのそばに座っており、そこには痩せた老人が横たわっています。抽象的で派手な色彩の風景の中で十字架に縛られた男を見ると、頭には赤いサンタクロースの帽子をかぶっています。

「いくつか追加したんだ。死んだ女性とか、汚物とかは僕のアイデアだよ。筋肉や内臓が描かれたボディ・ストッキングを身に着けた大柄な女性が通り過ぎるけど、これはアルバム『In Utero』のジャケットを飾った玩具『Visible Woman』を模したものだよ。また、ドルイドに扮した不気味な雰囲気の子供も登場し、そのローブは白から黒へと変化するんだ」

コービンが同時期に手がけたデペッシュ・モードの作品は、すべてモノクロのスーパー8フィルムで撮影されていましたが、「Heart-Shaped Box」は、どぎついカラーでした。コービンによると、カートはこのビデオを昔ながらのテクニカラーフィルムで撮影したかったという。しかし、1993年当時、テクニカラーフィルムは時代遅れの機材であり、手に入れるにはあまりにも高価でした。

「僕にとっての次善の策は、カラーで撮影し、それをモノクロに変換し、すべてのフレームに色をつけることだった。だから、ポストプロダクションに4週間くらいかかったと思う」

カート・コバーンはその効果を目にすると大喜びし、さらなる効果を求めました。

「カートは、あるフレームでは青いシャツを着ていたのに、次のフレームでは緑のシャツを着ることができることに気づいたんだ。彼を止めなければならなかった。そうしないとビデオが完成しないからね」

当初コバーンは、1950年代のビート・ジェネレーションを代表する作家の一人であるウィリアム・S・バロウズに老人を演じてもらいたかったようですが、バロウズはその役を断ったため、別の俳優を起用しました。

残念なことに、その俳優は本当に病気を患っていました。撮影現場で体調が悪化して、救急車を呼んだこともありました。

「救急車が彼を迎えに来たとき、彼らは大きな十字架が設置されたスタジオに到着した。彼らは何か奇妙なことが起こっているのを感じたと思うよ」「後日、入院している彼に会いに行ったとき、カートはベッドの脇に置くラジカセを買うためのお金をくれたんだ」

「Heart-Shaped Box」は『In Utero』時代に作られた唯一のミュージックビデオで、バンドが公開した最後のビデオでした。

2枚目のシングル「All Apologies」はアメリカではリリースされず、バンドはツアーで忙しかったため、ビデオを制作する暇がありませんでした。3枚目の「Pennyroyal Tea」は1994年4月にリリースされる予定でしたが、運命が邪魔をしました。

「カートから“Pennyroyal Tea”のビデオを頼まれたんだけど、“Heart-Shaped Box”にとても満足していたから、次のビデオでは君をがっかりさせてしまうだろうと断ったんだ。あのレベルのビデオはもう作れないから。カートは“もし君がやらないなら、俺はもう二度とビデオをやらない”と言っていた。そして、彼は決してやらなかった。だから今思えば、絶対にあのビデオをやるべきだったんだ」

「Pennyroyal Tea」は、1994年4月8日にコバーンが自殺で亡くなった後、すぐに発売中止となりました。その理由は、このシングルが悲劇を利用していると見なされたため、あるいは予言的なB面曲「I Hate Myself And I Want To Die」の存在によるものでした