キッス(KISS)の
ポール・スタンレー(Paul Stanley)は
AC/DCの『Back In Black』が大好き。愛してやまない理由を英Classic Rock誌の企画で熱く語っています。
「アンガス・ヤングの名言がある。誰かが彼に“このアルバムは前作と同じように聴こえる”と言うと、彼はこう言った、“いや、どのアルバムにも似ているよ”。だから、お気に入りを選ぶのは難しい。
好きな曲はあるよ。“Dirty Deeds Done Dirt Cheap”は素晴らしいし、“Highway To Hell”はこれ以上ないほど、やばくて素晴らしい。でも正直言って『Back In Black』は別次元だよ。
ブライアン・ジョンソンがAC/DCに加入したとき、みんなと同じように、俺もそれがバンドにどのような影響を与えるのか、ボン・スコットとの相性にどう影響するのか、興味津々だった。でも、『Back In Black』で彼らが作り上げたものは、まさに記念碑的なものだった。“Hells Bells”から始まるあのアルバムは、初めてブラック・サバスを聴いた時のような衝撃を与えてくれた。
『Back In Black』でバンドのサウンドはある程度洗練された。これまでやってきたことを土台にして前進していた。初期の頃のような骨太なサウンドは、ドライヴ感溢れるサウンドに取って代わられた。でも、それはとても素晴らしかった。失ったものよりも得たものの方が大きいと思った。
ブライアン時代初期の名曲がもうひとつある。“For Those About To Rock”は、これまで聴いたどの曲よりも印象的で巨大な曲だ。あの曲の最後、大砲が鳴り響くところは、まさにグラディエーター・ミュージックだよ!
多くのバンドが彼らを真似しようと試みたが、AC/DCは本物。初めて見たときからそう思っていた。LAのウィスキー・ア・ゴー・ゴーで、70年代半ばのことだった。彼らはとても肝の据わった存在で、アドレナリンのレベルはまさにクレイジーだった。アンガスがステージで費やしていたエネルギーの量には驚かされたよ。
汗が飛び散っていた。この男は悪魔に取り憑かれているんじゃないかと思うほどだった! ボンは独特のスタイルを持っていた。彼はカリスマ的なトラブルメーカーのようなものだった。誰もが彼を見て“あーあ、ああいう仲間がいたらなあ......”と思うような男だった。
その少し後、キッスのオープニング・アクトとしてAC/DCを迎えたけど、やはり彼らは素晴らしかった。アンガスが言っていたように、俺たちは彼らが最高のサウンドを出せるようにしたし、オープニング・アクトに対しても常に同じ姿勢だった。彼らを貶めたり、妨害したりするのは卑劣な行為だ。ヘッドライナーならチャンピオンであるべきだけど、チャンピオンが挑戦者に片手を縛って戦わせることでしか勝てないのなら、チャンピオンの資格はない。そういう理由もあるんだ。
大のロックンロール・ファンである俺は、彼らのようなバンドに最高のパフォーマンスを披露してほしかった。観客のためだけでなく、彼らの最高の姿を見たいからだった。なぜ自分たちがヘッドライナーなのかをみんなに示すのが俺たちの仕事なんだ。もしそれができなければ、それは俺たちの責任であって、彼らの責任ではない。
AC/DCが持っているものは、例外なくすべての偉大なクラシック・バンドにあるものだとも思う。観客が共感できるのは、2人の間の化学反応であり、陰と陽であり、仲間意識である。すべての偉大なバンドにはそれがある。ロジャー・ダルトリーとピート・タウンゼント。ロバート・プラントとジミー・ペイジ。ロニー・ウッドとロッド・スチュワート。ラインを下げれば俺とジーン、アクセルとスラッシュもそうだ。AC/DCではボンとアンガスがそうだったし、ブライアンとアンガスもそうだ。
その陰と陽は、まるで(映画『明日に向って撃て!』の題材となった強盗団「ブッチ・キャシディのワイルドバンチ」の)ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドのようなものだ。ステージ上では、観客と本当につながるバランスとケミストリーがある。偉大なバンドの鍵は、誰もがメンバーになりたいと思うようなクラブにすることだと俺はいつも言ってきた。その仲間意識がAC/DCを偉大なものにしている。『Back In Black』や『Highway To Hell』、そういった名盤を聴くと、そのケミストリーを実感できると思う」