HOME > ニュース >

アンディ・ウォーホルのプリンス・シルクスクリーン 最高裁はウォーホルが著作権を侵害したと判断

2023/05/19 16:11掲載
メールで知らせる   このエントリーをはてなブックマークに追加  
A portrait of Prince taken by Lynn Goldsmith (left) in 1981 and 16 silk-screened images Andy Warhol later created using the photo as a reference - Collection of the Supreme Court of the United States
A portrait of Prince taken by Lynn Goldsmith (left) in 1981 and 16 silk-screened images Andy Warhol later created using the photo as a reference - Collection of the Supreme Court of the United States
アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のシルクスクリーン作品の中でも有名なプリンス(Prince)のシリーズは、ロックスターの写真家として有名なリン・ゴールドスミスが撮影したプリンスの写真も基にしたものです。

著作権をめぐる訴訟で、米国連邦最高裁判所は5月18日、7対2で、ウォーホルが、1981年にゴールドスミスが撮影したプリンスの写真を基にシルクスクリーンを作成した際に、ゴールドスミスの著作権を侵害したと判断しました。

この訴訟は、既存の芸術作品に手を加えるアーティストの自由と、著作権侵害からのアーティストの保護が争点となっており、他の著作物を基に新しい作品を制作するアーティストの創造性を脅かすかもしれない裁判として注目されていました。

米国の著作権法には「変形的利用(transformative use)」という例外規定があり、アーティストは、新しい作品が元の作品と十分に異なっている限り、著作権のある作品に基づいて新しい作品を創作することが認められています。

連邦地裁はウォーホルの作品はオリジナルとは異なるメッセージを伝えているため「変形的利用」であり、公正な利用(フェアユース)であると判断しましたが、控訴裁判所はこれに同意しませでした。そのため、最高裁判所が判断することになりました。

最高裁判所のソニア・ソトマイヨール判事が執筆した7対2の判決は、ゴールドスミスの写真もウォーホルの作品も、プリンスに関する雑誌記事に添えられるという同じ商業目的を持っていたため、ウォーホルの作品は「公正使用」にあたらないと指摘しました。

ソニア判事は、裁判所の意見をこう述べています。

「ゴールドスミスのオリジナル作品は、他の写真家の作品と同様に、著名なアーティストに対しても、著作権による保護を受ける権利があります。このような保護には、オリジナルを変形させる二次的著作物を作成する権利も含まれます。

著作物の使用は、とりわけ、その使用がオリジナルとは十分に異なる目的と性格を持っている場合には、公正である可能性があります。しかし、このケースでは、ゴールドスミスがプリンスを撮影したオリジナル写真と、AWF(アンディ・ウォーホル財団)がプリンスを特集した特別版雑誌にライセンスされた画像にその写真をコピーして使用することは、実質的に同じ目的を共有しており、その使用は商業的性質を持つものである」

ウォーホル財団の代表、ジョエル・ワックスは「私たちは、2016年のオレンジ・プリンスのライセンスが公正使用の原則によって保護されていないという裁判所の判決に同意しません」「今後、私たちは、著作権法と憲法修正第1条の下で、アーティストが変形作品を創作する権利を守るために立ち上がり続けていきます」と声明で述べています。

一方、ゴールドスミスは「本日の判決に感激しており、私たちの言い分を聞いてくれた最高裁にしています。今日は、写真家や、自分の作品をライセンスすることで生計を立てている他のアーティストにとって素晴らしい日です」と声明で述べています。

これまでのストーリーは以下のとおりです。

米国の公共ラジオ局NPRによると、1981年、ゴールドスミスはニューズウィーク誌からプリンスの写真を撮影するよう依頼されます。最終的にニューズウィーク誌は撮影したスタジオの写真を使わず、コンサートの写真を使いましたが、ゴールドスミスは将来の出版やライセンス用にこの写真を保管していました。

その3年後の1984年、ヴァニティ・フェア誌はウォーホルにプリンスのシルクスクリーン制作を依頼します。その際、ウォーホルはゴールドスミスの写真を参考にするよう求められました。NPRによると「ヴァニティ・フェア誌はゴールドスミスにライセンス料として400ドルを支払い、この画像をこのヴァニティ・フェア誌の1号だけに使用することを書面で約束しました。ウォーホルがライセンス契約について知っていたという証拠は記録にありません」。

ウォーホルは、16枚のプリンスのシルクスクリーンを制作し、彼がそれの著作権を取得し、そのうちの1枚をヴァニティ・フェア誌の記事に使用しました。このシルクスクリーンの画像はその後、販売・複製され、アンディ・ウォーホル財団に数億ドルの利益をもたらしました。またヴァニティ・フェア誌の2016年のプリンス・トリビュートでも掲載されました。その際、ウォーホル財団は掲載を許可し、ゴールドスミスはクレジットされていませんでした。

ゴールドスミスはその後、ウォーホルが自身の著作権を侵害したと主張し、財団は未払いのライセンス料とロイヤルティとして数百万ドルを支払う必要があると訴え、財団を提訴しました。

ウォーホル財団の弁護士は、プリンスのシルクスクリーン・シリーズの著作権を有しているだけでなく、彼の芸術的表現はゴールドスミスのオリジナル写真とは全く異なるため、法的には「変形的利用」であると主張していました。コラージュ・アーティストがより大きな作品の中でさまざまな写真の断片を使うように、ウォーホルはゴールドスミスの写真を構成要素として使ったというのが財団の主張でした。

一方で、ゴールドスミスの弁護士は、ウォーホルの作品には十分な変形性がないと主張しています。

これまでの裁判では、2つの裁判所が意見を異にしています。

連邦地裁の裁判官は、ウォーホルのシリーズはオリジナルとは異なるメッセージを伝えているため「変形的」であり、著作権法上の「公正な利用(フェアユース)」であると判断しました。しかし、第2巡回区控訴裁判所の3人の裁判官はこれに同意せず、裁判官は「美術評論家の役割を引き受け、問題となっている作品の意味を確認しようとすべきではない」と宣言していました。