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音楽オタクで恋愛オンチの中古レコード店オーナーが主人公 映画『ハイ・フィデリティ』を原作者と監督が振り返る

2023/02/28 16:41掲載
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ハイ・フィデリティ
ハイ・フィデリティ
音楽オタクで恋愛オンチの中古レコード店オーナーが主人公の映画『ハイ・フィデリティ』(2000年)。ジャック・ブラック(Jack Black)の出世作としても知られるこの映画について、原作者のニック・ホーンビーと監督のスティーヴン・フリアーズが振り返っています。英ガーディアン紙の企画より。

■原作者 ニック・ホーンビー

「『ぼくのプレミアライフ フィーバーピッチ』を書く前から、僕の頭の中には『ハイ・フィデリティ』があった。この本はハイ・コンセプトの本ではなく、もともとのアイデアは、男の視点から恋愛を書くというものだった。そのことをエージェントに伝えると、レコードショップと人間関係についてつぶやきながら、目を輝かせていたのを覚えているよ。僕はレコードショップで長い時間を過ごしたことはあるけど、働いたことはないので、見たことのある人たちや聞いたことのある会話をもとに書いた。女友達は典型的なタイプだったね。

1995年に本が出版される前に、映画化の権利が売れた。だけど、その後、とても静かで、もうダメかと思っていた。1999年初頭、僕はロンドンのハイバリー・ヒルにあるアパートにいたんだけど、駅のそばで売店を経営している人がいた。彼は(プロサッカークラブ)アーセナルのファンで、いつもおしゃべりをしていた。ある朝、彼は僕にこう書いた紙をくれた。“スティーヴン・フリアーズに電話しろ”。電話番号も書いてあった。型破りなアプローチで、かなり愉快なものだったよ。スティーヴンは“君の本に取り組んでいるところだよ!”と言い、(映画で主演を務めた)ジョン・キューザック、そして、2人の脚本家、スティーヴ・ピンクとD・V・デヴィンセンティスがロンドンにいて、会いたがっているとも言っていた。

僕は、彼らの脚本に好感を持った。彼らが手がけた『ポイント・ブランク』を僕はとても好きだった。映画が僕の本にあまりにも近いことに衝撃を受けた。キューザックの四畳半での独白は、僕の本からそのまま出てきたものだった。とても勇気のいることだった。彼らは単に本を再現したかっただけなんだ。バリーのキャラクターは小説で簡単に表現できたけど、誰をキャスティングするのか? ジャック・ブラックという名前は聞いたことがなかった。この役を演じることによって、彼がオファーを受ける映画の種類が変わった。僕はその一翼を担えたことを誇りに思っているよ。

シカゴに舞台を移したことについては、特に気にしなかった。ジョン、DV、スティーヴはシカゴで育った。彼らは僕より10歳年下なので、音楽に対するフレームが完全に変わった。ストーリーは、まるで彼らのことであるかのように感じられ、まったく純粋で完璧なものだった。作家としては、それくらい人々が感情移入してくれることが何よりの望みなんだ。

『ハイ・フィデリティ』の音楽予算だけでも、『ぼくのプレミアライフ フィーバーピッチ』の全予算と同じだった。イギリスを拠点とするインディペンデント映画だったら、こんなことはできなかっただろうね。みんなでコンピレーション・テープを作って聴かせ合った。スティーヴンは音楽に関しては専門外だったので、ジョンとDVが中心になっていた。

映画は当初ヒットしなかった。でも、何年もかけて観客を獲得し、今もなお続いている。ロックダウンの直前には息子を連れて観に行ったけど、とても喜んでいたよ」

■監督 スティーヴン・フリアーズ

「『ぼくのプレミアライフ フィーバーピッチ』が大好きで、『ハイ・フィデリティ』もすぐに読んだ。けど、これを映画化できるとは思わなかった。カーチェイスもなかったしね。ジョン・キューザックから電話がかかってきて、シカゴを舞台にして『ハイ・フィデリティ』の映画を作らないかと誘われた。僕は“物語の場所を移動させるのは間違いだ”と思った。

その後、脚本を読んで、そうではないことに気づいた。シカゴの郊外にエバンストンという町があり、ジョン、DV、スティーヴの3人はそこで一緒に育った。彼らは、自分たちの人生を書いていた。ジョンとは1990年に『グリフターズ/詐欺師たち』で一緒に仕事をしたことがあったが、彼は俳優として大きく成長していた。僕は、ニックには関わり続けてほしかった。だけど、実際にどのようにして売店経由で彼にメッセージが送られたのかは、全く覚えていない。

(観客と演技との間にある目に見えない壁である)第4の壁を突破するというアプローチは僕が決めたことだけど、大きなリスクとは感じなかった。第一稿ではナレーションにしていたが、それだと失敗しやすいと思った。(喜劇チームのマルクス兄弟のひとり)グルーチョ・マルクスなどもカメラに向かってよくしゃべっていたしね。

バリーの役には、ジャック・ブラックという新しい俳優を推薦された。僕は彼に会って“いいね、君なら大丈夫だ”と言った。ところが、それから数ヵ月後に電話がかかってきて、もうやりたくないと言われた。僕は彼にどうしたのかと尋ねた。彼は“オーディションを受けさせてくれなかったからだ。オーディションをすると自信がつく”と言っていた。その後、解決し、彼は優秀だった。撮影現場はとても盛り上がっていて、みんなこの作品を作るのが大好きだった。

僕は音楽には一切触れないようにしていたが、僕が審査員になるので、まず僕に曲を通せと言っていた。ジョン、DV、スティーヴの3人は24時間ノンストップで議論し続けた。一方、ジョンはブルース・スプリングスティーンをカメオ出演させるために、何度も何度も電話をかけていた。彼らが何を話していたかは神のみぞ知るよ。ブルースはいい人そうだったけど、とても緊張していた。間違いなく不安がらせていた。

スタジオのボスたちは、僕たちが映画を作るのを放っておいたが、僕は彼らが“ロブとローラは最後に結婚しないのか?”と尋ねたのを覚えている。“絶対にダメだ”と言った」