ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)が
ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)の「Hurt」をカヴァーしたとき、
トレント・レズナー(Trent Reznor)はその名演に「もう僕の曲じゃない」と語りました。しかし、プロデューサーの
リック・ルービン(Rick Rubin)が最初にこの曲のカヴァーを提案したとき、キャッシュは非常に懐疑的だったという。ルービンが出演した英BBC Radio 4の番組『Desert Island Discs』の中で、キャッシュとのコラボレーションについて話しています。
90年代初頭、キャッシュのキャリアは不安定な状態にありました。かつてのようなメガスターには程遠く、レコード会社との契約にも深刻な問題を抱えていました。そこに登場したのがルービンでした。その頃、既にプロデューサーとして名を馳せていたルービンが、自身のレーベルであるアメリカン・レコーディングスとの契約を申し出ます。
ルービンの助けにより、キャッシュのキャリアは大きく前進し、大成功した『American Recordings』時代の到来を告げました。
しかし、ルービンによると、2人が初めて会ったとき、キャッシュはほとんど諦めていたという。
「彼は、俺が誰なのか知らなかったが、なぜ俺が彼と一緒に仕事をしたいのか理解したかったんだ。彼の頭の中では、彼はもう終わっていた。俺は彼を説得しなかった。ただ、しばらく話をして、“じゃあ、君の好きな曲を演奏してくれたら、どうするか考えるよ”と言ったんだ。彼は俺の家のリビングルームに座って、俺が聴いたことのないような古いカントリーソングやフォークソングを演奏し始めたんだけど、それが素晴らしいものだったんだ」
アルバム『American IV: The Man Comes Around』にはナイン・インチ・ネイルズの「Hurt」の鳥肌が立つようなカヴァーも収録されています。
キャッシュが『American Recordings』でカヴァーする曲をどう選ぶか、そして特に「Hurt」を選んだことについて、ルービンは次のように語っています。
「ジョニー・キャッシュは黒い服を着た神話的な男だと思っていたので、彼が歌う曲はこの黒服の神話的な男に合うものでなければならなかった。その中で、人々の心に響いたのが、ナイン・インチ・ネイルズの“Hurt”だった。その歌詞を聴くと、後悔と自責の念に満ちた人生を振り返っているような感じなんだ。
ナイン・インチ・ネイルズのヴァージョンはとてもノイジーでアグレッシブな曲だから、最初に彼に曲を聴かせた時、ジョニーは俺を正気じゃないみたいに見たんだよ。ジョニーは警戒していた(笑) そのあと、ギタリストに演奏してもらい、彼が言うのを想像しながら歌詞を言ったんだ。その歌詞を聞いて、それがどんなものになるかというフォーマットを聞いて、“やってみよう”となって、デモをやったんだよ」