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「音楽マーチャンダイズが音楽業界を救った理由」 英紙特集

2022/10/24 18:40掲載
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BAND T-SHIRT
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ストリーミングからの収入はごくわずかで、最近の情勢からチケットの売れ行きも不安定な中、音楽マーチャンダイズはミュージシャン、特に小さなアーティストが生き残るのを助けています。英ガーディアン紙は「音楽マーチャンダイズが音楽業界を救った理由」と題して特集しています。

シンガーソングライターのリズ・ローレンスは、過去5年間にわたりマーチャンダイズをプロデュースしてきました。最新アルバム『The Avalanche』では、トートバッグとTシャツを販売しており、マーチャンダイズは今や彼女の生計を支える重要な要素になっているという。「ツアーの予算を考えるとき、“マーチャンダイズでこれだけ稼げば大丈夫”と言っています。私たちが損をしない唯一の理由は、マーチャンダイズなのです。演奏料は上がらないけれど、他のものは上がっている。そのギャップを埋める何かが必要なんです」。

音楽マーチャンダイジングはそれ自体がひとつの産業であり、英ガーディアン紙によると、2018年の世界小売売上高は35億ドル(約5200億円)。

2002年に英国で設立され、レディオヘッド、BTS、ABBA、ジャスティスなどの楽マーチャンダイジングを手掛けているSandbagのA&R責任者であるジョーダン・ガスターは、ここ10年でマーチャンダイズがより優先されるようになったと語っています。

「メインストリームのポップアーティストでない限り、アーティストたちは音楽よりもグッズで稼いでいる」

これは、ライヴからの収入が消えたパンデミック時にさらに悪化したという。クリエイターが限定商品を販売し、注文されたものだけを印刷するマーケットプレイスであるEverpressは、パンデミック時に売上が2倍になったと報告しています。同社が販売するTシャツの約25%はミュージシャンやレコードレーベルからのものだという。

音楽マーチャンダイジングがファッショナブルになったことも理由にあるという。

過去10年間、バレンシアガ、ルイ・ヴィトン、アクネなどのブランドはキャットウォークのコレクションにバンドのTシャツを非常に高価なヴァージョンで登場させたり、プリマークやアーバン・アウトフィッターズなどは、ミュージシャンのアルバムよりもロゴが好きな若者たちにフリートウッド・マックやドアーズのTシャツを販売したりしています。

特定のアーティストのマーチャンダイズは特に人気があり、ストリートウェアの再販サイト「StockX」の副社長デレク・モリソンは「ミュージシャンの文化的影響力はかつてないほど大きい」と話しています。

しかし、マーチャンダイズが音楽の文化や経済の一部となったとはいえ、ミュージシャンは収入面で妥協せざるを得ないという。ライヴでの売り上げから25%カットされる会場もあるのです。昨年、このことが明らかになり、ミュージシャンの権利と利益を代表する英国の業界団体であるFeatured Artists Coalition(FAC)は、手数料が免除される会場を求めるキャンペーンを行います。FACのCEOであるデヴィッド・マーティンは、この問題はファンが思っている以上に多くのアーティストに影響を与えていると語っています。

実際このことは、すでに当事者間の摩擦を引き起こしています。今月のIndependent紙のインタビューで、ブライトンのバンド、ザ・ビッグ・ムーンは、売上の25%を要求する会場と口論になった後、近くのパブでマーチャンダイズ販売を行ったことを説明しました。シンガーのジュリエット・ジャクソンは、「マーチャンダイズが主な収入源なのに、会場がなんで“それも欲しい”って言ってくるんだ? “みんな僕たちのバンドを見るために来ているのだから、バーの売り上げの25%をくれ!”と言っているんだよ」

また英国では、欧州連合 (EU) 離脱も収益を脅かす要因のひとつだという。英国のライヴ・ミュージック・ビジネスを代表する団体LiveのCEOジョン・コリンズは、ヨーロッパでのツアーははるかに複雑になっていると語っています。「今、持っていけるものにはあらゆる制約がある。ヨーロッパに行くたびに、輸入税や付加価値税を払わなければならないし、それらの国のそれぞれに登録していなければ(ほぼ間違いなく登録されていないでしょうが)、代金の返還を求めることはできないんだ」。コリンズは、こうした困難が一部のバンドのツアーを完全に止めてしまっていると主張する全政党議会グループの報告書に寄稿しています。

しかし、多くのミュージシャンのビジネスモデルには、依然としてマーチャンダイズが含まれており、オンライン・ショッピングはこうした複雑さを回避する方法の一つとなっています。「手数料を払いたくないがために、ファンを自分のウェブサイトに誘導するアーティストが増えています」とFACのCEOマーティンは言っています。SandbagのA&R責任者ガスターは、音楽ビジネスの他の部分とは異なり、マーチャンダイズには将来性があると主張しています。「Tシャツを違法にダウンロードすることはできないからね」と彼は言っています。

The Business of Fashionの編集アソシエイトであるダニエル=ヨー・ミラーは「マーチャンダイズがこれほど魅力的なのは、それが目に見えるものであることと、人々が交流できること、つまりコミュニティが形成されるからだと思います」と話しています。