ハワード・ジョーンズ　妻の怪我代で音響機材を買ってデビューを果たす　当時の逸話語る

ハワード・ジョーンズ（Howard Jones）はデビュー前、工場で働く傍ら、妻と一緒に野菜や果物の移動販売を行っていた。ある夜、酔っ払いが運転する車が彼らのバンにぶつかり、妻が背中を痛めてしまう。加害者から治療費が支払われたが、妻は「音響機材に使って」とジョーンズに渡す。ジョーンズは「何が何でも、音楽で成功するんだ」と決意を新たにし、その後、デビューを果たして成功を収めた。

ハワード・ジョーンズは英ガーディアン紙のインタビューの中で、デビュー前の逸話を語っています。

「マンチェスター・ピカデリー・ラジオで朝4時からレコーディングをしたり、“Bohemian Rhapsody”の8分ヴァージョンを録音したり、あらゆることを試みたけど、結局バッキンガムシャーのハイウィカムの工場で食品用ラップフィルム（例：サランラップ）を巻くことになった。その工場の人たちは正直な人たちで、“いつかここから出て行って、自分の音楽をやるんだ”と言うと、くすくすと笑っていた。

工場で働く傍ら、妻のジャンと僕は野菜や果物の移動販売を始めたんだけど、毎週赤字が続いていた。そんなある夜、酔っ払いが運転する車が僕たちのバンにぶつかった。二人とも死ぬところだったし、ジャンは背中を痛めてしまった。彼女は補償金を音響機材に使ってほしいと僕にくれた。僕は“何が何でも、音楽で成功するんだ”と思ったよ。

家の中にPAシステムを設置し、隣人が壁を叩いたり、花を掘り起こしたりするほどの大音量で演奏した。（デビューシングルの）“New Song”は、自分自身のマニフェストとして書いた。“くじけるな、頭をやわらかくして、物事の両面を見ろ、心の鎖を解き放つんだ”。カール・マルクスの引用ではない。自分を縛っているものをすべて捨て去りたいということだったんだ。ラジオでJAPANのようなバンドを聴いていた。シンセサイザーのリフは、エマーソン、レイク＆パーマーのキース・エマーソンを意識したものだよ。今みたいにシーケンスで演奏するのではなく、すべてリアルタイムで演奏した。ハイ・ウィコム郊外のオズボーン・アームズで初めて“New Song”をライブで演奏したら、みんなが熱狂していた。

多くのレコード会社に断られたけど、伝説のA&Rマン、ポール・コンロイが僕に興味を持ってくれて、スティッフ（レコード）と契約しようとしていた。ところが、彼は突然、“契約書にサインするな！”と言った。彼はワーナー・ブラザーズのMDという仕事に就くことになって、僕に一緒に行くぞと言ってくれたので、僕は想像し得る限り最高のレコード会社に行くことになった。“New Song”は（BBCの）Radio 1のジュークボックス・オーディション番組『Round Table』で流れた。僕は寝室で聴いていたんだけど、ゲイリー・ニューマン（彼に感謝）が“これはいい。ヒット間違いなしだ”と言ってくれた。

このシングルはトップ40に入るまでに時間がかかったけど、ある週、他のバンドが何組か出られないときに、僕が（英TV番組）『Top of the Pops』に出演することになり、この曲は3位まで上昇した。ビデオは、僕が工場で働いていて、ロールスロイスに乗って出発するというもの。実際はそうではなかったんだけど、工場の人たちが僕のライヴに来て“君のことを誇りに思うよ。言ったとおりのことをやってのけたんだね”と言ってくれたんだ」