最近の研究では、個人的に重要な音楽を聴くことで、気分、認知機能、運動機能、脳の可塑性を改善するのに役立つことが示されています。
シドニーに拠点を置くミュージック・ヘルス社が制作した新しいアプリ『Vera』は、認知症の方にとって最も意味のある音楽、最も効果のある音楽を知り、見つけるためのアプリで、いつどこで生まれたか、そして15歳から35歳のときに育った場所といったシンプルな情報を入力するだけで、AI(人工知能)を使ってその人にあった楽曲がキュレーションされ、パーソナライズされたプレイリストを作成することができます。
ここで重要なのは、介護をする人がその人の過去をあまり知らない、また調べて見つける時間がない状況でも使えるということで、実際に最も効果があるのは、多くの患者を相手にしている介護施設であると説明しています。介護施設のデータベースから非常にシンプルな情報を取り出し、その人に合ったパーソナライズされた音楽を提供することができるのです。
『Vera』は現在、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、米国のApp StoreからダウンロードすることがAppleによって承認されており、Android向けは近日中に展開される予定です。
ミュージック・ヘルス社のCOOであるスティーヴン・ハントは最近、アルツハイマー病のトニー・ベネットがレディー・ガガと一緒に米TV番組『60ミニッツ』に出演したことを、音楽が衰えた脳に刺激を与えることを示す有力な例として挙げています。
「彼は音楽を聴いていないときは、ほとんど無気力なのです。音楽が鳴り始めると、彼はすぐに立ち上がりました。うまく動けるし、うまく話すことができるし、ほとんど元の自分に戻ったような状態です。音楽が終わってから30分ほどすると、末期のアルツハイマー病の人に戻ってしまうんです。これは本当に有力な例で、誰にでもそのような影響を与えるには、その人の記憶の中にある過去の曲を見つければいいんです」
アプリ内の音楽は、入力されたデータをもとに作成された3種類のプレイリストとして提供されます。「リラックスさせること」「元気づけること」「思い出を呼び起こすこと」の3つ。「思い出を呼び起こす」というのは、思い出にまつわるすべての曲を集めて、一緒に歌ったり、足をたたいたりできるようにすることです。
ユニバーサル ミュージック グループは、このアプリに、同社の全カタログをライセンス提供することを発表しています。
ハントは「このアプリではまず、その人が、いつどこで生まれたか、そして15歳から35歳のときに育った場所を尋ねます。もしそれが北京なら、アメリカで育った人と比べて、囲まれていた音楽はまったく違うものになるはずです。ですから、世界中のヒット曲を見つけることができる多様なグローバル・カタログを持つことが本当に重要なのです」と話しています。ハントによると、ユニバーサルミュージックグループのカタログは膨大な量なので、現状はミュージック・ヘルス社は他社の楽曲をライセンスする必要がないと考えています。
『Vera』は治療薬ではありませんが、認知症の方の認知機能や気分を一時的に改善し、介護をしやすくするためのツールです。
ハントは「脳は一度刺激を受けると、しばらくはその刺激が持続します。最近の研究では、音楽を定期的に聴くことで脳の可塑性が高まることが示されています。ですから、さらに研究を進めれば、認知症の発症を遅らせることができることを実証できるのではないかと期待しています。予防になるとは言い切れませんが、脳の働きを高めて刺激を与え、ある一定の期間、通常のパターンに戻すには、毎日のエクササイズとして非常に有効です」ともコメントしています。