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異端児エリック・サティの言葉にこめられた真の意味を解説 『梨の形をした30の言葉 エリック・サティ箴言集』発売

2022/03/12 19:41掲載
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梨の形をした30の言葉 エリック・サティ箴言集
梨の形をした30の言葉 エリック・サティ箴言集
フランス近代音楽の異端児、作曲家エリック・サティは独特の音楽世界とともに、数多くの奇妙な言動によっても知られています。サティが遺した膨大なテクストから、30の言葉を厳選し、そこにこめられた真の意味、当時のフランスや音楽界の状況などの背景を詳しく解説。書籍『梨の形をした30の言葉 エリック・サティ箴言集』がアルテスパブリッシングから5月20日発売
■『梨の形をした30の言葉 エリック・サティ箴言集』
椎名亮輔著

定価:本体2000円[税別]
四六判・並製 | 312頁
発売日 : 2022年5月20日
ISBN 978-4-86559-250-4 C1073
ブックデザイン:折田 烈(餅屋デザイン)/カバーイラスト:ryuku

<内容>
私の名前はエリック・サティである、皆と同じように。──
音楽界の異端児(つむじまがり)は、言葉の軽業師でもあった。
風変わりな機知の断片から見えてくる、エリック・サティのもうひとつの世界。
人間を知れば知るほど、犬が好きになる。

ベートーヴェンは公共の静けさを乱すものだ。

「家具の音楽」を聴いたことのない人は、幸福を知らないのです。──

フランス近代音楽の異端児エリック・サティ(1866-1925)は、
《干からびた胎児》など珍奇な作品名に示される独特の音楽世界とともに、
数多くの奇妙な言動によっても知られる。

楽譜の指示書き、歌詞や台本、多種多様なエッセイや講演、
友人への書簡、そして死後に見つかった大量のメモ書き……。

サティが遺した膨大なテクストから、30の言葉を厳選し、
そこにこめられた真の意味、当時のフランスや音楽界の状況などの背景を詳しく解説。
唯一無二の魅力あふれる音楽と人間像にせまる!

<目次>
銘 オルネラ・ヴォルタ
サティを読む
読者へ

1 私の名前はエリック・サティである、皆と同じように。
2 若い頃、人によくこう言われたものだ、50歳になったら見えるようになる、と。いま私は50歳だが、いまだに何も見えない。
3 ピアノは、お金と同じように、それに触れる者にとってしか、心地よいものではない。
4 エレベーターの中に傘を忘れてきてしまったようだ。[中略]傘は私をなくして、とても心配しているに違いない。
5 人間を知れば知るほど、犬が好きになる。
6 ベートーヴェンは公共の静けさを乱すものだ。
7 ラヴェルはレジオン・ドヌール勲章を拒否したが、彼の音楽全体がそれを受け取っている。
8 ドビュッシーは、料理の秘密(もっとも絶対的な秘密)を心得ていた。
9 われわれの情報は不正確であるけれども、われわれはそのことを保証しない。
10 私は白い食べ物しか食べない。ゆで卵、砂糖、おろした骨、死んだ動物の脂。また、子牛肉、塩、ココナッツ、白い水[ジエチルエーテル]で煮た鶏肉。また、果物に生えたカビ、米、カブ。また、樟脳入りの血ソーセージ、パスタ、(白)チーズ、綿のサラダ、そしてある種の魚(皮なし)などである。
11 タバコをお吸いなさい。さもないと、ほかの人があなたのかわりに吸ってしまいますよ。
12 登場人物が舞台に現れるときに、オーケストラがしかめっ面をしないようにしなければならないでしょう。考えてもごらんなさい、背景の樹々がしかめっ面をしますか?
13 芸術に「真理」はない、と私はいつも言っているし、私が死んだ後も長い間言い続けるであろう。[中略]「芸術の真理」があるというのは、機関車=真理、家=真理、飛行機=真理、皇帝=真理、乞食=真理などがあると宣言するのを聞くのと同じほど奇妙で、驚くべきことだ。
14 「家具の音楽」は本質的に工業的なものだ。[中略]私たちは「有用な」必要を満たすために作られた音楽を作りだしたいと思う。〈芸術〉はその必要には入らない。「家具の音楽」は空気の振動を生み出す。それ以外の目的はない。
15 「家具の音楽」は、行進曲、ポルカ、タンゴ、ガヴォットなどのかわりに有効です。/「家具の音楽」を注文しなさい。/「家具の音楽」なしの会合、集会なんて……。/公証人、銀行のための「家具の音楽」……。/「家具の音楽」には名前がない。/「家具の音楽」なしの結婚式はありえません。/「家具の音楽」を使わない家には入ってはいけません。/「家具の音楽」を聴いたことのない人は、幸福を知らないのです。/「家具の音楽」一曲を聴かずに寝てはいけません。/そんなことをすれば、よく眠れません。
……以下続く

<著者について>
椎名亮輔(しいな・りょうすけ)
1960年東京生まれ。同志社女子大学学芸学部音楽学科教授。
東京大学大学院博士課程満期退学。ニース大学文学部哲学科博士課程修了。
著書『デオダ・ド・セヴラック』(アルテスパブリッシング)で第21回吉田秀和賞受賞。
その他の著書に『音楽的時間の変容』(現代思潮新社)、『狂気の西洋音楽史』(岩波書店)など、
訳書にフェラーリ『リュック・フェラーリ センチメンタル・テールズ』(アルテスパブリッシング)、
ナイマン『実験音楽』(水声社)、コー『リュック・フェラーリとほとんど何もない』(現代思潮新社)など、
編著書に『音楽を考える人のための基本文献34』(アルテスパブリッシング)がある。
プレスク・リヤン協会日本支局長。