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米国で唯一のカセットテープ・メーカー、近年のカセットテープの復活で売上高は会社設立以来の最高記録を更新

2022/02/02 17:19掲載(Last Update:2022/02/02 21:03)
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National Audio Company
National Audio Company
米国で唯一のカセットテープ(磁気オーディオテープ)メーカー、ナショナル・オーディオ・カンパニーは、近年のカセットテープの復活で、売上高は会社設立以来の最高記録を更新し、その勢いは衰えることを知らないという。

米スミソニアン協会が発行する雑誌『スミソニアン』の公式サイトが特集記事を公開しています。

米ミズーリ州スプリングフィールドにあるナショナル・オーディオ・カンパニーは、1969年に、社長のスティーヴ・ステップが父親のウォーレン・ウィリアムス・ステップとともに設立しました。当初はオープンリール式の磁気記録テープをレコーディングスタジオやラジオ・テレビ局に販売していて、その後、オーディオカセットの人気が急上昇していたこともあり、カセットテープの販売を開始。1970年代から1980年代にかけては、年間1,000万本から1,500万本のカセットを販売し、業界のトップを走っていました。

しかし、音楽用カセットがピークを迎えた1990年代後半になる前にCDが誕生。CDが普及するにつれ、各社はカセットテープに必要な磁気テープの製造を徐々に中止します。ナショナル・オーディオ・カンパニーは、これまでに調達した磁気テープを使ってカセットテープを作り続け、毎年安定した売り上げを維持します。その後、テープの最終供給地である韓国の業者が閉鎖されてから2年後の2016年には、その供給が途絶え、世界的にテープ不足に陥っていましたが、同社は、衰退に屈することなく、1980年代の機器を購入して改修し、2018年には磁気テープの自社生産を開始しました。

そして現在、レコード会社向けに年間2,500万〜3,000万本のカセットを製造しており、世界最大のメーカーとなっています。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まったとき、多くのアーティストがコンサートを中止せざるを得なくなり、その結果、彼らは新しい音楽を安くリリースする方法を必要としていました。メジャーレーベルと契約していないアーティストにとって、それはカセットテープでした。カセットテープは、50本程度の少量生産が可能で、1本あたりのコストは2.5ドル程度。CDは最低生産枚数が多く、レコードは小規模なアーティストには手の届かない価格でした。

メジャーレーベルと契約していないミュージシャンは、ライヴができないとき、デジタル放送の時間を確保するためにメジャーなアーティストと戦う代わりに、カセットテープを配るようになりました。大物アーティストもこの流れに注目するように、パンデミックが始まってからは、レディー・ガガ、ビリー・アイリッシュ、テイラー・スウィフトなどのミュージシャンがカセットテープで自分たちの音楽をリリースするようになりました。今では、メジャーな映画のサウンドトラックもカセットテープとして店頭に並んでいます。

その結果、ナショナル・オーディオ・カンパニーの売上高は、会社設立以来の最高記録を更新しています。

社長のスティーヴ・ステップは現在のカセットオーディオの最大の消費者層は35歳以下で、デジタルミュージック世代の一員だと指摘しています。

「耳はアナログなのです。取り巻く世界もアナログ。音楽を聴くとき、それが実際のアーティストやバンド、オーケストラの演奏であれば、各ミリ秒ごとにあらゆるレベルの周波数が聴こえてきます。耳はそれを聴くようにできています。それをハーモニクスと呼ばれています。しかし、デジタル録音では、ハーモニクスはありません。各ミリ秒ごとの支配的な周波数を聴いているのです」

「音楽をダウンロードするとき、手元には何もありません。携帯電話か何かで再生されます。多少のお金を払っていても、自分が何かを所有しているという感覚はありません。机の上に置くこともできないし、友達と交換することもできない。一方でオーディオカセットは、目に見えるものを与えてくれる。私はこれを買った、私はこれを所有している、もし誰かにあげたり、交換したりしたければ、そうすることができるのです」

テープがどのように作られているかを見てみたいという方のために、ナショナル・オーディオ・カンパニーでは、135,000平方フィートの工場をリクエストに応じて無料で見学できるツアーを実施しています。2週間に1度、10人から20人のグループを対象に、ガイドが工場見学のように案内しています。