2016年に
プリンス(Prince)が亡くなったとき、彼は膨大な未発表曲を残しました。何千もの曲がペイズリー・パークの彼の住宅にある鍵のかかった金庫室に収められていましたが、ひとつ大きな問題がありました。金庫の暗証番号を誰も知らなかったのです。プリンス自身も亡くなる数年前に暗号番号を忘れ、金庫室は鍵をかけたままにされていたと伝えられています。
この金庫を開けるためには、専門家の協力が必要でした。そこで登場したのが、オレゴン州を拠点とするプロの金庫破り、デイヴ・マコミーです。彼は米ラジオ番組『This American Life』で当時のことを語っています。
デイヴは、プリンスの遺産を管理するエステートが彼に連絡をしてきたとき、すで金庫の正確なモデルを知っていました。彼は、プリンスの友人が10年前にネットに金庫の写真をアップしたのを見ていました。デイヴは「感動したよ。住宅の中に本格的な銀行の金庫があるなんて、そうそうあることではないからね」と述べています。
デイヴによると、プリンスの金庫は「モスラー・アメリカン・センチュリー」で、高さ6.5フィート(約2メートル)、幅3.5フィートまたは4フィート(約1メートル)、重さは約6,000ポンド(約2721キログラム)。
デイヴによると、モスラーは100年間、米国でトップの金庫メーカーだったそうで、この金庫はその最後の1台だったそうです。さまざま攻撃に耐えられるように設計されているため、デイヴは「モスラー・アメリカン・センチュリーを破った強盗は一人もいない」と話しています。
デイヴは、金庫破りの手法であるマイクロドリリングを使うことにしました。巨大で分厚い扉のちょうどいい位置(彼はノートパソコンに金庫ごとの適切なドリルスポットの座標を記録している)に小さな穴(冷凍エンドウ豆くらい)を開け、内側から潜望鏡を使ってコンビネーションロックを見て、その構成から正しい番号を判断してドアを開けることにします。
モスラー・アメリカン・センチュリーには、より安全性の高い多くの金庫に搭載されている「マウストラップ・リロッカー」と呼ばれる装置も搭載されており、これを作動させないようにしなければなりませんでした。「基本的には、金庫がいたずらを感知すると、バネ式の仕掛けがネズミ捕り器のように作動して、この金属ブロックを所定の位置にはめ込むことで物理的にドアが開かないようにするんだ」とデイヴは説明しています。
デイヴは小さな穴を開け、慎重にマウストラップ・リロッカーを回避し、そして数時間後、潜望鏡で内部を覗いて、その構成から正しい番号を判断してドアを開けます。
「みんなが拍手してくれたんだ。少し恥ずかしかったよ。扉が開いたとき、(プリンスの)アーキビストは僕よりも先に中を見ていた。僕は何十年もこの仕事をしてきて、(先に中を)見てはいけないと訓練されてきたんだ」
広々とした金庫の中には、想像していた通り、未発表の録音物が山のように保管されていました。
「正確なサイズはわからないけど、だいたい縦20フィート横40フィートだよ。これは、銀行の基準で言えば、かなり大きい方だ。それなのに、金庫の中にはほとんど空スペースがなかった。工業用の棚がぎっしりと並んでいて、その一つ一つにテープが詰め込まれていたんだ」
2017年秋、金庫はプリンスの遺産管理人であるコメリカ・バンク&トラストによってハリウッドの施設に移されています。
今夏には、保管されていた2010年のスタジオ・アルバム『Welcome 2 America』がリリースされましたが、これは金庫の中にあった未発表の発見物の一つです。
金庫で見つかったテープには約8,000曲の未発表曲が含まれていると言われており、プリンス・エステートは現在、将来の遺作リリースに向けて整理・評価を行っています。