『AOR AGE Vol.19』の発売を記念したトーク&トリビュート・ライヴ<LEGEND OF ROCK 〜 Tribute to TOTO & STEELY DAN 〜>が、11月9日に渋谷duo EXCAHANGEにて開催されています。当日のレポートが到着しています
以下シンコーミュージックより
大好評のムック「AOR AGE Vol.19」の発売を記念したトークとトリビュート・ライヴで構成された“LEGEND OF ROCK 〜 Tribute to TOTO & STEELY DAN 〜”が、11月9日渋谷duo EXCAHANGEにて開催された。第一部のトークゲストは「AOR AGE」監修者、中田利樹さん。第二部はTOTOとスティーリー・ダンをトリビュートするSNUPとスティーリー・初段が登場。司会はMUSIC LIFE CLUB吉田が担当。
──2015年に発売された「AOR AGE」、その19号の発売記念ということで監修者の中田利樹さんをお迎えしてのトークから始めます、拍手でお迎えください。
中田利樹(以下中田):中田利樹と申します、よろしくお願いいたします。
──今日はTOTOとスティーリー・ダンというAOR二大巨頭のお話ですが。
中田:僕はそれにエアプレイとジノ・ヴァネリを加えれば、他は何も要りません(笑)。
TOTOの名盤といえば?
──では、まずはTOTOから。名曲、名盤たくさんありますが、中田さん的に名盤というと。
中田:TOTOの場合はファースト『TOTO 宇宙の騎士』か、4枚目『TOTOⅣ 聖なる剣』、あとは7『ザ・セブンス・ワン〜第7の剣』が好きっていう人もいます。その辺りが人気だということは「AOR AGE VOL.4」の「わたしの好きなTOTO」の人気投票で分かりました。読者の方だけではなくジェイ・グレイドンとかいろんなミュージシャンにも聞いたんです。でも、アメリカのミュージシャンは、シングルしか頭に入ってない感じで、4枚目が好きな理由は「アフリカ」と「ロザーナ」が入ってるから──という全く面白くないもの。アメリカはラジオ文化ですからアルバムよりもシングル・ヒットありき──になるんでしょうね。日本のAORファンはアルバム単位で聴いてらっしゃると思いますけど。で、その「わたしの好きなTOTO」の人気投票ですが、アルバムの一位は『TOTOⅣ 聖なる剣』、二位が『TOTO 宇宙の騎士』、三位がセカンドの『ハイドラ』、四位が『ザ・セブンス・ワン〜第7の剣』でした。シングルは「ジョージー・ポージー」が見事に一位を獲得。二位が「ロザーナ」、三位が「アフリカ」、なんと五位に「ユー・アー・ザ・フラワー」が入ってるんです。この辺りかなり嬉しい感じがあります。僕が好きな曲「テイル・オブ・ア・マン」も八位に入っていて、この曲はデヴュー当時にライヴでやっていたにもかかわらず当時はレコーディングせずに、1998年に出た編集盤の未発表曲で日の目を見た曲です。僕にとってのTOTOのベストで、なぜ好きかというと、ギターのリフとリズム隊の曲の展開、そこにキーが高いヴォーカル、ボビー・キンボール頑張ってる!というところが好みで。
──美味しいところいっぱいあるTOTOですけど、中田さんがハマった曲は?
中田:やっぱりデヴュー曲「ホールド・ザ・ライン」ですね。今でも覚えてますけど、最初に聴いたのはNHK-FMで松任谷正隆さんがDJをやってらした番組。“最近、僕の周りでTOTOっていうバンドが人気で、アルバムを手に入れたんだけど、これから初めて聞きます”って曲をかけたんです。終わってから“ほぉー、こんな感じなんだ、結構ロックだね”って(笑)。MTV全盛期の前だったけどPVもあって、スティーヴ・ルカサーがまだ坊やで可愛くて、あぁ、こういう人たちが演奏してるんだ──と思いました。
──切り口の多いTOTOですが、TOTOの凄さってなんでしょう?
中田:凄さがいっぱいあり過ぎるところが凄いんじゃないでしょうか。まず曲が良くて、演奏がいいのは当たり前、そしてこの二つを活かすアレンジですね。デヴィッド・ペイチを中心とした初期のアレンジは芸術性と大衆性が本当によくミックスされていて、そこに日本人では考えもつかないボビー・キンボールのヴォーカルが乗った凄さですね。ただ、ファーストに限って言えば欠点がひとつあって、それは音質というかミックスがちょっと甘かったのかなというところ。いい音というより、70年ならではのこもった音っていう感じがするんです。81年の三枚目『ターン・バック』からガラリと80年代の音に変わりますから──もしファーストに不満があるとすればそれだけかな。
──TOTOは単に上手いだけじゃない、スタジオ・ミュージシャンが集まっただけじゃないバンド。
中田:そうですね。ヒットは大事だし、ラジオ文化のアメリカでは特に。とにかく曲が良かった、デヴィッド・ペイチの才能が素晴らしかった、それが40年続いた結果じゃないかと思うんです。
──最近TOTOのニュースがまた色々入ってきてます。
中田:活動を再開するというアナウンスが嬉しいですね。それも、TOTOという名前を使うことが許されたことが一番嬉しい。同じメンバーでやっても、YESみたいに<アンダーソン・ブルフォード・ウェイクマン・ハウ>とメンバーの名前を連ねたものではなくて、TOTOという名前が使える。以前、名称に関しては訴訟に負けて使えなくなった──と聞いていたので、嬉しい驚きでした。
──それで、最近、スティーヴ・ルカサーにインタビューされたとか?
中田:直接やったわけではないんですが、僕が質問を考えて、ソニー・レコードの方にやっていただいたんですけど、11月21日に配信限定のライヴを新しいメンバーとやるということで、基本的にはルーク(スティーヴ・ルカサー)とジョセフ・ウィリアムズが正式メンバーで、あとはサポート・メンバー。2018年最後のツアーの時のキーボードのエックス(ドミニク“ザヴィエル”タプリン)、マルチ楽器のウォーレン・ハムは残りますが、他は新しいメンバーで、ジャム・バンド的な人が出てきたり、高校時代からの友人であるジョン・ピアースというヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースにも在籍したベテラン・ベーシストといった方がサポートしてくれます。で、“どういう曲をやるの?”と質問したんですけど、まだセットリストは固まってないけれど今まで以上にファンキーでタイトなライヴ向きのリズム・セクションだと言ってました。それと、“TOTOとしての新作の予定は?”とも訊いたんですが、“まず今は再始動をさせたい、ライヴをやってみてからだな”ということでした。ルークとジョセフはソロ・アルバムを来年2月に出す予定とのことです。
──楽しみですね、そしてそのインタビューの全貌は12月16日発売の「AOR AGE Vol.20」で。
中田:インタビューは、ソニー・レコードのホーム・ページでも内容を変えて出させていただく予定です。これは11月21日の配信ライヴの宣伝も兼ねていますので、まずはwebの方に注目していただければ。あと、ルークが “配信ライヴを自分のPCやスマホで観るのは15ドル(日本では21ドル)、タダみたいなものだから、皆んな観ろよ”って言ってました(笑)。
スティーリー・ダンは『ガウチョ』派?『エイジャ』派?
──(笑)、では次にスティーリー・ダンのお話を。これまた名盤、名曲ばかりなので何から話していただくのがいいでしょうか。
中田:「AOR AGE」ではVol.18で、40周年ということもあって『ガウチョ』の特集をやりました。今、こういう仕事をさせていただいていると、友達の輪というか、いろいろなつながりが広がってくるんです。例えば「AOR AGE Vol.17」でボズ・スキャッグスの『ミドル・マン』を特集するときに、カイル・レーニングさんというプロデューサーと話をしていたら、“最近はビル・シュネーと、誰々と…”って言うので、これは使わない手はないな…と思い、カイルさんにビル・シュネーを紹介してもらい、彼がプロデュースした『ミドル・マン』関係の独占取材ができたんです。そうしたら、エッ!そうだったの!という話がテンコ盛りで(笑)。そして、知り合いにゲイリー・カッツを紹介してもらい、インタビューが取れるのなら彼がプロデュースした『ガウチョ』の話を──という具合に広がりました。
──ゲイリー・カッツはインタビューしてみて、どんな印象でした?
中田:音楽を作るのはドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーのふたりにお任せ──というお父さん、お兄さんみたいな、じっと見てる感じで、あまり音楽的な口出しはしない──という人だというのがよく分かりました。ふたりが困ったり、二つアイデアがあってどちらがいいんだろうって悩んだときに、“これはこっちだろう”って言ってくれる人。ミュージシャン選びもフェイゲン&ベッカーのふたりに任せていたようで。
──すごくいいチームだったんですね。で、『ガウチョ』といえば『エイジャ』なんですけど、皆さんも『ガウチョ』派、『エイジャ』派といらっしゃると思うのですが。
中田:そうですね。客観的にアメリカのロック・ミュージックの歴史を見ていくと、『エイジャ』は絶対に『ガウチョ』以上に名盤だと思うんです。僕が一番好きなスティーリー・ダンの曲は『ガウチョ』3曲目の「グラマー・プロフェッション」という曲。色んな人に<宇宙で一番好きな曲>って言ってます(笑)。生まれてもの御心ついて聴いた曲の中で一番好きです。『ガウチョ』のA面はパーフェクトだと思ってます。B面は中ぐらいで好き。「グラマー・プロフェッション」のことをもう少しだけ喋らせていただきますと、『ガウチョ』特集の「AOR AGE」Vol.18で、シンガー/ミュージシャンの山本達彦さんに初めてインタビューさせていただきました。達彦さんはスティーリー・ダン、ドナルド・フェイゲンの曲だけを演奏する<スティーリー・ダン・ナイト>といったライヴをやってらして、電話インタビューで話し始めた最初の数分で “いやぁ、僕はスティーリー・ダンが好きというより、『ガウチョ』が好きなんですよ。「グラマー・プロフェッション」が──”という会話になって。そこでバッチリ意見が合って、他にもアレンジャーの山本光男さんや、篠田元一さんというアレンジャー/キーボーディストとかとスティーリー・ダンの話をすると、一番好きなのは「グラマー・プロフェッション」って話になるんです。ゲイリー・カッツさんにインタビューしたときに“僕は「グラマー・プロフェッション」が一番好きなんですよ”って言ったら、ゲイリーさんが、“君はミュージシャンか!”って。要はあの曲が好きなのはそう言った人たち──ということなんですね。この曲はキーボードのコード使いとかが凄くて、達彦さんはインタビューの中でコード・ネームをいちいち言ってくれるんですけど、これは載せなくてもいいな…と思っていたら、“載せてください”ってファックスが来て(笑)。これは使わないわけにはいかないな──と載せさせていただきました。
──『エイジャ』と『ガウチョ』の特徴で興味深かったのは年代ですね、『エイジャ』が77年、『ガウチョ』が80年。この3年の差というのがAOR/フュージョン・シーンではキーになってるんですか?
中田:僕が勝手に思ってるんですけど、例えばボズ・スキャッグスでいえば77年の『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』は70年代の音なんですけど、その後3年ぶり80年に出した新作の『ミドル・マン』は完璧に80年代の音。それともう一人、僕の大好きなジノ・ヴァネリも78年の名作『ブラザー・トゥ・ブラザー』も70年代の音なんですけど、3年後81年に出した『ナイトウォーカー』は80年代の音で、それは当たり前じゃないか!って言われるんですけど、それぞれの2枚のアルバム、どちらが好きかという比較をよくされる作品なんですね。僕はどちらかというと皆んな80年代の作品の方に軍配を上げてしまう。なぜかというと、音が煌びやかで、明るくオシャレな感じがするからかな。
──その差は楽器一つの音色をとっても違う。
中田:デジタル・レコーディングが始まってミックスも仕方も変わって。例えばエアプレイのアルバム『エアプレイ』は80年ですけども、実際にレコーディングしたのは78年〜79年。でも、なぜか80年代の音を感じるんです。そういったわけで僕は『ガウチョ』派なんですね。新しいテクノロジーとかも色々と使っているので。
──今出ている「AOR AGE」Vol.19はケニー・ロギンスの表紙ですけど、インタビューも協力をいただいて。
中田:これもレコード会社さんの協力でやらせていただきました。自分でもインタビューはするんですけど、大物すぎると発音が悪いのは失礼かなと思って。
──ケニー・ロギンスは元気でした? 変な訊き方ですけど。
中田:日本には何十年も来てないですし、閉所恐怖症だから飛行機が嫌いとも言ってました。インタビュアーの方の話ですと、凄く明るく、こんなに喋ってもらえるの? っていうくらいたくさん喋ってくれたそうです。インタビューはここ30〜40年間なかったですから貴重です。
──「Cool Sound」という中田さんが主催されているレーベルからも。今回、隠れた名盤が出るそうで。
中田:バリー・クロッカーの『No Regrets』は、ジェイ・グレイドンが1977年に全編初プロデュースをした作品です。バリー・クロッカーはオーストラリアのシンガー・ソングライターで、役者もやっていて、この作品はこれまでCDとしては海外では一切発売されていないもの、今回は限定1,000枚通販のみの形での販売となります。この他にもバリー・マニロウの共同プロデューサーとしてもアメリカン・ポップスのヒット・シンガーとしても有名なロン・ダンテの『Street Angel』。そのプロデュース作のジョリス&シモーン『Jolis & Simone』、『Ron Dante AOR Works 1977-1981』を出します
──中田さんには今後も是非、そういった埋もれた名作をどんどん発掘していただきたいと思います。そろそろ時間になってしまいました、本日はありがとうございました、中田利樹さんでした。
中田:ありがとうございました。
この後、第二部としてスティーリー・初段、SNUPのライヴが行われた。
■シンコー・ミュージック・ムック
『AOR AGE Vol.19』
著者 中田利樹
A5判 /160頁/本体 1,700円+税/10月29日発売
ISBN:978-4-401-64973-0