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トークイベント<自伝「屈折くん」刊行記念 人間椅子・和嶋慎治 スペシャル・トークセッション[大阪編]> レポート到着

2017/10/10 14:18掲載
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屈折くん / 和嶋慎治
屈折くん / 和嶋慎治
和嶋慎治(人間椅子)の自伝『屈折くん』刊行記念トークイベント<自伝「屈折くん」刊行記念 人間椅子・和嶋慎治 スペシャル・トークセッション[大阪編]>が9月28日に大阪Loft PlusOne Westにて行われています。レポート到着

以下、シンコ-ミュージックより

9月28日大阪Loft PlusOne Westにて、和嶋慎治さんの自伝「屈折くん」刊行記念スペシャル・トークセッションが行われた。司会進行はライターの志村つくねさんが担当。

本書の制作協力者である志村つくねさんと和嶋さんは、昨年10月から「屈折くん」制作の準備を始めたこともあり、ほぼ一年前の出来事を振り返りながらのトークが始まった。
和嶋慎治(以下和嶋):最初、“自伝を出しませんか”というオファーをいただいたんです。それまではwebで、“このときこんな曲を作った”とか“こんな苦しい時代があって”とかいろいろな実体験を書いてはいたんです。でも自伝って何か大きな成果を成し遂げた人が出すものと思っていたので、ちょっと恐れ多いとご遠慮したんですけど、“和嶋さんは他の方にない経験をしてると思うので、それを書かれたらいかがですか”と仰っていただいて。それだったら自分の色々な体験で、夢を追ってバンドとか何かをやろうとしてる若い人に伝えられるものがあるかな…と思って自伝を引き受けたんです。
志村つくね(以下つくね):そういういきさつがあったんですね。

ただその頃、人間椅子の作品制作を控えていたこともあり、執筆に割く時間もない中、現実化のためにはライターの方の協力が必要ということになり、和嶋さんの発案で志村さんに白羽の矢が立った。和嶋さんへの密着取材は弘前の実家同行から、東京で青春を過ごした跡地巡りにも及び、その人生を追体験するような取材だったと志村さんは回想。しかし話はそれだけでは終わらなかった。1日4〜5時間のインタビューを4日間行ってもまだタイトルが決まっていなかったのだ。

和嶋:タイトルがなかなか決まらなくて、みうらじゅんさんにも相談したんですけど──「怪獣の顔の作り方」はどうだいって──それはご遠慮したんですけど(笑)、キャッチーさが必要だというヒントにはなりました。読みやすく短い言葉で…と考えたとき、高校の1年間だけ「屈折」っていうあだ名があったのを思い出したんです。青春の感じもあるし、それが今の自分を作ったということもあるので、今日こそタイトルを決めなくてはならない、という打ち合わせのときにその話をしたら。
つくね:絶対それがいいですよ、ってなったんです。絶対これがよかったと思います。
和嶋:タイトルが決まった時点で、あ、これはいい本ができそう…って思った。あ、そうそう4日間のインタビューが終わってから、「屈折」の話は思い出したんだけど。
つくね:そのエピソードを話していただかないと…ということで。
和嶋:「屈折」の話のために5日目のインタビューをしたんだ。それで高校生編が少し膨らんだんですよ。
つくね:なんかもう昔の話のように思えてきましたね(笑)。

こうして膨大なインタビューをつくねさんが原稿としてまとめ、それを和嶋さんがブラッシュアップすれば本が出来るという所まで行ったのが昨年末のことだった。しかし年を越し、“やはり自分の言葉で書くべきだ”という思いを強くした和嶋さんは、改めて文章を書き直し、その後10日あまりの時間で最終的に「屈折くん」となる原稿を仕上げる。

つくね:あの短期間で、これだけ質の高い和嶋節満載の文章を書いてくるとは思いもしなかったです。最後の最後まで“大屈折”があって出来上がった本だなと思います。
和嶋:大屈折ですよ(笑)。自分は頑固なんだなと思いました、そうじゃないと物は作れないパーソナリティなんだと。書き直しながら志村くんには感謝してました、“その方がいいと思います、是非やってください”って言ってくれて。それでもかなり予定より原稿が遅れて結局本の発売も遅れたんですけど、書いてる最中泣いてしまうんです。インタビューのときは人に対して懺悔する感じだったんですけど、一人で書いてると感情の持って行き場がなくて号泣して。で、ひとしきり泣いた後にまた書き始める。ですから度々筆が止まってしまう。
つくね:記憶が生々しく蘇ってきて。
和嶋:昨日、中学生だった…みたいな気分で、精神療法をやってるみたいだなと思ました。そうやって家でずっと書いていてたまに外に出ると、自分がどこにいるのかわからなくなって“ここはどこだろう”ってなるんです。水木しげるさんが“毎日漫画ばかり描いていて、外にでると辺りがみんな漫画に見える”って書いてたんですけど、こういうことかと思いました。リアリティがなくなって色即是空になるんです。
つくね:人間椅子のメンバー、鈴木さんやノブさんはこの本のことをなんて仰ってました?
つくね:途中から鈴木君は登場してくるんだけど、“所々事実と違うな”って言ってました(笑)。ま、でもほぼ僕らが辿ってきたところが書かれてると思います。ノブ君は“ちゃんと死体のこと書いたね”って言ってました。ノブ君と一緒に発見したようなものなので。
つくね:生々しい話でしたね。
和嶋:僕、そこで死生観が変わりましたから。

執筆中、何度か“ゾーンに入った”和嶋さん。かってレコーディング中にも“自分の身体がなくなる感覚=ゾーンに入ったときに録ったテイクがすごくよかった”実体験があり、今回も、パソコンの画面に次の文章が見えてきてそれを自分が追うという…という体験をしたという。無我の境地の文章は読み返してもおもしろく淀みがなく、執筆の最後近辺はその状態で書かれ、そのお陰で締め切りにも間に合ったとのこと。

和嶋:たくさんの方に読んでいただいて、再販分では文章の助詞の使い方とか少し直したんですけど──おふくろに怒られまして。“慎治!なんであんたはお姉さんのことをあんなに悪く書くんだ”って。“話の流れなんだよ…”って言ったんですけど、自分でも申し訳ないって気持ちがあったんで、若干取って付けた感もあるんですけど、(再販分では)姉のフォローもちょっと書いてるんですよ。
つくね:家のことを書くのも難しいですね。
和嶋:難しい(笑)。私小説作家は心を鬼にしてやってるんだなと思いました。あえて修羅の道を行ってるんだと。だから作家って結構業が深いもので、普通の人はやれん(笑)。でも、この本を出してから色んなシンクロニシティもあって、本に出てる人から久々に連絡があったり、同級生で消息不明の人がどうなってるか分かったり、イカ天(いかすバンド天国)で一緒だった黒沢君(宮尾すすむと日本の社長)から連絡があったりと不思議なことが連続して。素直なイメージって結構現実化するんです、欲望の赴くままのイメージはダメですけど(笑)。

ここで第一部が終了、休憩後、第二部は和嶋さんによる弾き語りライヴとなる。まずは“「屈折くん」刊行記念を祝して、かんぱ〜い!”という和嶋さんの発声で全員乾杯が行われた。

和嶋:「屈折くん」の中にも出てくるんですけど、僕は高校生の頃UFOにアブダクションされまして、何かヴィジョンを見せられたのかもしれませんけど、突然作る曲の傾向が変わったんです。そこで「鉄格子黙示録」とかを作るわけですけど、今日はその次に作詞作曲した曲をやってみたいと思います。CD化しようと思ったものの歌詞が危なくて未だCD化ならずという曲です。「わたしのややこ」

M1 わたしのややこ

和嶋:選書フェアの方で怪奇小説とか怪談とか色々ありましたが、自分はポーという作家が好きですね。江戸川乱歩さんがペンネームの元にした、エドガー・アラン・ポーですが、自分の気質に合うんです。暗い中の美意識みたいなものが。影響を受けた「黒猫」という曲もありますが、ポーの小説の中から「リジイア」という曲をやってみたいと思います。

M2 リジイア

和嶋:このまま延々と曲をやり続けたいところなんですが、本日はトークイベントということで、次の曲で弾き語りは最後となってしまいます。しっとりした曲をやったので、最後はノリノリの曲でしめたいと思います。ロック・ミュージックには、悪魔と契約するという「クロスロード」みたいな話がありますが、僕もロック・ミュージックは悪魔と契約したような音楽だと思うわけですよ、人間の闇の生き方を示すようなところがあって。UFOに乗っていたのがこいつだったのかもしれません、「悪魔と接吻」。

M3 悪魔と接吻

和嶋:お客さんに感謝します、これでみんなも悪魔と契約したんじゃないでしょうか、ありがとうございます。(場内大拍手)

熱の冷めやらぬステージに和嶋さんは残り、志村さんも登場、最後のトークコーナーが始まった。

和嶋:こうやって人間椅子の曲を東京ではたまに弾き語りでやってるんですけど、今日やってみて大阪の方でもやりたいと思いました(場内大拍手)。デカいところでドカンとやるんじゃなくてアットホームな所で乾杯しながらやろうと思います。
つくね:トークも後半戦となりましたが、人間椅子は新譜が10月4日に出るということで。
和嶋:『異次元からの咆哮』というタイトルを付けてジャケットはどういう風にしようかと考えたんです。20枚目ということもあって「ねぷた」というアイデアが出て、ねぷたというのも咆哮というか生命力の迸りなんです。ジャケットの裏は、<見送り絵>と言って、奇麗な女性が手に髑髏を持って立ってる。これは<死とエロス>なんです。表が生命で裏が死、あ、自分たちがやろうとしてることと同じだと思ったんです、バッチリはまりました。
つくね:先ほどみなさんがご覧になった今回の「虚無の声」のMVでは、プロジェクションマッピングやLED映像をその場で変更するVJ的な最新鋭の技術を駆使した人間椅子ですが。
和嶋:せっかくミュージック・ヴィデオを作るからには、同世代だけじゃなく世代を超えて若い人にも見て欲しいというのもあって。元々ロックってそもそも青春の表現で若い気持ちがないとできないんですよ。それで時代の最先端で行きたいな〜って思いまして、プロジェクションマッピングや3Dとかをやれる監督さんを紹介してもらって。曲は「虚無の声」でやりたいと思ったんです、それをメンバーと話して。アルバム1曲目にもなってますし、トータルにアルバムのことを言ってる曲ができたので。その中で現実が崩壊する様、色即是空感を出したくて、それがプロジェクションマッピングだとピッタリだなと思ったんです。撮影は最新の特別な機材が揃っている所で撮りました。作ってもらった映像をLEDに流して、その前でライヴ演奏をする──という構成で。本当に撮ったままの物に若干編集を加えて。で、プロジェクションマッピングを投影してもらって。なんか鈴木君の身体がキャンバスになってました(笑)。
つくね:キャンバスにするためにギターも白いSGにされたとか。
和嶋:白が映えるというので、打ち合わせがあったその日に買いに行きました。それと自分のモデルとして作った<冥王〜Pluto>とか、ギターが変わればリアリティが崩壊する感じになると思って。
つくね:映像は見応えがあるし、音源は聴き応えがあるし、『異次元からの咆哮』はこれから色々レビューが上がってきそうな感じで。
和嶋:やっぱりブレてないね。人間椅子のちょっと違う面も見せられて──怖くて愉快なんですよ。
つくね:たしかにそういう面も。
和嶋:方便(仏教で人を真の教えに導くための仮の手段)みたいなものをやりたいんですよ。何かしら言いたいことがあるとして、それをそのまま言うとほぼ伝わらない。例えば極楽の話を聞いてもあまりおもしろくないんだけど、地獄の話はみんな興味津々に聞くんです。だからそういうことをロックで、真実を戦慄するような感じで伝えたいんです。今回ちょっと近づけたかなって感じです。

イベントの最初に会場に質問用紙が配られており、ここからは質問コーナーとなった。

Q1 和嶋さんの選書の中から鈴木さん、ノブさんにお薦めしたい本はありますか?
和嶋:ノブくんは日野日出志さんのファンなので、是非「新耳袋」を読んで欲しいですね。鈴木くんには「ゴッホの手紙」なんてどうでしょうか。彼、画才がありますから。

Q2 「屈折くん」の中でお姉様の影響でビートルズに衝撃を受けたとありますが、フェイヴァリット・ソングは何ですか?
和嶋:姉の借りてきたレコード、あるいはラジオから流れてきたビートルズに、何か、ウソじゃない感じがしたんだよね。歌謡曲は作る人がいて、お人形のような人が歌うっていうのが子供ながら分かったんです。ビートルズはそうじゃなくて自分たちでやりたことをやってる、そこに情熱を感じました。だから1曲挙げるのはとても難しい──全時代好きなんですけど特に初期の原石のような、セカンド・アルバムに入ってる「It Won't Be Long」とか好きですね。

Q3 今回「屈折くん」を執筆して和嶋さんご自身心境の変化はありましたか?
和嶋:自分の心を旅行する感じだったからね、しかも涙を流しながら。精神療法、トラウマ克服法みたいなことをやったので、改めて自分はやりたいことをやっているんだなということを再認識できましたし、これを書くことで──ポップって言うと迎合した日和ったと取られるかもしれないけど──もっと普遍的なことをやりたいと、前より思えたかな。ブレずにちょっとキャッチーさも入れて。

Q4 「屈折くん」の続編はないのでしょうか?ものスゴく期待してます
和嶋:そうですよねOZZ FEST.で終わってるからね。でも、本を書くとき、そこまでだと思ったんです。そこからは楽しい話なんですよ。もちろん楽しくもあり苦しくもあったんですが。さっきの話じゃないですけどやはり物語というのは紆余曲折があるからおもしろいので、そこを乗り越えた段階で屈折はしてないんですよ。だから違う形で書きたいと思います。
つくね:僕個人としては、映画化とか朝の連続ドラマ化をして欲しいと思うんですが。(場内大拍手)で、テーマソングは鈴木さんに歌っていただいて(笑)。

Q5 選書に色川武大さんの本がありましたが、どのようなところがお好きですか?
和嶋:あの方がどこかで述べてましたが、“書きたいことのその周りをいろんな角度から書くんだ”って。だからあまりエンタテイメントじゃないんだよね。<屈託>って言葉は彼の小説によく出てくるんだけど、あそこまで屈託を書いた人はいないと思う。そこも共感できるんですけど、色川武大のスゴい所は、どれが正義でどれが悪だって絶対言わない所。ある意味大きい平等なんです。価値をきめつけない、ちょっとニヒリズムに近いですけど、そこが魅力だと思います。

Q6 これも書けば良かったっていう「屈折くん」追加のエピソードはありますか?
和嶋:やっぱり苦しかった話になっちゃうけど、苦しかった話だけで一冊書けるくらいはあるので。え〜と、渚ようこさんって歌手の方がいらして、彼女のバックバンドをやってた頃、酔っ払ってはその辺で寝る生活だったんですよ。それで、横浜の非常に治安の悪い所でライヴがあったとき、みんなは帰っちゃったんだけど俺はスゴく楽しくなっちゃって──色川の小説にかぶれてたりもしたので──そこで飲んでやろうとベロンベロンになるまで日雇い労働者たちに混じって飲んだんです。酒が1カップ50円、つまみが30円とかだったので豪遊できると思って。で、スゴい飲んで意識を失って公園で寝て目が覚めたら色んな物がなくなってた。財布はもちろんその日のギャラもなくて。これはまぁイタ過ぎるので書かなかったんですけど。救いがない話で。

つくね:なるほどなるほど、ありがとうござました。そういう色んな話もありつつ今回の「屈折くん」のイベントでしたけど、人間椅子は『異次元からの咆哮』を10月4日に出されて、10月31日仙台からリリース記念ワンマンツアーで全国を廻ってファイナルが東京で、初めてやるZepp DiverCity TOKYO。
和嶋:ここは結構大きな所なんで、ご協力よろしくお願いいたします。新譜に入ってる曲は全部やりたいんですけど1会場では全曲できないんです、古い曲とのバランスがあるので。ですので何カ所か来ると全曲コンプリートできると思います(笑)、その中にZepp DiverCity TOKYOを加えてはいかがでしょうか。もちろん11月12日の梅田TRADもすごく楽しみですよ!
つくね:お台場観光と「屈折くん」の聖地巡礼を組み合わせいただいて。で、どうですか大阪でこういうイベントが開催できたというのは。
和嶋:いやぁうれしいですよ。バンドの演奏ではデビューの頃から大阪はずっと来てましたけど、こうやって本を出して、大阪でこんなに大勢の人が集まってくれるなんて、続けてくれて──(笑)“続けてくれて”ってなんかもう自分を客観視してますね“和嶋続けてよかったな”って(笑)。人間椅子、そして私も、これからもおもしろいこといっぱいやって行きたいと思います。今後とも大阪のみなさん、応援よろしくお願いいたします。(場内大拍手)どうもありがとうございます。

この後サイン会が行われ、MVで着ていた羽織の端切れを活用して和嶋さんが自費で作った小物も併せてプレゼントされた。