ブライアン・イーノが、グラミー賞にもノミネートされた前作『LUX』(以来となるソロ・アルバム『The Ship』のリリースを発表した。本作は、イーノのベリー・ベストであると同時に、過去の偉大な傑作たちのどれとも似つかない、イーノのクリエイティヴなキャリアにおける異なるサイクルの始まりを伝える意欲作となっている。また、ルー・リード作曲のザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド曲「I’m Set Free」をイーノがカバーしていることにも、大きな注目が集まるだろう。ヴェルヴェッツは、美術学生時代に行っていた初期の音楽的探究のインスピレーション源としてイーノが名前をあげたバンドとしても知られている。
60年代後期に書かれたルー・リードの「I’m Set Free」は、書かれた当時以上に現在の方がより意義を持つように思える曲だ。ユヴァル・ノア・ハラーリ(イスラエル人歴史学者/著述家)が書いた本『SAPIENS:A Brief History of Humankind』を読んだことのある者なら誰しも、"新たな幻影を見つけるために私は自由になる(I’m set free to find a new illusion)" というあの曲の一節の持つ物静かな皮肉に思い当たるのではないかと思う…そしてそこにある、自らのストーリーから抜け出したからといって我々は何も<真実>ーーそれがどんな真実であれーーに足を踏み入れるわけではなく、また別のストーリーの中に入っていくものなのだ、との言外の含みも理解することだろう。