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『ロフト・セッションズ VOL.1 アウトテイクス』が全曲リスニング可

2019/09/25 11:36掲載
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VA / ロフト・セッションズ VOL.1 アウトテイクス
VA / ロフト・セッションズ VOL.1 アウトテイクス
ライヴ・ハウスのロフトが1978年にビクターとタッグを組み発売した、和モノ名盤『ロフト・セッションズ VOL.1 〜フィーチャリング・フィメール・ヴォーカリスツ〜』。当時収録された別テイクが40年ぶりに発掘され、今回、『ロフト・セッションズ VOL.1 アウトテイクス』としてリリース。Spotify、Apple Musicで配信開始。全曲リスニング可。

『ロフト・セッションズ VOL.1 〜フィーチャリング・フィメール・ヴォーカリスツ〜』は、当時、下北沢や新宿ロフトを中心に活動していた若きミュージシャン達と、まだ無名だった女性新人ヴォーカリストによるスタジオ・セッション・アルバム。

日本のJ-POP作品が海外のリスナーに“和モノ”として再評価されている昨今、本作品は、その後のJ-POP/フュージョン・シーンに影響を与えるミュージシャンの初期音源が収録された歴史的セッションです。

今回、40年振りに発掘されたマルチ・テープの中から、人気曲「星くず」「こぬか雨」など計6曲8ヴァージョンのアウトテイクスを発見。

『ロフト・セッションズ VOL.1 アウトテイクス』では、アウトテイクスが発見された6曲にフォーカスを絞り、そのオリジナル・ヴァージョンも収録した2枚組アルバムとして9月25日に発売。音源は今回発掘されたマルチテープを元に最新リミックス。2019年最新リマスタリング、UHQCD仕様。



■『ロフト・セッションズ VOL.1 アウトテイクス』
2019年9月25日(水)発売
品番:VICL-77001-2
POS:4988002790760
2枚組、3,900+税
最新リマスタリング、UHQCD
監修:吉留大貴

【収録曲】
DISC1:FROM ORIGINAL
1.星くず(上村かをる)
2.こぬか雨(高崎昌子) 
3.雨はいつか(吉田佳子)
4.気楽にいくわ(高崎昌子)
5.きょうから(上村かをる)
6.Motif-M(堤 遥子)
*2019年最新リマスタリング

DISC2:OUTTAKES 
1.星くず [Take1] (上村かをる)
2.こぬか雨 [Take1](高崎昌子)
3.雨はいつか [Take1](吉田佳子)
4.気楽にいくわ [Take1](高崎昌子)
5.気楽にいくわ [Take2] (高崎昌子)
6.きょうから [Take1] (上村かをる)
7.きょうから [Take2] (上村かをる)
8.Motif-M [Take2]  (堤 遥子)
*全曲初収録 *2019年最新リミックス

[参加アーティスト]
1-1, 2-1:鳴瀬喜博、ジョニー吉長、難波弘之,永井充男、野呂一生、マック清水
1-2, 2-2::緒方泰男、西哲也、田中章弘、中島正雄
1-3, 2-3::徳武弘文、村上律、松田幸一、岡田徹、平野融、平野肇、ロマンBOYS
1-4. 2-4,5::川辺ハルト、市崎元輝、横沢龍太郎、小堀正、向谷実、新田一郎、兼崎順一郎、中村哲
1-5, 2-6,7::鳴瀬喜博、村上秀一、チャールズ清水、山岸潤史
1-6. 2-8::鳴瀬喜博、山岸潤史、新田一郎、兼崎順一郎、中村哲

<解説>

CITY POPブームと『LOFT SESSIONS』

「近年の海外でのCITY POPブームで、僕から見た”CITY POPの定義”が見えてきたような気がするんですよね。音楽的には70年代のシンガーソングライターとニュー・ソウルの二つの流れは外せないですよね。でも僕はもう一つ要因があると考えているんです。自分も、そしてロフトグループオーナー平野悠さんも何らかの形で60年代後半から、70年代前半の”政治の季節”に遭遇していたし、このアルバムに参加した同世代の人達も、多かれ少なかれ同様の経験をしていたはずなんですよ。CITY POPには我々の世代が持っていた”社会に対する意識”や”都市生活者としての願い”が改めて予想以上に反映された音楽で、それが国内外を問わず求められるのは、何か意義があるように感じられてしまいますよね。」                        
                             (談:音楽プロデューサー 牧村憲一)

『LOFT SESSIONS』 アウトテイクス 楽曲解説

●星くず/上村かをる

 久保田真琴と夕焼け楽団『デキシ―・フィーバー』に収録されたアーシーな魅力を持つ楽曲を、グルーヴは残しつつアーバンな方向に自然に変えたこのセンスはやはり素晴らしい。このアルバムは根本的に普段のバンドとは異なる人選でシャッフルしてセッションを構成しているが、この楽曲に関しては、セッション・リーダーである鳴瀬喜博率いるバックスバニー主体にして功を奏している。後に多数の名バンドに加入する名手の集まりではあるが、何よりも歌詞を聴かせる間を活かしたアレンジを大事にしたジャム・ファンク・バンドというコンセプトは、日本はおろか世界レベルで考えても今でもあまりいないのではないか。
 そのグルーヴをバックにしなやかに歌う上村かをる(現・うえむらかをる)は、今でもこの歌を歌い続けているように楽曲との相性も良い。今回収録されたアウトテイクではより涼やかな感じになっていて、このタッチが好きという人も予想される。またクレジットはされていないが、コーラスで金子マリが参加、そして鳴瀬をカシオペアに加入させる野呂一生が参加しているのも、その後の関係性を考えると感慨深い。牧村憲一から、「今までこのアルバムは女性ヴォーカルがクローズアップされることが多かったが、素晴らしいミュージシャンの演奏にも改めてフォーカスを当てて欲しい」との要望もあるので、その点にも注目してもらいたい。     
  
●こぬか雨/高崎昌子

 「DOWNTOWN」と並ぶ伊藤銀次&山下達郎とのソングライティングによる、永遠のグルーヴ・クラシックスであり、2019年5月9日吉祥寺スターパインズカフェでのライブMCでも、「自分もたくさん楽曲を書いてきたけど、自分の代表作は、70年代に作った『DOWNTOWN』と『こぬか雨』と言われるんです」と語っていたのも印象的だった。
 GAROの「美しすぎて」が発想の継起であったという伊藤の発言があるように、コード・プログレッションの妙が冴えるこの楽曲をセッション・リーダーの緒方泰男は、コード感を残しつつ、ヴォーカル担当・高崎昌子の軽やかで独特のタメが効いた唱法を活かすことに成功している。オリジナル・テイクは全体の集中力が良いが、アウトテイクは各楽器の分離がよく分かるので、ギター中島正雄、ベース田中章宏、ドラム西哲也、キーボード緒方泰男といった名手達の楽曲に対する解釈力が如実に理解出来る。70年代洋楽に影響を受けた日本のミュージシャンの多くの試行錯誤が、現在CITY POPとしてオリジナリテイがある日本独自のグルーヴとして評価されている流れの中でも、今回発見されたアウトテイクスも含めて、この楽曲が最も海外の反応が知りたい名演と呼べるかもしれない。   

●雨はいつか/吉田佳子

 センチメンタル・シテイ・ロマンス時代の告井延隆の名曲、近年2011年の東日本大震災以降、各地の被災地でも歌われる事が多くなっていることでも知られていて、この楽曲に込められた静かな再生を切望する願いがより大きくなっているのを実感させられる。今回、吉田佳子(現・よしだよしこ)から、「この歌を録音する前後に音楽活動をやめるつもりでいた。今から思うと、特にアウトテイクは自信がなかったように感じられてしまうんですね」と言われるが、それが聴き手には揺れ動く心情をも表現するかのように聴こえるのが、音楽の不思議さとも言えるのか。
 セッション・リーダーであるギター徳武弘文を始めとして、ベース平野融、ドラム平野肇、キーボード岡田徹、スチールギター村上律、ハープ松田幸一といったカントリー・テイストの強い演奏に関しては、いずれ劣らぬ名プレイヤーの集まりではあるが、40年も前の若い時代にこれだけ抑制が利いたアンサンブルができたのは、いかに当時のミュージシャンの演奏レベルが高かったかが証明される。もはやカントリー・テイストのギターであれば紛れもなく世界レベルでの名手である徳武が40年も前にこの完成度を保っていたのは驚愕させられる。そして音楽活動を復活させた吉田が今も歌うこの名曲を、是非一度ライブでも聴いてもらいたい。 

●気楽にいくわ/高崎昌子

 今回発見されたアウトテイクスが面白いのは、スタジオでの演奏のテイストから当時のミュージシャン達の音楽の流行の傾向が読み取れることだ。当時活動していた方々と話すと、世間の洋楽の流行とは別に何故かミュージシャン内でのタワー・オブ・パワーの人気が高かったと語られる方が多い。この楽曲に関してセッション・リーダーであった中村哲がその点をどれだけ志向していたかは不明ではあるが、後にスペクトラムを結成する新田一郎や兼崎順一郎、R&B色の強い演奏では定評があるベース小堀隆、ドラム横沢龍太郎、カシオペアでの活動でも知られるキーボード向谷実といった系統のミュージシャンが集まり、テイクを重ねていくと他者からの誘発もあるのか、何処かで自らの志向性が楽曲に滲み出てくる過程が、このアウトテイクスに残されているのは、今まであまりなかったある種貴重な記録とも呼べる。  
 そして更に興味深いのは、「こぬか雨」を聴くとヴォーカル高崎昌子は極めてクールな歌唱に徹しているが、本楽曲においては、次第にルーファス時代のチャカ・カーンとも感じさせるクロさ全開のヴォーカルが炸裂していて、アウトテイクスが発表された事で改めて歌い手としての幅の広さを提示している。    

●きょうから…/上村かをる

 このアルバムが1978年発表であるのも、現時点から見ると幾つか面白いポイントがある。70年代後半なのにNYのスタジオ・ミュージシャン・ユニットとして一世風靡したスタッフの影響をほぼ感じさせないことや、参加ミュージシャンにパラシュートに連なる人脈がいないことなども読み取れる。それを最も強く感じさせるのが、この楽曲なのかもしれない。上村かをる(現・うえむらかをる)作詞&作曲による楽曲の構成から考えると、時代的にはフュージョン的な展開もあったかもしれないが、明らかにR&Bの方向に振り切れた事で、良い意味でのいなたさが宿るタイムレスに聴ける楽曲に仕上がったのではないか。
 このアルバムは、本楽曲のセッション・リーダーであるベース鳴瀬喜博の存在が実に大きいのを実感させられるが、中でも東京出身の鳴瀬が、ギター山岸潤史、ドラム村上秀一、キーボードチャールズ清水といった関西出身のソウル・ミュージックの影響のある音楽を得意とするプレイヤーと組んだという点も興味深く、この人選の絶妙さがあったからこそ、うえむらのヴォーカルも含めて唯一無二の世界が構築出来たとも言える。特に村上においては、彼の70年代屈指の名演である山下達郎「マンデイ・ブルー」をも想起させるニュアンスも感じられ、当時のミュージシャンによる個々のトータルなセンスがレコ―ディングの現場で反映されていたのが容易に想像出来る。  

●Motif-M/堤 遙子

 今回発見されたアウトテイクスは、全てが歴史的価値のあるトラックであるのは間違いないが、中でも最も問題作なのがこの楽曲なのかもしれない。日本にも”幻の女性ヴォーカル”と呼ばれる方は何人もいるが、このアルバムに参加意向活動を停止した堤遙子の存在が結果論ではあるが、『LOFT SESSIONS』に深遠さを与えているとも言えなくもない。
 今回発見されたアウトテイクは、スタジオでのリハーサル・テイクだったのかもしれないが、一聴すれば、ソングライティング能力の高さ、ヴォーカルとしての圧倒的な力量、ピア二ストとしての秀逸さ、全てが一級品であると呼ぶに相応しい。オリジナル・テイクも良いが、本楽曲のピアノ弾き語りの方が好みという方がいても仕方がないぐらい程の輝きを放っている。音楽的にローラ・ニーロ等の女性シンガーソングライターの影響下にあるのは想像に難くないが、それ以上に彼女自身のオリジナリテイも感じられていて、担当ディレクターに、「出来れば日本語のオリジナルが聴きたかった」と言われたが、自分もこの件に関しては全面的に同意する。
                               
(文筆業  吉留大貴)