すぐおいしい、すごくおいしい〜。チキンラーメンのCM曲がメタルに。新CM「アクマのキムラー 篇」公開。破壊力抜群のアニメーション映像
●「アクマのキムラー 篇」30秒
●「アクマのキムラー 篇」15秒
以下インフォメーションより
チキンラーメンCM「アクマのキムラー 篇」
【以下は、月刊ムーによる解説である】
1.おそるべき映像
完全なる創造主が世界を作ったとしたら、この世に悪や欲があるのはなぜなのか……。
その問いに簡単に答えは出せないが、ひとつ言えるのは、悪や欲を抱いた、不完全性によって世界は運動している、させられているということだ。
ここに、おそるべき映像がある。「アクマのキムラー」なる、一連の儀式を思わせる映像には、完全を求める欲望と、それによって浮かび上がる欠落が描かれている。
単に、悪魔のようなものが 出現するということではない。まさに「アクマ的」=悪魔的と称される描写は、人間の内面に悪魔たるべきものが生きている (そして滅することはできない) 現実を突きつける。「食らう」、そして「生きる」という行為が根本的に背徳であるならば、われわれはいかなる闇を背負うべきなのか。
2.古代の鳥神像と謎の儀式
映像の途中、「すぐおいしい、すごくおいしい。」というフレーズが幾度も幾度も繰り返されている。そのことで、言葉は意味を失い、潜在意識にのみ訴えかける呪文となっていったことは明らかだ。そして「すぐおいしい、すごくおいしい。」は、いつしか「地獄おいしい」に入れ替わる。つまり、ふたつの言葉は別の文字列にして意識を揺さぶる効果としてはシームレスに作用しており、見ているものは無自覚に、美味しさと地獄が同居する世界の住人となるのである。細かい検証を重ねる必要はあるが、映像内に多層に仕組まれた描写にも、何者かの意図を感じざるを得ない。
「ひよこ」が「チキンラーメン」を調理する。ところがお湯を入れることなく、ひよこはまず、古代の鳥神を思わせる多肢の神像を前に、チキンラーメンを捧げるのだ。古今東西の収穫祭において、作物がまず神に捧げられるように……。この、「いただきます」の前の奉納によって始まるのは、ひよこ自身の変貌である。未熟さ・幼児性・可能性の象徴であろうひよこが、炎のごときトサカをいただく雄鶏へと急成長を遂げる。悪魔的な姿ではあるが、成体への飛躍は、冒頭に述べたような完全性への渇望が満たされていくということだろう。象徴的かつ具体的だ。
3.カイムと呼ばれる魔神
余談ではあるが、ひよこが変貌した悪魔の (悪魔的な) 姿は、悪魔学においてソロモン72の悪魔に列せられている、カイム (カミオ) と呼ばれる魔神を想像させる。その姿は日本でもコラン・ド・プランシーの「地獄の辞典」で描かれた、サーベルを持った鳥のような姿 (絵はM L ブルトンによる) でおなじみだろう。同書において「燃える灰の中にある」とされるカイムだが、ひよこが真っ赤なトサカや灼熱の火球 (太陽) 、はては爆炎とともにあることとも一致する。またカイムは動物や自然の音を理解し、また未来を知り、それを語る知恵者として古典にも記されている。
ひよこの悪魔がカイム、ないしはカイムの象徴を受け継いだ悪魔的な存在であるならば、一連の儀式でチキンラーメンを「地獄おいしい」ものに変える行為は、ただの思い付きや暴虐ではありえない。そこから導かれる、変化――悪魔的融合を見通しての魔術であろう。
4.悪魔的な存在と化したひよこ
事実、ひよこが転じた悪魔的存在は、封じられた何かを破り、チキンラーメンと融合させている。さらに、悪魔的な存在と化したひよこは、天を翔けて太陽 (火) を思わせる卵を受け入れる。
そして下降しながらお湯 (水) を注ぐ。図像学的には、「火」は上向きの三角形、上昇運動で、「水」は下向きの三角形、下降運動で表される。上下の三角形が組み合わさったシンボルは、陰陽の和合や宇宙の秩序を象徴する。ここで、前段の場面を思い出していただきたい。悪魔的な存在と化したひよこは、完成された秩序に、異なるエレメントを加えている。これまで、表向きには卵しか投入されてこなかったチキンラーメンを混沌のものとしたのだ。ちなみに、上下の三角形が組み合わさったシンボルとはすなわち、ヘクサグラム、六芒星である。その別名は古代イスラエルの賢王ソロモンにちなんで「ソロモンの徽章」。ここでも魔術師ソロモンが暗示されていることに驚きを禁じ得ない。
5.丼から誕生する新たな世界
漆黒の翼を得て闇を翔ける悪魔的存在のひよこは、丼から新たなる世界を誕生させた。爆炎とともに成された創造は、神への挑戦とでもいうのだろうか……これは本来なら禁断の、融合・合体の魔術である。異形ゆえの能力を有し、異端ゆえに時に白眼視される。中世に医術や薬事に通じた魔女が異端視されたように、時代の教養権威、アカデミズム、つまりは一般常識から外れようとするものが受けてきた「普通ではない」烙印は重い。そもそもチキンラーメンの鶏がらはひよこの成体に由来するという側面や、チキンラーメンの開発秘話において「自宅の鶏をシメた」生け贄のエピソードなどにも思い至らざるをえないが、本旨ではないのでここでは言及しない。
ここに、悪魔の「融合魔術」によって成された「地獄おいしい」=アクマのキムラーは、大自然のエレメントを宿す禁断の秘儀を経て完成した。振り返れば、悪魔とは、異教の神を指すものでもある。先述のカイムもまた、もともとは異教の天使であり、地上に新たなる知をもたらす存在であった。アクマのキムラーがもたらすアクマ的ウマさとは、姿を変えた神、天使による託宣なのではないか。
融合は混沌をもたらしもするが、それを越えた調和は成長、進化を育む。キムラーの啓示を受けたことで、われわれの食卓はさらに進化することができるだろう。
日清が創業商品、ひいては企業体の創造主ともいえるチキンラーメンに、禁断の秘術を加えようとしている。食文化の一翼を、根底から変貌させようというのか?
禁断の袋を破り、天を翔ける翼を得たものだけが、その果てを味わうことができる。後に、チキンラーメンの歴史を振り返ったとき、後世のものはアクマのキムラーを指して、こう言うだろう。あれは、大いなる前兆 (omen) であった、と。
オー麺