ポータブル・カセットテープ・プレーヤー、ラジカセ、ポータブルCDプレーヤー、レコード・プレーヤーなど、古い音楽機器を購入したり修理したりする人々が増えて大きなトレンドになっているという。
ソフトウェア企業SEMRushが収集したトレンドデータによると、「近くのCDプレーヤー修理」のGoogle検索は2020年から2024年の間に23%増加し、「近くのオーディオ機器修理」は91%増加しました。
またStatistaのレポートによると、世界の電子機器修理サービス市場は、2021年の1220億ドル(約18兆円)から2033年には2400億ドル(約36兆円)へと倍増すると予測されています。
なぜ一部の音楽愛好家はデジタル音楽サービスに代わるものを探しているのでしょうか?
英BBCは、最新のBluetoothスピーカーやイヤホン、ヘッドホンには、古い機器のような個性が欠けているからと推測しています。
エレン・マッカーサー財団の戦略デザインマネージャー、サラ・ダッジはBBCに、こう話しています。
「市場には低価格で便利な機器が溢れていますが、人間味のない味気ない体験しか提供していません。修理をすると、そのアイテムにより愛着がわきます。そのため、人々はより充実感や満足感を得られる所有体験に魅力を感じるようになるのです」
BBCでは、もともとは電気機器の修理は趣味だったものの、需要の高まりを受けて前職を辞し、修理に専念することにしたマーク・マーハーにも取材しています。マーハーの会社パートン・エレクトロニクスには依頼が殺到し、需要は手に負えないほど高まったため、現在は自身のウェブサイトの問い合わせ欄を閉鎖しているという。
マーハーはこう話しています。
「ヴィンテージのオーディオ機器の修理は、間違いなく増加傾向にあります。人々は、ソニーのウォークマンやラジカセ、ポータブルCDプレーヤーなど、ティーンエイジャーだった頃に愛用していたさまざまな機器を修理したいと思っています。そこには多くのノスタルジーがあります」
マーハーに届くオーディオ機器の中には、依頼者がEbayなどのプラットフォームで購入した古いオーディオ機器もあるという。「当時のものは確かにより良く作られていて、最新の機器よりもはるかに修理しやすい」。
マーハーはまた、修理できる人が本当に不足しているため、需要があるとも考えているとも話しています。
ロンドンのカムデンにある修理センター「フィクシング・ファクトリー」のイノベーションおよび開発マネージャー、ダミアン・ジョーンズは、オーディオ機器は同センターに持ち込まれる修理品の多くを占めているとBBCに話しています。
「あらゆるものが持ち込まれます。古いカセット、CDプレーヤー、ヘッドフォン、スピーカー、そしてターンテーブル。古い機器の良いところは、ある程度長持ちすること。仕様を知ることもできるし、80年代までの多くの機器についてはサービスマニュアルが入手できます。オーディオ機器の中には、ケースを開けると内部の構造図があり、ネジの場所を示す矢印までついているものもあります。とても、きれいに設計されているのです」
それに対して、最近の電気機器は「壊れるように設計されている」という。
「開けて修理するように設計されていることはほとんどありません。誰も壊れるとは思っていないかのように、素早く設計され組み立てられています。メーカーは知識を共有するよりも、それを独占してきました。修理業者がそれを得られれば、修理はもっと簡単になるでしょうね」
エレン・マッカーサー財団の戦略デザインマネージャー、サラ・ダッジは、修理への動きは循環型経済への移行を支援するものだとも話しています。循環型経済とは、材料が決して廃棄物にならず、自然が再生されるシステムです。
「循環経済の原則のひとつは、製品を可能な限り長く、最大限の有用性と価値を保った状態で使用し続けることです。CDプレーヤーのような製品を埋め立て地に送れば、それは廃棄物となります。たとえリサイクルして素材レベルに戻したとしても、その素材がCDプレーヤーになるまでに費やされたエネルギーはすべて失われてしまいます」