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デヴィッド・ボウイ『Hunky Dory』に参加した多くの人々へのインタビューを通じて同作の裏話を紹介

2023/01/17 17:31掲載
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David Bowie / Hunky Dory
David Bowie / Hunky Dory
デヴィッド・ボウイ(David Bowie)のアルバム『Hunky Dory』。このアルバムに参加した多くの人々へのインタビューを通じて、このアルバムの裏話を紹介。『Kooks, Queen Bitches and Andy Warhol: The Making of David Bowie's Hunky Dory』の著者ケン・シャープが、この本からの内容の一部をGoldmine Magazineで公開しています。

■レコーディング

ミック・(ウッディ)・ウッドマンジー;
「この時期、デヴィッドは曲作りに没頭していた。『Hunky Dory』では、彼はピアノで多くの曲を書き始めていた。ハドンホール(ボウイの住居)で、彼がとてもシンプルなコードを弾いているのを聴いたことがある。その後、彼はもう少し技術を身につけた」

ボブ・グレイス(クリサリス・ミュージック):
「曲は長い間デヴィッドの頭の中にあったが、このとき、すべて彼の頭の中から出てきて、テープやアセテートに録音された。この後のベルリンで活動していた頃のようなスタジオでの仕事は、もっと即興的なものだったが、このときは、より構造化されていた。どちらかというと、60年代のように、ソングライターが曲を書き上げたら、そのうちのいくつかはカヴァーされ、いくつかはカヴァーされずに、キャロル・キングやニール・セダカがやったように、後にアルバムを作るというものだった」

ウッドマンジー:
「ニール・ヤングのアルバムを聴いたとき、ある曲でドラマーがずっとシンバルを叩かず、叩いたときにすごく意味があることに驚かされた。だから、『Hunky Dory』でもそういうアプローチをとったんだ。曲を理解するための方法を見つけること、リズムやアプローチを見つけること、そして曲を支配することなく、その曲に合った方法を見つけること。それは、曲に奉仕することだった。

曲を作り上げるのに、あまり時間がなかった。スタジオに直行して、“よし、この曲をやろう”となることもあった。『Hunky Dory』の曲については、本格的なリハーサルをした記憶がないんだ。デヴィッドと作ったアルバムでは、レコーディングの前に曲のリハーサルをすることはなかった。例えば、“Life On Mars”のように、どんなアプローチにするか少し考えることはあった。“Life On Mars”の場合は、クラシックの雰囲気を持った曲だったので、どうすればロックの観客の前で演奏できるようなロック・テイストにできるかを考えていた。ジョン・ボーナムがクラシックを演奏しているのとほぼ同じような感じだった。演奏もセンス良くするように心がけたよ」

トレヴァー・ボルダー:
「デヴィッドがアコースティックで曲を弾いてくれて、僕らはスタジオに座ってそれを覚えて、あとはひたすら演奏するだけだった。僕が初めて参加したアルバムで、スタジオに入るのも初めてだった。最初は緊張したけど、すぐに落ち着けたよ。ランスルー(通しテスト)は問題なかったんだけど、テイクを撮るときに赤いランプが点くのが嫌で、いつもそれが気になっていた。“もしミスをしたら、すべてが台無しになってしまう”という感じだった。アルバムを作るのは楽しくてエキサイティングだったけど、ある意味、曲の良し悪しよりも、自分のパートをしっかりやることの方が重要だった。アルバムのミキシングが終わるまで、その曲の良し悪しはわからない。家で聴いたら“ああ、いいアルバムだ!”と思ったよ」

ケン・スコット(『Hunky Dory』プロデューサー):
「僕は、デヴィッドの前2作『Space Oddity』『The Man Who Sold the World』にエンジニアとして参加していた。デヴィッドは成功しなかったので、しばらく休んでいた。エンジニアとして、僕はボードの前に座ってプロデューサーに“ここはこうしたらいいんじゃない?”などといったコメントをすることにうんざりしていた。当時トライデント社にいたロイ・トーマス・ベイカーやロビン・ジェフリー・ケーブルなどのエンジニアと一緒で、僕らはプロダクションに移行したかった。デヴィッドは彼の友人をプロデュースするセッションを予約した。僕は、以前一緒に仕事をしたことがあったので、そのセッションに参加することになった。お茶の時間に、僕はエンジニアリングからプロダクションに移りたいという話をした。すると彼は“ちょうど新しいマネージメント契約を結んだところで、僕をスタジオに入れたいと言っている。自分でプロデュースしようと思ったんだけど、僕にそれができるのかどうかわからない。一緒にプロデュースしてくれないか?”と言われ、もちろん、イエスと答えたよ」

グレイス:
「ケン・スコットの家にデヴィッドと一緒に招待されて、『Hunky Dory』の曲を全部選んだ。 ケンの家の床に座って、すべてのデモを聴きながら、どの曲をアルバムに収録するか考えた」

スコット:
「デヴィッドの最初の2枚のアルバムを一緒に仕事をしたとき、彼には才能があると感じていたけど、スーパースターだとは思っていなかった。彼から共同プロデュースを依頼されたとき、理想的な状況だと思ったんだ。彼は才能のある人だし、アルバムは何の意味もなさないかもしれないけど、自分が何をしているのかを知るのに役立つだろうしね(笑)。でも、彼の曲を聴いているうちに、突然、大きな電球が光った。“なんてこった、こいつは本当にすごくいい!”」

ウッドマンジー:
「当時、デヴィッドがこんなにいい曲を書くなんて、誰も知らなかったんだ」

グレイス:
「僕は選考チームの一員だったけど、最終的にどの曲をレコーディングするかは、デヴィッドがケンと一緒に決めた。ビフ・ローズの“Fill Your Heart”という曲があったんだけど、デヴィッドはアルバムに収録しない方向で考えていたようだった。僕は、僕の恩師であるデレク・グリーンが音楽出版社としてこの曲をリリースさせたがっていることを知っていたので、なんとかデヴィッドを説得して、この曲をアルバムに収録することになった」

ウッドマンジー:
「曲としての素材もそうだけど、ライヴでやらなければならないこともわかっていたはず。いろんなスタイルの曲がある中で、僕はただのソングライターです、というようなものはあまりいらないと思っていた。ユニットとして聴かせることにこだわった。

トライデントは、ソーホーにあるこじんまりとしたスタジオだった。ワードゥアー・ストリートからクイーン・アンズ・コートという小さな路地を入ったところにあった。ガラス戸があるだけで、そこにあるとはわからないだろうね。スタジオはいい雰囲気だった。飾り気がないんだ。長い階段を下りるとスタジオで、その先にはコントロールルームがあった」

ボルダー:
「コントロール・ルームは小さくて、壁に巨大なスピーカーがあった。スタジオを見下ろすと、そこには大きなスピーカーがあった。ドラムブースはコントロールルームの下にあったので、ドラマーを見ることはできなかった」。

ウッドマンジー:
「クイーンはそこで初期の作品を録音していた。実際、“Bohemian Rhapsody”はそこで録音したと思う。エルトン(ジョン)もそこで録音した」

スコット:
「僕はトライデントでジョージ・ハリスンと一緒に 『All Things Must Pass』を制作したことがある。クイーンの最初の数枚のアルバムはそこでやった。(ローリング)ストーンズも少し入ったことがある。エルトンはそこでレコーディングをした」

ウッドマンジー:
「ジェネシスもそこで仕事をした。ある晩、フィル・コリンズからパーカッションを借りたのを覚えているよ」

スコット:
「トライデントは素晴らしい場所だった。僕にとっては、ロイ・トーマス・ベイカー、ロビン・ジェフリー・ケーブル、そして僕というチームが、エンジニアリング・スタッフの中心的存在だった。全員が自分のニッチなサウンドを持っていたので完璧だった。トライデントにはほとんどどんなものでも持ち込むことができ、僕たち3人がかなり良い音に仕上がるので、チームとしてうまく機能していた」

ウッドマンジー:
「デヴィッドは誰よりも、トラックが出来上がるタイミングを把握していた。3回以上テイクを重ねることはなかった。最初のテイクは、たいてい“アレンジがうまくいっているといいな”という感じだった。トレヴァー、ミックと僕は、お互いに顔を見合わせながら、コーラスがどこにあるのかヒントを出していた。常にギリギリの状態だった。

ケン・スコットは、それぞれの曲に合った音を出すことを心がけていて、それが時代を超えたクオリティを生み出している。今、ラジオで、いくつかのインディーズバンドと並んで“Life On Mars?”や“Changes”を聴いても違和感がない」

スコット:
「僕にとって、ほとんどの素晴らしいことは、適切なチームと一緒に起こる。僕とデヴィッドとミックの間には、直感的な関係があった。ミックはこれらのアルバムで信じられないようなことをやってのけた。ギターに関しては、ロノ(ミック・ロンソン)に指示を出すこともあれば、“OK、あそこで弾こう”と言われることもあった。ロノは何が必要かを本能的に理解して、それを手に入れることができた。ストリングス・アレンジャーとしても、彼ははとても個性的だった」

ウッドマンジー:
「“Life On Mars?”はミックが初めて手がけたオーケストラ・アレンジだった。彼はとても神経質になっていた。トライデントには、BBCのセッション・プレーヤーで構成されたストリングスセクションがあったけど、彼らは1音でも正しく書かれていないと馬鹿にして、いい音を出そうとしないんだ。ミックはすごく緊張していたんだけど、実際に演奏してみると、“このロックンローラーたちはスタジオで一緒にいたい人間ではないかもしれないけど、演奏はいいんだ”ということに気づいた。彼らはそれを受け入れて、本当に頑張った。ミッは、ほっとしたようだった」

グレイス:
「『Hunky Dory』の基本はピアノだけど、これは“Space Oddity”でも演奏しているリック・ウェイクマンが担当している」

リック・ウェイクマン:
「デヴィッドが何曲か聴かせたいというので、ケント州ベッケナムの彼の家に呼び出された。私の人生の中で、最も鮮明な音楽体験のひとつだよ。彼の家に着いた私は、彼の美しいグランドピアノの前に座り、彼はボロボロの12弦ギターで『Hunky Dory』に収録される予定の全曲を演奏した。素晴らしい曲が次から次へと出てきて、私は本当に驚かされた。デヴィッドによると、曲はピアノから発せられるようにしたいとのことで、私は何を弾くか自由裁量を与えられた....私にとっては完璧なシナリオだ! その後、車で家に戻り、妻に“今、最高の曲を聴いたよ”“このアルバムは絶対に傑作になる”と言ったことを鮮明に覚えている。こんなことを言ったのは初めてだったし、それ以来、そんなことを言ったことはない」

スコット:
「もし2分30秒の曲だったら、2分40秒でヴォーカルを完成させただろう。ほとんどすべてのヴォーカルがファーストテイクだった。それくらい、彼は素晴らしかった」

ウッドマンジー:
「『Hunky Dory』や『Ziggy』の時代のデヴィッドの声がすごく好きだった。鮮やかさがある。何を歌っているのかわからないということがないのが、特に気に入っているところだよ。彼は歌に感情を込めることができるので、彼の歌を際立たせるのに適したドラム・パートを考えようと思った」

■アルバムタイトル

グレイス:
「僕は休暇をとってサリー州に行った。帰ってきてからデヴィッドは僕に何をやってきたのか聞いてきた。彼はいつも他人にとても興味を持っていた。僕は、サリー州のイーシャーにある“ザ・ベア”というパブを経営していたピーター・シュートという風変わりな男の話をした。彼は、典型的なイギリス人で、“こんにちは皆さん、ラー、ラー、ラー!”な感じだった。パブを経営しているにもかかわらず、彼はかなり酔っぱらっていて、いろいろなことを叫び始めていた。みんなが“ハロー、ピーター、元気かい?”と言うたびに、彼は(酔っ払いの口まねで)“ハンキー・ドリー!”(※最高だよ、うまくいっているよ)と言っていた。すごく変な感じだった。そのことをデヴィッドに話したら、次の瞬間、彼はアルバムのことを『Hunky Dory』と呼ぶようになったんだ(笑)。デヴィッドは、人が言ったことを拾い上げる。ある人が、彼は植物の花粉を全部取ってしまう蜂のようだと言っていたけど、まさに彼は物事を吸収するんだ」