ザッパ・トラストが監修、アーメット・ザッパとテープ倉庫管理人のジョー・トラヴァースがプロデュースを務めた『ザッパ/エリー』には、トラヴァース本人と地元エリーのジャーナリストであるダン・シェルが当該公演やレコーディングに関する詳細なライナー・ノートを寄稿している。膨大な情報量を誇る著作『9 Years Of Rock: The Story Of The Concerts At The Erie County Fieldhouse (原題) 』を執筆したシェルは、そこで公演や会場に関して知られざる裏話を明かしてくれている。ブックレットにはライナーのほか、デヴィッド・スミスが撮影したザッパの写真やオリジナル・テープの写真、実際の公演のフライヤー、公演に関する当時の新聞の批評記事、そして熱烈なファンによる当該批評への痛烈な反論までを掲載。一方で肝心の音源は、ビル・ヘナイ、ブライアン・クロークス、デイヴィ・モイア、クラウス・ウィーデマンというザッパのエンジニア・チームが4トラック・テープにプロの技術で録音したもの。それを基にザッパ・トラストの作品を長年手掛けてきたクレイグ・パーカー・アダムス (ウィンズロー・コネチカット・スタジオ) が新たにミキシング、ジョン・ポリート (オーディオ・メカニクス) がマスタリングを施した。アダムスとポリートのふたりは、歴史的なコンサートを可能な限りクリーンな音質で届けられるよう、テープの補修も手がけている。
『ザッパ/エリー』は、4月8日から、まずはUNIVERSAL MUSIC STOREで予約の受付が開始。限定版には、Fantoonsがデザイン/制作したポスター (ザッパの唯一無二のキャリアに纏わる小ネタが散りばめられたもの) が同梱される。
このツアーのセットリストには、マザーズ・オブ・インヴェンションのデビュー・アルバム『Freak Out!』 (1966年) と『We’re Only In It For The Money』 (1968年) の収録曲で構成されたメドレーも含まれているが、オリジナルとは大きく異なるアレンジが施されている。その特別なアレンジが聴けるのも、そして10周年記念ツアーの公演が全編に亘り聴けるのも、この『Zappa/Erie』が初めてとなる。ディスク1と2にまたがった同公演の聴きどころを絞るのは難しいが、特に「Cosmik Debris」や、ファンキーな好アレンジによる「Pygmy Twylyte」、「Montana」、「Cheepnis」、1曲を通してカウベルが効果的に使用された「Inca Roads」、そしてオリジナルとは劇的に異なるサウンドとなった初期マザーズの楽曲群 (「Hungry Freaks, Daddy」、「Wowie Zowie」、「How Could I Be Such A Fool」、「Harry, You’re A Beast」、「The Idiot Bastard Son」など) が挙げられるだろう。上述の通り公式リリースは今回が初となるものの、関係者からのサウンドボード・カセットテープの流出により長らくブートレグ盤が出回っていたことで、以前からこのステージの評判は高まっていた。また、ザッパはこの公演から「Son Of Orange County」と「More Trouble Every Day」の一部を人気の高いアルバム『Roxy & Elsewhere』に使用している。それから50年近い歳月を経て、マスター・テープからミキシングされた全編の音源がついにリリースされるのだ。
同じ年の秋、ザッパはエリーのギャノン・オーディトリアムを訪れた。その頃、彼のバンドは人数を縮小し、トンプソン、デューク、ブロック、トム・ファウラー、そしてグループに復帰した名手ルース・アンダーウッド (パーカッション) というメンバーになっていた。当日、ザッパはインフルエンザに苦しんでいたものの、プロとしてステージを完遂。強力なバンドとともに聴き応えのあるパフォーマンスを披露している。ディスク3と4に収録されたこの日のセットリストは、数ヶ月前のそれと大きく変わったものになった。中でも、ザッパが普段は歌わない追加パートを歌う”1974年アレンジ”の「Dinah-Moe Humm」、時期によりアレンジが大きく異なる「Inca Roads」、「Penguin In Bondage」、「Uncle Meat」、そして「Don’t Eat The Yellow Snow」などがハイライトになるだろう。それに加え、「Dupree’s Paradise」でザッパが披露するギターの即興演奏は、「Zoot Allures」や「Any Downers」をはじめとするその後の楽曲の片鱗を感じさせる。同公演でザッパは自身の体調不良のほか、言うことを聞かない観客にも悩まされていた。座らずにステージへの視界を塞ぐ前方の観客と、それに腹を立てた後方の観客が揉め事となり一触即発の状況になったのだ。この事態の収拾のため何度か演奏を止めるザッパの奮闘ぶりも、音源から聞き取ることができる。ザッパ自身も同様のトラブルが発生した「Geneva Farewell」を含む『You Can’t Do That On Stage Anymore, Vol. 5』などを発表していることから、これはある種の伝統とも言えるだろう。なお、ディスク3にボーナス・トラックとして収録された「Montana」と「Get Down」は74年のインディアナ州サウスベンドでの公演からの音源だが、これはザッパ自身が自らミックスダウンを済ませていたものの、これまで未発表となっていたトラックである。
Disc 1 1. “Someone Has Just Asked Me…” 2. Cosmik Debris 3. Pygmy Twylyte 4. The Idiot Bastard Son 5. Cheepnis 6. Inca Roads 7. Montana 8. Dupree’s Paradise (Intro)
Disc 2 1. Dupree’s Paradise 2. It Can’t Happen Here 3. Hungry Freaks, Daddy 4. You’re Probably Wondering Why I’m Here 5. How Could I Be Such A Fool 6. I Ain’t Got No Heart 7. I’m Not Satisfied 8. Wowie Zowie 9. Let’s Make The Water Turn Black 10. Harry, You’re A Beast 11. The Orange County Lumber Truck 12. Oh No 13. Son Of Orange County 14. More Trouble Every Day 15. Camarillo Brillo
Disc 3 1. Montana 2. Get Down 3. Tush Tush Tush (A Token Of My Extreme) 4. Stink-Foot 5. RDZNL 6. Village Of The Sun 7. Echindna’s Arf (Of You) 8. Don’t You Ever Wash That Thing? 9. Penguin In Bondage 10. T’Mershi Duween 11. The Dog Breath Variations 12. Uncle Meat 13. Building A Girl 14. Dinah-Moe Humm
Disc 4 1. I’m Not Satisfied 2. Montana 3. Dupree’s Paradise (Intro) 4. Dupree’s Paradise 5. Don’t Eat The Yellow Snow 6. Tush Tush Tush (End Vamp) 7. Oh No 8. Son Of Orange County 9. More Trouble Every Day
Disc 5 1. The Purple Lagoon 2. Stink-Foot 3. The Poodle Lecture 4. Dirty Love 5. Wind Up Workin’ In A Gas Station 6. Tryin’ To Grow A Chin 7. The Torture Never Stops 8. City Of Tiny Lites 9. Pound For A Brown 10. You Didn’t Try To Call Me 11. Rudy Wants To Buy Yez A Drink 12. Would You Go All The Way?
Disc 6 1. Black Napkins 2. Terry’s Erie ’76 Solo 3. Patrick’s Erie ’76 Solo 4. Wonderful Wino 5. The Purple Lagoon (Outro) 6. Stranded In The Jungle 7. Dinah-Moe Humm 8. The Purple Lagoon (Outro) 9. Camarillo Brillo 10. Muffin Man 11. The Purple Lagoon (Outro) 12. You Didn’t Try To Call Me 13. Black Napkins 14. The Purple Lagoon (Outro)