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円盤レコード以前の音の記録媒体「蝋管」 ニューヨーク公共図書館がデジタル化作業中 約100年ぶりに聴ける謎の音源も

2022/04/06 15:07掲載
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Early opera recordings on wax cylinders 1900–1904, recorded by Lionel Mapleson. Robert Kato Lionel/New York Public Library
Early opera recordings on wax cylinders 1900–1904, recorded by Lionel Mapleson. Robert Kato Lionel/New York Public Library
円盤レコードが登場する前、音を録音して再生するための商業的媒体として広く普及していた蝋管 (wax cylinder) 。全体をワックス(蝋)で作った分厚い筒を記録媒体とした方式で、当時の人々は様々なものを録音しました。ニューヨーク公共図書館では現在、デジタル化の作業を進めています。同図書館が所有するさまざまな蝋管の中には、誰も聴いたことのない謎の音源もあり、録音から約100年ぶりに聴けるようになると期待されています。デジタル化を終えた後は、リスナーが自宅のパソコンからアクセスできるようになるという。

蝋管が登場した1890年代、それは革命的な出来事でした。人々は空白の筒をエジソン蓄音機に取り付け(あるいは、表面を削ることで再利用することができたので市販の筒の蝋を削って)、様々なものを録音しました。

ニューヨーク公立図書館の音楽・録音物担当のアシスタント・キュレーターであるジェシカ・ウッドは、米国の公共ラジオNPRに「私がここに来た当初は、このフォーマットについてよく知りませんでした。しかし、今は私のお気に入りのフォーマットです。未知のものが多く、録音されて以来聴かれることのなかったものを発見することができるから」と話しています。

ウッドによると、蝋はとても壊れやすいので、あまり聴かれたことがないという。初期の筒はエジソンの機械で再生すると数十回で劣化し、手で長く持つと割れてしまうそうで、また、蝋管自体にラベルが貼られていないため、謎のままになっているものが多いとのこと。

「誕生日パーティーかもしれない。あるいはアメリカ国歌だったり、日常かもしれない」とウッドは当時の社会史がわかるかもしれないと期待しています。「私は誕生日パーティーを心から願っています」と笑っています。

同図書館は最近、カリフォルニア出のニコラス・バーグが発明した「エンドポイント・シリンダー&ディクタベルト・マシン」という機械を購入しました。これはレーザーと針の組み合わせにより、壊れたりひびが入ったりした蝋管でもデジタル化することができるものです。

ウッドは「エジソンはこのフォーマットを、カセットテープのような録音フォーマットとして考えていたのです。だからフォーマットは管なんです。円盤ではとても無理でした。また、フィールドレコーディングされたもの、民俗学的資料、ホームレコーディングなど、円盤には存在しない素晴らしい資料が蝋管にたくさんあるのもそのためです」と述べています。

同図書館が所有する重要なコレクションのひとつに、前世紀末にメトロポリタンオペラの司書だったライオネル・メイプルソンが録音した『Mapleson Cylinders』があります。メイプルソンはリハーサルや公演を録音しており、第一次世界大戦前のオペラ歌手とフルオーケストラの共演を聴くことができる唯一の方法として注目されています。

音楽・録音音声部門の司書であるボブ・コソフスキーは、『Mapleson Cylinders』は「録音史上初の大規模なライヴ・レコーディングです」と述べています。当時のスターの中には、現代のオペラ歌手ではありえないような歌い方をする人もいるそうです。コソフスキーは「これは当時の状況を知るための鍵穴のようなものです。必ずしも今日そのようにする必要はないのですが、どんな選択肢があるのか、歌手や演奏家、観客がこれらのことをどのように考えていたのか、私たちの考えとは大きく異なることを知ることができます」と述べています。

図書館では、すべての蝋管をデジタル化するのに2、3年かかるという。しかし、それが終われば、全国のリスナーが自宅のパソコンからアクセスできるようになり、100年以上前の人々の声や考え方に触れることができるようになるはずです。