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畔柳ユキ×増田勇一×マーティ・フリードマン トークイベント<畔柳ユキ『メタル現場主義』発売記念〜メタル現場放談>レポート到着

2017/11/20 19:56掲載
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メタル現場主義 / 畔柳ユキ
メタル現場主義 / 畔柳ユキ
ロック・フォトグラファーとして長年にわたり数々のメタル・バンドと関わり続けてきた畔柳ユキが、秘話と秘蔵写真満載の目撃証言集『メタル現場主義』を10月30日に刊行。その完成・発売を記念したトーク・イベント<畔柳ユキ『メタル現場主義』発売記念〜メタル現場放談>が11月10日に行われています。トークの相方は、畔柳と同様に『BURRN!』誌の創刊メンバーだった増田勇一。またマーティ・フリードマンも飛び入り参加しています。レポート到着

以下、シンコ−ミュージックより





写真左より増田勇一さん、畔柳ユキさん

ロック・フォトグラファーとして長年にわたり数々のメタル・バンドと関わり続けてきた畔柳ユキさんの秘話&秘蔵写真満載の目撃証言集『メタル現場主義』。その発売記念トークイベント「メタル現場放談」が11月10日、新宿NAKED LOFTにて開催された。トークの相方は、ユキさんと同様にヘヴィ・メタル専門誌『BURRN!』の創刊メンバーだった増田勇一さんが担当。途中なんとマーティ・フリードマンも飛び入り参加した濃密な3時間をレポート!

増田勇一(以下増田):本日は他にも色々イベントが開催されている中お集りいただきありがとうございます、司会進行をつとめさせていただきます増田勇一です。では、畔柳ユキさんに存分に語っていただきます、ユキさんどうぞ!(場内大拍手)
畔柳ユキ(以下ユキ):みなさんありがとうございます。
増田:こういうトークライヴはユキさんもラモーンズ界隈でけっこうやってらっしゃいますよね。
ユキ:私、ラモーンズのファンクラブもやってますので、そっちでは明日もイベントがあったりして(笑)。後、ロック・カメラマンとして呼ばれたりすることもあります。

この日はユキさんが徹夜で作成した、モーターヘッドのレミー・キルミスターやメタリカのラーズ・ウルリッヒをはじめとした様々なアーテイストの貴重なアウトテイクや秘蔵写真が貼られたパネルボードが展示されており、BURRN!誌創刊当時の雑誌作りの裏側が覗ける仕掛けになっていた。他にも現地でゲットしたアイアンメイデンの韓国公演ポスター(メンバー全員のサイン入り)やレイヴンのジョン・ギャラガーから貰ったギターが展示され、まずはその解説が行われた。

増田:今日、実は飛び入りのゲストが急遽決まっちゃったので、話す内容を大幅に変更して進めるんですけど、まずは本ができた感想と、反響について伺いたいんですが。
ユキ:本の発売日(10月30日)にちょうどラモーンズのイベントをやっていて、最後のメンバーのC.J.ラモーンが来日していたんです。
増田:あ、途中ですが、ゲストが到着したようなので。

マーティ・フリードマンがカメラ・クルーに撮影されながら入場(会場大騒ぎ)

増田:改めて紹介する必要もないですが──自己紹介してもらおうかな。
マーティ・フリードマン:マーティです、こんにちは。(場内大拍手)いや、僕、近所だからユキさんがこんな近いところでイベントをやっていたら、来ないわけないじゃん。
増田:あのカメラは何用なんですか?
マーティ:全世界向けの僕のドキュメンタリー映画です──2年前から始まって、アメリカでのライヴとか日本での色んな場所を撮ってます。で、今日のこのイベントは撮りたいって言われたので連れて来ました。すみません、途中で入ってきて。で、この本ってチョー面白い。
ユキ:ありがとう、マーティ!
増田:もう読んだの?
マーティ:読みやすいじゃん、僕の日本語でも。ウラ話ばっかりで、僕はもちろん最初に自分のところを確認した。で、次のページはメガデスの話で両方とも100%本当です!ウソはないです。
ユキ:ないですないです、もちろん。
マーティ:素晴らしい、おめでとうございます。
ユキ:うれしい!
マーティ:これは海外で発売して欲しいですよ、向こうはこういう情報は絶対ないです、なぜかと言うとアメリカのロック・ミュージシャンの日本での行動とか行為は、アメリカのとは違うんです。いくら怖いロック・スターでも日本に来たらなぜか柔らかくなるんです。
増田:(マーティを指して)ここにサンプルがあります(笑)。
マーティ:それは気づいてるでしょう?僕はあまりにも柔らかくなって、このキャラになっちゃったんですけど(笑)。わがままな悪い人でも日本に来たらなぜかちょっと丁寧になって。
ユキ:なるほどね、でもマーティは最初からずっと同じよ。柔らかい。本に書いた通り優しいし、友だちみたいな関係からスタートしたんですけどそのままなんですよ。今日も、“行くよ〜”って来てくれて。
マーティ:皆知ってると思うけど、ユキさん、特にお世話になってます。日本に住もうかどうかというときにユキさんの家に居候させてもらってました。

当時、もうすでに有名人になっていたマーティが渋谷に仕事で行くことになり、ユキさんが気軽に“バスで行けば”と渋谷行きのバス停を教えたところ、ギターを持ったマーティがバス乗り場に並んだらそれを目撃され、翌日“渋谷行きのバス停にマーティ・フリードマンそっくりの奴がいた!!!”と界隈で大騒ぎになってしまった──などのエピソードが語られた。

マーティ:ユキさんの家って普通じゃないんですよ、ロックの楽しいものがいっぱいあって、僕が個人的にも大好物のモノが普通に置いてある。ジョニー・ラモーンのギターが弾きたい放題!
ユキ:最初“ラモーンズが好きだ、話がしたい”というところから始まったから、今もこういう友だちみたいな感じで。
マーティ:僕の最初の引っ越しも手伝ってくれたし(笑)。
増田:ユキさんはマーティの家に行ったことはないの?
ユキ:ある!アリゾナの豪邸。プールはあるし螺旋階段だし(笑)。
増田:最初マーティと会ったのは取材?
ユキ:違う、“ラモーンズのアルバムのライナーノーツを読んで感動したんで、会ってください”っていう人がいるって聞いて。それがマーティ・フリードマンだっていうのでびっくりしちゃった。富士急ハイランドでマリリン・マンソンとメガデスとかが出る野外イベントがあって、それで来日してたときですね。

現在マーティの最新アルバム『ウォール・オブ・サウンド』から2曲ミュージック・ヴィデオがネットにアップされていて、2曲目の「セルフ・ポリューション」にはマーティのバンドの日本人メンバーが初めて登場している。“海外のツアーでは僕よりも人気がある、日本の代表としてサイコー!”とマーティのお墨付きだ。さらに現在、自身の音楽関連の原稿も書きためていて、その出版時期や形態とかは未定。こちらは“本を書くのは本当に疲れるし辛い、ミュージシャンはある程度エゴイストじゃないといけないけど、僕はその部分は足りない。だから本を作るのは本当に尊敬します”とのこと。

増田:ユキさん、マーティにそこまで言われたら、『メタル現場主義』の第2弾出すべきですよ。まだ書いてないこともたくさんあるということですし。
ユキ:ありますね。
マーティ:ウラ話が(笑)。
ユキ:言えないような話もあるし、“なんだよコイツ!”みたいなミュージシャンの話とかもあるし──、これは今日あとでしようかなと思ってるんですけど(笑)。これでも原稿は半分以上カットしたんですよ。ミュージシャンのヴァリューもあるし、写真のポジが退色して使えなかったり、モノクロ・ページで印刷したらバンドにそぐわない仕上がりだったので止めたり、とか。
マーティ:(ミュージシャンの)載った基準を教えてください。
ユキ:(笑)まずカラー・グラヴィアを決めたんです。でも印刷するとポジが奇麗に出てくれないのもあって難航しました。正直言って、カラーはこのバンド、モノクロはこのバンドというのはそうなかったです、私の中では30%くらい。ファンクラブを作ったレイヴンとか、カメラをやるきっかけになったオーヴァーキルとかはカラーでお願いしたんですけど、後はミーティングと写真を見て選んだかな。

マーティが気にしたミュージシャンの選択基準から、話は創刊当時のBURRN!編集部の話題に。

ユキ:だって創刊当時はバンドのロゴとかも全部手描きだよ、今だったらロゴがデータとして送られて来るじゃない、それを当時はLPのジャケットの上にトレーシング・ペーパーを貼って鉛筆で縁取りして、それをマジックで塗って紙焼き機で印画紙に焼いて──。
マーティ:それはすごい頑張ったじゃん、ヨーロッパのファンジン(同人誌)とか普通のタイプライター文字を使うだけで。
ユキ:そこは絶対拘りたいのよ。
増田:手作りだけどすごい細かいことはやったよね。
ユキ:これって日本的?
マーティ:日本しか頑張らないね。今はデスメタルのロゴとか読めないけど。
ユキ:あれは描けない(笑)。
増田:思い出したんですけど、BURRN!のロゴに使われてるひび割れ文字、これを当時の新年号にインレタみたいにしてA〜Zの文字をシールで付録にしたんですよ。あれは会社のデザイナーさんが既存の書体を変型させて、一文字ずつホワイト・ペンでひび割れを手描きで入れたんです。それでA〜Zまで作ったあとで編集長が、“小文字も作って”って(笑)。もう勘弁してくれ!って世界で、結局小文字は作らなかった。
ユキ:もう全部手作りですよ。
増田:まぁ、でもユキさん、次は本当にマーティさんに全面協力してもらって、何か一冊作るっていうのは面白いんじゃないかと思うんですけど。
ユキ:作る?
マーティ:よろこんで!何でも。(場内大拍手)
ユキ:じゃあ、乞うご期待っていうことで。マーティとはこの調子なので、面白いもの作れるよね。
マーティ:絶対作れると思います。たぶんマニア過ぎるかも。
ユキ:たしかに。でも、ま、後でミーティングしましょう(笑)。
マーティ:レイヴンの女性ファンと、ラモーンズのファンクラブで会えると思ってなかった。だってメタルの女性ファンって少ない上に、レイヴンってメタルの中のメタルだよ。
ユキ:趣味が似てるからね。

この後、ユキさんがレイヴンのファンジンをこっそりBURRN!編集部で作って会員募集もしていた秘話や、マーティのファンクラブではこの後カラオケ大会が催される話題なども披露された。

ユキ:今日は来てくれてありがとう。
マーティ:チョー楽しかったです。
ユキ:本当に1時間くらい前に“行けるよ!”って来てくれたんです。
増田:マーティさんありがとうございました!(場内大拍手でマーティを次の撮影現場に送り出した)
ユキ:ありがとう!
増田:ふつう近いからって来てくれないよね。
ユキ: “仕事はなんとかするから”ってメールが入ってて。
増田:でも、日本語の上達ってすごいですね、あの向上心。
ユキ:一生懸命やってるからだよ。
増田:というわけで、何の話してたんでしたっけ?
ユキ:まだ一歩も進んでないよ(笑)。
増田:まず今日の前半は雑誌作りの現場の話をしようと思ってたんですけど。ユキさんはデザイナーとしてBURRN!に入られたんですよね。

BURRN!創刊前、ユキさんと増田さんが最初に出会ったのは、新宿ツバキハウスで行われていた伊藤政則さんのイベント「サウンドハウス」。そこで酒井編集長に履歴書を届け、そのメタル愛と筆力故にユキさんはデザイナーとして、増田さんは編集者として採用された──という話から、先ほどのバンド・ロゴを次々手描きで作成した話、破れたユキさんのジーンズをページのデザインとして地紋に使った話などアナログ手法大活躍の雑誌作りのエピソードが語られた。やはり根底にあったのは誌面作りへの拘りだった。

ユキ:やっぱりバンドの良さをどう出してやろうか、かっこ良さはここじゃないかって、初来日のバンドだったらyoutubeとかも見てから行く。この辺りの曲がメインだな…とか知ってライヴに臨むのが好きなの。
増田:今ならそれができるけど、当時はそれができなかった。
ユキ:だから、本のオーヴァーキルの頁にも書いたけど、ヴォーカルがマイクロフォン・スタンドを使ってカッコよく歌う写真を見ていたので、スタンド・アクション込みの写真をカメラマンにお願いしたのに、撮ってきたのが顔のアップだった。だから、これじゃあオーヴァーキルの魅力を伝えられない!って思ってカメラマンになった。ま、そんな風に自分なりにページ作りには拘ってはいました。

そうは言ってもユキさんは<イタズラ好き>で、校了した原稿の色の掛け合わせの数字をこっそり変えたり、中綴じの本のセンターのホッチキスで隠れる部分の原稿に“腹減った”とか落書きをしたり──といった武勇伝が増田さんから紹介された。

増田:元々ユキさんってどんな音楽聞いてたんですか?
ユキ:今もそうだけど、昔から雑食ですよ。当時、ミュージック・ライフってメタルもパンクもプログレもみんな載ってたじゃない。
増田:アーティスト単位で最初に夢中になったのは?
ユキ:ゲイリー・ムーア。その前はベイ・シティ・ローラーズとかのアイドルやビートルズ。あとはザ・フーですね。ラモーンズよりもレイヴンよりも、とにかくフー。ライフタイム・バンドはザ・フーなんですよ。

ザ・フーを観にロンドンに行くことになったユキさんだが渡英前日にアクシデントで足にけがを負い飛行機に乗れず、翌日なんとか乗ったものの靴が履けないため、<ゴジラの足のスリッパ>を履いて搭乗したとのこと。そのままロンドンの街も歩きライヴ会場もそれで通したそうだ。

増田:ザ・フー、ラモーンズとくると。
ユキ:多分リフ好き。
増田:違うんだけど、同じところがあるよね。
ユキ:マーシャルが並んでるようなライヴが好き。
増田:やっぱり爆音のリフとかがないと消化不良というか。
ユキ:多分そう。リフが好き。
増田:いろんなライヴ現場があると思うんですけど、メタルの撮影現場の楽しさって何ですか?
ユキ:メタルは気を遣わなくてすむし(笑)。どういうお客さんが来るかわかってるし。例えば“このバンドだったら大合唱が入るな”とかわかってるから、どうやって撮ろうとかって企みもあって。
増田:だいたいこういう風に盛り上がる──というのも想像できる。
ユキ:できるし、想像できるのがロック・フォトグラファーだと思ってる。あっ、偉そうなこと言っちゃったんだけど(笑)。例えばこの本にスレイヤーの見開きカラー2ページっていうのがあるんですよ。で、あのページは編集のときにすごいモメたの。スレイヤーだからスレイヤーっぽいのがいいじゃない、でもこのトム・アラヤはライトが片方から入ってきていて、スゴいスタイリッシュでカッコ良かった。メタルをカッコよく見せる──というのを考えたら、人物が片方のページにしか映っていないけど、これはどうしてもこの形で載せたかった。こういう見せ方をしたいなって。
増田:創刊当時のBURRN!もそうだったけど、好きなものを最大限にカッコよくやって。それが売れるものになったらラッキー、そういう感じだった。
ユキ:そうだね。私があまり変わってない人なので、カッコよく、楽しくって思ってこの本は作ったかな。
増田:思い込みと愛情が、結果的に拘りにつながって。
ユキ:思い込みだね。
増田:そう、思い込みですよね。会ったこともないアーティストを思い込んで作ってるわけだから。でも、さっきのオーヴァーキルの話もあったけど、カメラマンってなろうとして簡単になれるもんじゃないじゃないですか。
ユキ:偉そうにイキがってスタートしたとは思いましたね。その頃スラッシュ・メタルが出てきてた時期で、<ピタッと止まった写真だけがカッコいいものじゃない>っていう意識は自分の中で芽生えてきた頃だったから。
増田:撮りたい絵があったんだよね。
ユキ:あったあった。覚えてるのは増田くんに、こういうのがいいって、サウンドガーデンのアルバムを見せて。
増田:クリス・コーネルが髪を振り乱して顔が見えないやつ。
ユキ:スラッシュ・メタルはこういうのがいいんじゃないか──みたいな話をして。でもそういうものを撮ろうとしても、なかなか撮れなかった。それで修行をしなきゃダメだなと思った。音楽雑誌の編集部にいればビッグネームを撮る機会が多いから度胸はつくんだけど、技術の方がついていかないから。あと好きなバンドがいるからニューヨークに行こうと会社を辞めて渡米。
増田:決意してからしばらく時間があって、いろいろ計画してましたね、「ニューヨーク貯金」とか。
ユキ:お金がないから。
増田:画期的なことをやってて、当時ユキさんはお弁当を持ってきてたんだけど、一つ作るのも二つ作るのも同じだっていうので、二つ作って一つを大野さん(編集部員)に売ってましたからね。(場内爆笑)
ユキ:後、当時いた別の編集部員にも作って、私、お弁当係やってました。
増田:給食当番。
ユキ:それでお金を貯めて、100万円貯めてニューヨークに行きました。でもたったの100万円だよ、1年間住むのに大丈夫かな…と思いつつ。
増田:結果1年だった?
ユキ:そう。湾岸戦争が始まってスタジオがみんなクローズで、仕事がなくなっちゃったから。それでここにいてもしょうがないから帰ってきて、中目黒の写真のスタジオで修行。
増田:そこでスタジオ・ワークの修行をしたと。なるほどね、湾岸戦争がきっかけか。
ユキ:でも、まぁいい時代に行ってたかなぁって感じはしたけど。
増田:というわけで、ここで一旦休憩を挟んで後半に行きたいと思います。

休憩後は、様々な取材現場でのミュージシャンのエピソードが語られた。
ユキさんが描いた撮影用絵コンテのイラストを見てトム・アラヤの笑いが止まらなくなり、彼が笑い上戸だったと判明したこと、ユキさんが20年来疑問に思っていたヴォイヴォドのPV撮影の謎を、ライヴ終了後にもかかわらずアウェイが気軽にイラストを描いて撮影方法を明かしてくれたことなど、ミュージシャンに対してインタビュアーとは違うアングルで接しているカメラマンならではのコミュ二ケーションが生んだエピソードの数々が披露された。

ユキ:カメラマンって、本当に撮影時間が限られて、5分しかないってときもあるんです。だからその瞬間にその人とコミュニュケーションをとらないとならないので、これはインタビューも同じだと思うんですけど、質問でも二つ目くらいで相手に“お前よくわかってるな”って思わせた方がいいんですよ。そうやってコミュニケーションをどんどんとっていって。
増田:限られた時間の中での撮影ってことでいえば、この本の最初のページに載ってる<レミーが立ててる中指>はよく撮れましたね。
ユキ:ドキドキしたけど。
増田:“ちょっと私に中指を立てて”なんて、なかなか言えない。
ユキ:実はレミーって、絶対悪い人じゃないじゃん。そういうこともあったし、逆にもし、“なんだ!お前!”って言われても、レミーなら、まぁいいかっていうのもあって。私には悪意はないから。でもアレをやってくれたのは一回だけ。今日も連続して撮影したカットを見てきたんだけど、タバコを吸って煙を吐くポーズをしてくれたとき、私が“ちょっと中指を立てて”って言ったら瞬間ジロッと睨んで、次に指を立てて、すぐにタバコを吸う──っていうのが写ってた。本当に1カット撮れただけ。
増田:そのときにカメラのピントが甘かったりしたら。
ユキ:怖い〜〜。
増田:本当に一瞬の勝負ですから。
ユキ:集中力を高めていかないと。
増田:レミーの撮影はその中指のときだけですか?
ユキ:ライヴは全部撮ってて、あ、取材もしてます。インタビュー中に撮ってて、そのときもなんとなく思ったけど、レミーはそんなに<極悪>じゃないんで、話はできたかな。ただやっぱりオーラがスゴいんで。ミュージシャンは、そのときオンとオフどちらの状態かっていうのを見ながら撮るようにはしてますけど、例えばマイケル・シェンカーとか、何かの間違いでキレたらヤバイじゃない(笑)。
増田:言い換えると、読めないっていうこと?
ユキ:読めないし、気分で変わる可能性もあるじゃない。撮影が中止になった伝説とかも見てるので、一日密着取材っていうときは緊張はしたよね。ま、今のマイケルはいい人というか全然生まれ変わっているのですごく協力的で。これは本にも書いたんだけど、お寺の境内で座って、一回休憩しようかってなっても、彼はギターが大好きで休憩最中もギターを弾き出すんです。ギターを弾いてるときはリラックスしてて、これが、見たこともないようないい表情するんだよね。
増田:最近マイケル・シェンカー笑顔が多いですよね。
ユキ:ふとした瞬間、ギターを弾いてる瞬間は2、3枚撮らしてもらったけど
。それで空気が悪くなると困るわけで、気をつけるようにはしてる。だから距離感とか空気感はすごい大事だなぁって思う。

もう一人“行動が読めない”ミュージシャンとして名前が挙ったのがスティーヴン・タイラー。二度目の来日のとき、ホテルの和室での撮影となり当時カメラマンのアシスタントで現場に入っていたユキさんが脱いで揃えておいたROBOTのラバーソウルを、スティーヴン・タイラーがゴミ箱に隠してしまった──。

増田:あれは隠したとかじゃなくて、スティーヴンがあの靴を気に入ってて、もしかしたらガメようとしたのかもしれない(笑)。ちょっとイタズラしたかったんでしょうね。“ROBOTっていいなぁ〜”って独り言を言いながら見てましたから。他にはどうですか?意外な素顔を見たとか。
ユキ:意外じゃなくてイヤな奴はいるよ。
増田:誰?
ユキ:ドン・ドッケン(場内驚愕)、あいつだよケツ触ったの。
増田:ドン・ドッケンにケツを触られたフォトグラファー。撮影のときに?
ユキ:そう、ジョージ・リンチとの2ショットを撮るとき。
増田:それはいつ頃?
ユキ:LOUD PARK。
増田:前々回。たまたま両方が一緒にいたのでちょこっと共演したやつ。
ユキ:そうそう。写真が撮れますよっていうことになって、その時期の2ショットって貴重じゃない。だからきちんと心構えをして行ってるのに、“いいケツしてんな”みたいな感じで(笑)。(場内爆笑)なんだよ、コイツって。そういうときはちゃんと“やめてくれる!Don’t touch!”って言うけどね。それでジョージ・リンチは苦笑い。でも、日本に来てまでケツ触る?
増田:ふだんからそうなんだろうね〜。
ユキ:だから、そういう奴なんだって。
増田:他には?例えばロニー・ジェイムス・ディオとかは?
ユキ:ロニーはいい人。集合写真とかでも自分の身長のことがわかってるから前の方に出てポジションを決めてくれたり、おなじみのメロイック・サインも向こうからやろうか?ってしてくれて、カメラマンのことをちゃんと考えてくれる。だからそういう意味ではこの本の中で書いた中で、ベストはメタリカのラーズ。メタリカなのに本当になんでもやってくれるから。同じようにロニーもすごい。
増田:ラーズ・ウルリッヒに関してはインタビュアーとカメラマンでは感じ方が違う。
ユキ:人を見て?
増田:そうじゃなくて、ラーズは何でもやってくれるんだけど、話が長い(笑)。写真を撮る方からしたら色んな表情をしてくれるからいいんだけど、インタビューでは同じ話が何回も出てくる。それ、さっき聞いたから──って言えないし。1本のインタビューで一番長かったのはラーズなんですよ、120分テープが往復して止まっちゃった。その後もう1本テープを入れてやったんですけど、あまりに長かったのである翻訳家の方に頼んで文字に起こしてもらったんです。
そうしたら“増田さん、同じ話ばっかりだったので省略しときました”って。(場内大爆笑)
ユキ:そのインタビューに似た空気って写真撮るときもラーズはあるよ。もういいのに──ってくらい色んな表情をしてくれて。でも、それはカメラマンにとってそれはウェルカムだから、たったの4〜5分でもノッてくるんだよね。彼は俳優でもイケルんじゃないかな。
増田:そういう動きができない人は?
ユキ:私が持ってるイメージで、腕を組んでもらったり、横を向いたり、色々ポーズのお願いをして。

ここで、何気ない立ち姿も絵になっているラーズのアナザー・カットや、本にはモノクロ・ページ掲載になってしまった金髪のジョーン・ジェットなどレアなオリジナルのプリントが公開された。

増田:この本は「現場主義」ってタイトルだけど、中にはそれを貫けないような現場もあるよね。
ユキ:マネージャーの伝達ミスでライヴ撮影の曲数が減っちゃったマリリン・マンソンとか。オフィシャルで入ってたから、5曲撮るつもりで撮ってたら、それが伝わってなかったのでマリリン・マンソンから水をかけられて、セキュリティに羽交い締めされて連れ出された。すぐにマネージャーがすっ飛んで来て、“言うの忘れちゃった”って(笑)。
増田:洋楽は最初の3曲だけ撮影OKっていうのが多いから。
ユキ:だから、曲によってのメンバーの動きとか、コーラスで集まってくるタイミングとかをyoutubeを見て予習しておいて、ちょっとしたコーラスでも連写したりそういう工夫はしてる。現場主義だから。
増田:チープ・トリックとか、最初の3曲の中に「ハロー・ゼア」は入れてくれるなよ──って思ってたら、しっかりやっちゃって(笑)。あれは2分少ししかないんだよね。
ユキ:そんなこと言ったらラモーンズなんか全部短いよ、すぐ終わっちゃう(笑)。
増田:ドリーム・シアターだったら頭3曲でもね。
ユキ:プログレだったらいいんだけどね(笑)。あと、マイケル・モンローとかは汗をかくから、アンコールが終わって一回汗を拭いて、髪をセットし直してから2曲撮影OK。そういうのもある。
増田:汗をかいてるのがカッコいいバンドもあるし。
ユキ:バンドによって違う。衣装を着てるバンドとかは気を使ってるよね、最初の方に撮影とか。あと、撮りたくないのがマスク被ってるバンド。顔が全然変わらないから(笑)全然つまらない。頭文字がSとか、北欧のLとか。撮り甲斐がない。だからそういうバンドは町に出て撮る方がいい、八百屋の前とか結構怖かったりして。
増田:怖いか笑えるか、どっちかだね。
ユキ:ともかく、ミュージシャンを撮影するときは、最初の“ハーイ!”って言う1秒間がすごい大事。必ず笑顔で、敵意は持ってないです──っていう雰囲気で。ていうのは、敵意じゃないけどヘヴィ・メタルは好きじゃないです──って雰囲気が出てるカメラマンもいるわけ。音楽もあんまり聴いてない感じで。だから、<私はそうじゃないです>っていうのを言葉じゃなくて、出すようにはしてる。あとは、「昔見た時のライヴより、今回の方が良かった」という感想をわざわざ言った方が相手も安心してくれるし、こいつは俺たちのライヴを興味を持って見ているんだなと思ってもらえる。
増田:そこはもうテクニックというより生活の知恵に近いね。でも、そういった機転がないと限られた時間の中で、現場を最大限に上手く使うのは難しい。
ユキ:そうですね。
増田:で、長年やってきてカメラマンとして一番の大変化はフィルムがなくなってデジタルになったことだと思うんですよ。だってサマーソニックとか屋外のライヴで雨の中フィルム・チェンジをする必要がなくて、バッテリーさえ持てばかなりの枚数が撮れる。この先カメラマンの仕事って極端に変わることってありそう?
ユキ:昔はカラー・フィルム、モノクロ・フィルムってあったでしょ、で、フジ・フィルムはちょっとブルーがかってるとか特色があったけど、今はそれがない。でもその分カメラがどんどん変わっていくから買わなきゃならない、だからお金がいくらあっても足りない。
増田:設備投資が必要。
ユキ:私はフィルムの方がよかったなって思ってるとこもあって。フィルムをやってたから、絶対的に<今、シャッターを押さない>っていうのがある。全部押してたら何十本にもなるし、特にフェスティバルとか全曲OKっていうのが多いから、それでフィルムの時代は500本、600本持って帰るので大変だった。背中のリュックに詰め込んだフィルムが重くて、前のめりに倒れて、リュックからフィルムがばーっと地面にばらまかれたこともあったし。だからそれをやってきたから、私はムダ押しはしないように鍛えられてると思う。今シャッターを押すチャンスっていうのはわかるので。
増田:最初からデジタルだったら。
ユキ:それは多分できない。1曲目、5曲目、8曲目で全部で100カットしか撮れないってなったときに、考えて撮れるかなっていうのはある。私は多分撮れると思う。何となく、勝手に手が動く。それは絶対フィルムをやってたからなの。ニューヨークで撮ってたときは36枚撮りのフィルムを1日2本って決めてたんです。フィルム代も高くて買えなかったし、だから今日は2本でこのバンドを撮るというときに、シャッターを押すのを我慢する瞬間もあって、踏みとどまったり。
増田:72枚の内で何枚キラー・ショットを撮れるか。
ユキ:あと5枚は最後用に残しとこう──とか、練習になったんじゃないかな。
増田:そういう意味ではいい時代の現場を過ごしてきたなって感じですね。

ここで、ユキさん増田さんが持ってきてくださったTシャツなどのプレゼントじゃんけん大会が行われた。最後はユキさんに撮影してもらえるという権利をかけてのじゃんけんとなった。

増田:あ、そうだ、最後に本に登場している、伊藤さん、酒井さん両巨頭の撮影時のお話をしないと。
ユキ:この「現場主義」は自分の本なので、コンセプトを持って撮りたかったんです。で、どうしても私、ヒプノシス(ピンク・フロイド『原子心母』やUFO『宇宙征服』、イエス『究極』などのジャケットを制作したチーム)の本を見て80年代を育ってきたので、できればピンク・フロイドとかUFOが好きな人を被写体にしたかった。だから伊藤さんを撮るんだったら絶対にピンク・フロイド。で、こういうのを撮りたいって伊藤さんに言ってシャツをいっぱい持ってきてもらったんです。“おぉいいよ、シャツ何枚持っていけばいいんだ?”って。
増田:さすがに、話が早いね。
ユキ:で、イエスの『究極』風を撮るときは新宿の高層ビル街でロケハンをしておいたんだけど、撮影許可を取ってなかったので、撮り始めたら警備員が出てきちゃって。そしたら伊藤さんは口を動かなさないで、“来たぞ〜来たぞ、早く撮れ早く撮れ”って。だから来るまではしっかり撮って、来たら、“来た!”って逃げて。(場内大爆笑)伊藤さん申し訳ない!って思いながらも、それをやってくれて。これは酒井さんもそうなんだけど、二人とも取材現場も撮影現場をたくさん体験してるから、やっぱリ<ロック・ファンが撮影されてる!>って思った。
増田:そういう現場での臨機応変さっていうのは。
ユキ:現場を知らないとできない。で、元上司の酒井さんの方はオジーのライヴ盤のジャケを真似してポーズをして、顔を出したくないってしっかり家からマスクを持ってきてくれて(笑)。本当に二人とも仕事が早いんです、撮影自体は10分もかかってなくて、ゴチャゴチャ言わずにやるやるってやってくれて、本当に楽しかったです。だから現場にいる人たちは撮りやすい。
増田:求められているものがわかってるし、二人とも撮られて楽しいからこういう写真になったんだと思う。
ユキ:そうね。実はインタビューも伊藤さんも酒井さんも、この本に掲載した3倍以上は話してくれてるんですよ。それ全部面白くて、本当は丸ごと載せたいくらいだったけど、ページの都合であの量になった。そんなインタビューのあとに撮影したので、さらにうまくいった。取材現場ではインタビューの内容が良いとそのあとに行われる撮影もイイ気分のまま入ってくれるのでうまくいくことが多いんです。逆もあるけど。
増田:こうやって話してても、あ、あれはって思い出したりするので、さっきマーティも言ってたけど、ユキさん、この本の続きってあっていいんじゃないですか。(場内大拍手)
ユキ:ありがとうございます。
増田:今回書き切れなかったこととか、書いていて思い出したエピソードとか、写真もポジが退色しちゃったのを加工して使ったりして、是非またこういう本を作って欲しいですし、こういう機会に色んな話を披露して欲しいと思います。
ユキ:頑張ります。(場内大拍手)
増田:ということで本日はお集まりいただきありがとうございました。
ユキ:長い時間ありがとうございました。(場内大拍手)

このあと続けてサイン会が行われた。