時は1990年12月3日、松田優作の死後1年と少しが過ぎた日、池袋サンシャイン劇場に来場した約800人の観客のみが目撃した、幻のステージ。それは40歳という若さでこの世を去った松田優作を偲んで、彼の死の一年後に友人たちが開催した、一夜限りのライブだった。CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOWと銘打たれたそのライブは、松田優作を架空のクラブの不在するオーナーに見立て、音楽、演劇、ライブペイントなど、様々なアートが融合した不思議なステージであった。演奏された曲はすべて松田優作の持ち歌であり、そのほとんどが、松田優作自身が作詞した曲。水谷豊扮するボーイ頭に導かれて、原田芳雄、内田裕也、宇崎竜童、世良公則、シーナ&鮎川誠、桃井かおり等々が扮する、どこかワケアリの客たちが、次々と現れては、歌い、思いを語り、そして去っていくという斬新な演出であった。この舞台を企画したのは原田芳雄、製作したのは黒澤満、演出したのは映画監督・崔洋一。松田優作の盟友である崔は、松田への鎮魂の思いをこの舞台に託し、幻の一夜を創出したのだった。しかし、豪華な出演者たちがつむぎ出したその特別な一夜は、その後一切世に出ることは無く、伝説のライブとして語り継がれた。黒澤の遺品整理で見つかったテープ、これこそが、何十年にもわたって所在がわからなかったライブの収録素材であったのだ。
【解説】 CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOWの開催から29年。あれから長い年月が過ぎたが、松田優作の人気はいまだ衰えず、傑出した俳優として、今や伝説の域に達している。しかし、伝説化されるにつれ、彼の実像はおぼろになってゆく。
そこで、本ドキュメンタリーでは、水谷豊、桃井かおりをはじめ、CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOWを表で、陰で支えた者たちに新規にインタビューを敢行。松田優作の盟友・崔洋一の導きによって、生の言葉がつむぎ出され、素顔の松田の膨大な証言が寄せられた。けれど、インタビューを重ねるほどに、松田優作は一筋縄ではいかない様々な「顔」を見せ始める。いったい彼は「狂気をはらんだ男」なのか「求道者」なのか「一緒にいる時はいつも笑っていた人」なのか……